【人材育成の極意を探る】kakimoto armsが大切にしているのは、人材を「育てる」のではなく「育つ環境」をつくること kakimoto arms 教育統括 古市浩弥さん#1

サロンの運営に集客や売上と並んで重要なものが人材の育成。優秀な人材を何人も輩出し、「このサロンで働きたい」、「ここでキャリア形成をしたい」という希望者が集まるサロンに、人材の育成についてお話を伺います。

今回ご紹介するのは、1976年に自由が丘から始まった『kakimoto arms』で、2020年より教育統括を担当なさっている古市浩弥さん。kakimoto armsでは、いち早くスタイリスト以外にカラーリスト、ネイリストなど8つの職能ごとにスペシャリストを育成してきました。ハイクラスな客層に柔軟に対応するスタッフたちの高いスキルは、どのように身につけたのかを探ります。前編では、古市さんが敬愛するkakimoto armsの創設者、柿本榮三さんから脈々と伝わっている人材育成の考え方について伺いました。

お話を伺ったのは…
kakimoto arms 教育統括 古市浩弥さん

理美容専門学校を卒業後、1997年kakimoto armsに入社し、自由が丘店に配属される。2002年トップスタイリストに昇格し、自由が丘CREO店、銀座店の店長を歴任する。2020年に教育統括に就任する。

サロンのお客さま層は自立した女性。だからこそスタッフにも自立してほしい!

古市さんが人材を育成するうえで参考にしているのが、創業者・柿本榮三氏の著作。

――古市さんがkakimoto armsに入社を決めた理由は何ですか?

専門学校を卒業する前に会社説明会があって、そのときに「kakimoto armsはスタイリストを求めている」と言われたんです。どこも欲しいのは雑務をこなすアシスタントで、「技術者を育てる」と言ってくれるサロンは少なかったんです。しかも「言われた通りのことしかできないロボットはいらない」とか「サロンの歯車にしかならない人材はいらない」とか、まだ学生の自分たちに期待しているのが伝わって、「ここで働きたい!」と思いました

――古市さんが入社なさったときは、すでに創業から20年。「老舗」「大手」のイメージがあるサロンには、ルールや規制がたくさんありそうですが…。

自分たちの全てのベースとなる「目指すべきもの=理念」を共有することがとても重要だと思っています。それを実現するための手段は、各々がそれぞれのやり方で考えて行動していけばいい。創業した柿本は、常々「富士山を目指す(理念を共有すること)のは一緒だけれど、登り方は自由だよ!」と言ってます。
技術的なことに関しては、もちろんベースとなるカリキュラムはしっかりあります。基本を身につけていないと応用が利きませんから。でも、そこから先の技術や接客などに関しては、本人に任せています。

kakimoto armsは意志を持った「自立した女性」をターゲットにしています。「自立したお客さまを施術するには、僕たちも自立していなくてはならない」というのが柿本の教えです。細かなことまで指導していると、いつの間にか指示があるまで動けない「指示待ち」のスタッフになってしまう。そうではなくて、自分から状況を見て、考えて、それから判断できるスタッフになってほしいんです。

――教えてしまった方が手っ取り早いし、指導する方もラクですよね。

確かに時間はかかりますが、僕たちは人を育てるのではなくて、育つ環境を整えることに重きを置いています。例えば、あるスタッフがお客さまに対して失礼なことをしたとします。このとき頭ごなしに叱ることはしません。なぜ、そんなことをしたのかを尋ねます。そのスタッフがお客さまのためを思ってやったことが、結果的に失礼なことになってしまった…という場合は、「今度は違うアプローチでやろう」と指導します。お客さまにとっても、スタッフが頭ごなしに怒鳴られて、僕たちがただ謝るだけでは、なんとなく気分が悪いですよね。お客さまのことを思って起こったと分かれば、「なぁんだ」という気持ちになれると思います。

でも、そこにスタッフの考えや意識が何もなかった場合はきっちり叱ります。何の考えもなく行動することは許されません。自分で考えて「いい」と思ったことを行動に移す。それがkakimotoイズムなんです

「いいところ」だけを見て指導。自信をつけることが何よりも大事

技術のスキルを上げる教育と人間力を鍛える教育の2つをつなげるのが、古市さんが担っている教育統括。

――世代がどんどん若くなって、「自分で考えるより教わった方がいい」という考え方が増えていませんか?

