結婚・出産後も美容師を続ける!明確な目標と入念な準備で思いを実現【美容師 acoさん】#1
美容師としてのサロンワークやクリエイティブ、経営、子育て…とアクティブな日々を送るacoさん。ハツラツとした笑顔でお客様の前に立つ姿は、若いスタッフたちの指標にもなっています。仕事と子育てを両方楽しむacoさん流の工夫やこだわりは、ワーキングママはもちろん、これから結婚・出産をするかもしれない女性が自分らしく働くヒントになりそう。
前編では、結婚や第一子妊娠・出産のタイミングで仕事とどう向き合い、どんなことを感じながら職場復帰したのかを伺いました。
お話を伺ったのは…
MILK/MURIEL OMOTESANDO
ディレクター acoさん
2009年、美容室「MILK」オープンと同時にスタイリストデビュー。26歳で店長に就任し、27歳で結婚。現在は前オーナーからサロンを引き継ぎ、パートナーとともに経営に携わる。美容師として働きながら2人の男の子のママとしても奮闘中。水〜土曜の10〜17時という時短勤務でサロンワークを行なっているが、出産前と変わらず雑誌やヘアカタログなどの撮影にも引っ張りだこ。
目標をクリアすることで社内恋愛を実らせる
――結婚前の、美容師としてのターニングポイントを教えてください。
お店で作品撮りをしていたのですが、スタイリストになってから2度目につくった「ゆるふわパーマボブ」の作品がヒット。ホームページや集客サイトに写真を載せたところ、どんどん指名数が伸びたんです。売上につながり、26歳の時に店長に就任させていただきました。
すごく嬉しかったんですけど、「店長って何するんだろう?どうしよう?」って(笑)。そのときはとにかく、毎日お客様をたくさん施術して、しっかり売上をつくり、その姿を見せていくしかないなと。
――27歳のときに同じサロンに勤めるパートナーと結婚されたんですよね。
実は社内恋愛禁止だったので、内緒でおつきあいをしていたんです。交際や結婚の意志を伝えたら、どちらかが…おそらく私がお店を辞めてと言われるかもしれない。それで、お店を辞めずに結婚するためにふたりで目標を決めました。具体的な売上金額を定めて、それをコンスタントにキープしようって。
目標が明確だったからか、無事に達成して結婚できました(笑)。ふたりとも「MILK」が初めて勤めたサロンでしたし、すでに何年も働いていたので、当時のオーナーも理解してくれたのかなと思います。
――結婚後、どんな変化がありましたか?
結婚の時点では、働き方も生活も交際期間中と変わりませんでした。ただ、スタッフやお客様に隠さなくていいというのは本当に気持ちが楽で、さらに仕事がしやすくなりましたね。
内緒で交際中は、お客様との会話のネタの取り合いになったことも!お出かけした話をしたいけど、行った場所が同じだとおかしいですからね。「このネタは私が話すから、言わないで!」って(笑)。
妊娠中もギリギリまでサロンワーク。仕事の引き継ぎは綿密に!
――赤ちゃんを授かったのはいつですか?
29歳の終わり頃でした。私はつわりがひどいタイプで、その期間が何より苦しくて。妊娠がわかったのも、営業中にものすごく気持ち悪くなったのがきっかけ。お客様と会話するのさえ大変で、普段はとてもおしゃべりだから心配されるのですが、まだ発表できる段階でもなく…。
つわりを乗り越えたあとは、妊娠9ヵ月までサロンワークを続けました。出産経験のあるお客様には、「無理せず休んだら?」とも言われましたが、本当に仕事が楽しいのでギリギリまで働きたくて。
――身重の体で働くのも大変ですよね。周りからはどんなサポートがありましたか?
私はカットするだけの状態にしてもらいました。カラーやパーマの薬剤のニオイがダメになってしまったので、そのときはアシスタントや他のスタイリストがサッと代わってくれたんです。スタッフルームで少し横にならせてもらったことも何度もあります。
――産休に入る前、お客様とのコミュニケーションをどうされましたか?
9月半ばから3月末まで産休をいただいたのですが、産休前はこのままお客様を逃がしてしまうのではないかと不安でした。表参道は美容室激戦区ですから、私の休みをきっかけに別の店に行ってしまうかもしれません。それは避けたいと思って、「4月に絶対戻ります!」と伝えました。
さらに、お客様の来店サイクルに合わせて具体的な回数の話もしてみました。「2回だけ他のスタッフにバトンタッチして、そのあとは私がまた担当します」とか。すると、多くの方が待っていてくださったんです。
――仕事の引き継ぎはどのように?
お客様もいろんなタイプがいらっしゃる。話し好きな方、静かに過ごしたい方、とにかく高い技術を求める方。それを見極めて、他のスタイリストとお客様のマッチングを考えながら、バランスよく引き継いでもらいました。
これは仕事に復帰してから感じたことになりますが、他のスタイリストに自分のお客様をつなぐ勇気が、本当に大事だったんだなと。産休・育休期間中はもちろん、復職後に時間がなかなかつくれないときも、お客様はお店に留まってくれた。そして、私がいるときにまた来てくれるようになった。お客様にもスタッフにもすごく感謝しています。
念願の復帰後、1日24時間では足りない毎日が始まる
――復帰のための準備はどうされましたか?
保育園探しは子供が生まれる前からスタート。10月に出産予定だったので、お腹にいるときからいろいろ調べて保育園を見学して、近くの園に申し込みをして。しっかり策を練って計画的に進めました!
――お客様に4月に戻ると約束しましたもんね。お休み中に気持ちは揺らぎませんでしたか?
すぐに復帰したいという気持ちは変わりませんでしたが、目の前の子供とも離れ難くて、葛藤する時期もありました。ただ、ずっと家にいる生活は私には向いていないと、つくづく実感。お客様やスタッフとしゃべりたいし、とにかく外の世界に出たいと思いました。
私には、仕事と育児、半々くらいのバランスがちょうどいいみたいです。
――いざ復帰してみて、特に大変だったことは何でしょう?
1日24時間じゃ全然足りない!(笑)
とにかく自分なりのペースをつかむまでが大変で、1年くらいかかりました。これまでよりサロンに立つ日数や時間を減らして働いていたので、予約が取りづらいと言われることもあったり。自分としてもお客様をたくさん担当したい気持ちが強かったので、その点は辛かったですね。
――子育てしながら美容師を続けることに関して、周囲の協力体制はいかがでしたか?
同業者である夫は、一番の理解者でもあります。もめることもありましたが、子供が寝たあとにたくさん話をするように。朝は子供を保育園に送ってもらうなど、私がなるべくお客様に向かう時間を確保できるように協力してもらいました。
うちのお店では出産したスタイリストは私が初だったのですが、スタッフもみんなサポートしてくれました。日曜日は子供の預け先がないので、子連れで出勤することも。そんなときは、手の空いたスタッフが代わる代わる子供を見てくれたんです。だから、うちの子もスタッフのことが大好き!みんなを名前で呼ぶくらい懐いています。
仕事が大好きで、家族やスタッフが大好きで、いつも笑顔のacoさん。「8月末に出産して育休中のスタッフがいます。その子も来年の4月に復帰して、私と同じように働きたいと言っているんです」と、嬉しそうに話す姿が印象的でした。
後編では、コロナ禍での第二子出産のこと、仕事と子育てを両立する工夫、今後の夢や目標についてお聞きします。
取材・文/井上菜々子
撮影/喜多二三雄