この業界は離職率の高さが悩ましいんですよね。世間的にはZ世代は冷めていると言われていますが、僕はまったくそう思っていません。ウチのスタッフには熱い想いが必ずあると信じています。秘めた想いがあっても表現するのが苦手、熱くなれるものがまだ見つかっていないだけだと思います。

僕がkakimoto armsに入社して25年になります。この間で身につけたことを、後輩たちににできれば1~2年で伝えたい、と思っていました。そうすれば、みんなで早く成長できるじゃないですか。「回り道させたくない」という気持ちが強かったんですね。

でも、時間をかけて身につけたことって、一生ものなんです。回り道が必要なこともあります。理解できるまで10年かかることもあれば、3年で分かる人もいる。効率や要領のよさだけを求めてはいけないんですね。

――古市さんが直接サロンで指導していたなかで、気をつけていたことは何ですか?

「自信をつけさせる」ことですね。

ひたむきに努力をしているのに伸び悩んでいるスタッフが何人もいました。伸び悩んでいることで、自信を失っているようにみえました。自分ごとに置き換えてみて、「自分がトップスタイリストになったとき、自信だけはあったけれど足りないことだらけだったな」と思い出したんです。伸び悩んでいた後輩には、自信がありませんでした。今は結果が出ていなくても、彼らが日々積み重ねている努力に自信を持ってもらえたら、結果は後からついてくるものです。それで彼らに仕事を任せきることで自信につなげよう!と考えました。「ここが違う!」というダメ出しもなし。いいところだけを見て、そこを伸ばしました。自信さえつけば、技術力や人間力もあとからついてくるものです。

――自分のことを見守ってくれる先輩がいるのは心強いですね。

後輩のためでもありますが、自分のためでもあるんです。後輩たちから学ぶことは多いですよ。若い後輩たちから学ぶ機会はそうそうありません。お互いに学び合う「共育」なんです

営業が終わってから勉強会を開くと、「営業時間外なのに残業代はつかないの?」という不満の声があがるサロンもあるそうです。確かに今、美容業界全体で雇用形態に変化が起きているのは事実。そんななかでこういった不満が社内から出ないことに、ウチのスタッフたちを誇りに思います。
勉強会は後輩たちが技術を学ぶ会ですが、教える者にとっても学び直すいい機会になります。後輩たちに技術を教えるには事前の準備が必要で、どう教えれば分かりやすいのか工夫しなければなりません。もう一度、基本を学ぶいい機会なんですよ。だから僕は後輩たちに「教える機会を与えてくれてありがとう」と言っています

スタッフの証言
kakimoto arms GINZA トップスタイリスト・奥 貴博さん

先輩から学び、自分も後輩に伝えたい「自由な分だけ責任も大きい」ということ

2013年に入社して、9年目になります。僕がkakimoto armsを選んだのは、「2年でスタイリストデビューができる」と言われたから。下積みを早く終えて、技術者になりたくて仕方ありませんでした。トントン拍子でスタイリストになったものの、トップスタイリストになかなかなれず、入社5年目にして、初めてぶち当たった壁でした。

何が足りないのか悩んでいるとき、寄り添ってくれたのが古市です。練習にも一緒に付き合ってくれて、「技術のレベルが上がっても学ぶことがある」ことや「疑問がなければ成長しない」ことに気づかせてくれました。古市はただの「職場の先輩」ではありません。何でも話ができるメンター的な存在で、もう感謝しかありません。

自分も後輩を持つようになって心がけているのは、「相手の意志を尊重する」ことです。もちろん後輩より自分の方が技術力は上。でも後輩の感性と発想力を尊重して、リスペクトをもって接するようにしています。一緒に切磋琢磨できればいいなと思います。


老舗サロンでありながら、人材の育成に対する考え方はとってもフレキシブル。だからこそ人が集まり、個性的なスペシャリストたちが育っているのかもしれません。後編では、スタイリストやカラーリストなど8つの職能に分けている理由と、今kakimoto armsが目指していることについてご紹介します。

撮影/森 浩司

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Salon Data

kakimoto arms GINZA
住所:東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル3F
電話:03-5537-1088
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