復帰直後は焦りや葛藤も。自分の気持ちに折り合いをつけることが必要でした【美容師 TOMOMIさん】#1

TOMOMIさんは数多くの顧客を抱え、トップレベルの売り上げを長年キープしている人気美容師。5歳になるひとり娘を出産したときは、驚異的な早さでサロンワークに復帰。産休・育休による失客はほぼゼロだったそうです。同じ美容師であるパートナーと協力して子育てをしながら仕事に邁進し、2021年から原宿の「K.e.y」に活躍の場を移しました。

前編では、これまでの美容師としての経歴やターニングポイント、妊娠・出産後の働き方、当時感じていたことなどをお聞きしました。

お話を伺ったのは…
K.e.y
ディレクター 小池友美(TOMOMI)さん

都内2店舗を経て、2021年4月から「K.e.y」に所属。美容師歴は18年。「メンズトレンド大賞」初代グランプリを獲得するなど、メンズヘアや女性のショートヘアに定評があり、雑誌の撮影やセミナー等でも活躍。5歳の女の子のママであり、子育ても美容師の仕事も「楽しみながら両立したい」と精力的に取り組んでいる。パートナーは「K.e.y 勝どき」の代表を務める小池康友氏。

「安定より挑戦」を選んだことと、お客様の言葉がターニングポイントに

昔から変わらず大切にしているのは、お客様との関係性。「その人のいろんな部分を汲み取って、ヘアスタイルを提供することを心がけています」とTOMOMIさん。

――これまでの経歴を簡単に教えていただけますか。

美容師歴18年目になりますが、「K.e.y」の前に2つのサロンに勤めました。最初のお店は吉祥寺にある大型店で、1年半ほどでスタイリストデビュー。すぐに売り上げも確立できましたし、不安は何もなく充実した日々を送っていました。先輩方には「原宿とかの第一線に行かないの?」と言われることがあったのですが、「どこに行ってもやることは同じ」と思い、あまり興味がありませんでした。

でも5、6年経った頃、「安定よりも挑戦を選びたい」という気持ちが芽生えて。ちょうど原宿にオープンしたばかりのサロンで働くことになりました。そこでは10年間勤め、店長も任せていただきました。

そして結婚・出産を経て、2020年に新型コロナウイルスの流行があって…。いろいろな気づきがあり、環境を変えようと思って今に至ります。

――TOMOMIさんといえばメンズヘア&ショートヘアが得意というイメージがありますが、いつから強みに?

実は、メンズヘアでもレディースヘアでも、どのレングスでも好きなんですよ!何でもできるオールマイティな美容師になりたいと思っていたので。

きっかけは原宿のお店に移ったときですね。吉祥寺のお店のときからのお客様が、オーナー宛に電話をくださったんです。「TOMOMIさんのことは人としてとても好きだけど、技術はうまくない。向上心があってお店を移ったのは知っているし、もっと上達してほしいからよく見てあげて」って。私がいいと思っていることが必ずしも正解ではないんだと、そのときに気づいてすごく葛藤しました。

男性のお客様だったので、そこからメンズヘアや短めのスタイルをとにかくたくさん練習したんです。2、3年、記憶がないくらい頑張ったら、いつの間にかメンズ雑誌の撮影に呼ばれるように。だから、意図的にではなく自然と私のブランディングができあがっていたという感じです

――そのお客様のおかげで今につながっているんですね。

そうですね。その方が、「TOMOMIさんダメだな」と思って来なくなったら、本当に美容師を辞めようと思っているくらいです。幸い、まだいらっしゃっています(笑)。

美容師としての充実期に妊娠。「頼るだけじゃなく何ができるか」を模索

TOMOMIさんは当時の店で初めてのママ美容師。「ほかにも女性スタッフがいるので、道筋をちゃんとつくって、自分がロールモデルにならないと」と感じたそう。

――パートナーとの出会いは、どんなきっかけだったのでしょう。

前のお店でのイベントに来ていて、そのときは「近所のサロンの人だな」という認識だけ(笑)。その後、とある雑誌で美容師が別の美容師をリレー形式で紹介していくファッションスナップ企画があって。そのときに思い出したんです、そういえばおしゃれな美容師さんいたな〜と。そこからやり取りをするように。

本当は、交際相手は違う職業の人がいいなと思っていたんですよ。とにかく私は仕事に対して一生懸命だったので、同じ美容師なら自分より頑張っている人じゃないと納得できない気がして…。でも、なんだかんだでおつきあいすることになりました。

――そういう厳しい目をクリアした方だったんですね!

クリアしました(笑)。交際半年くらいでいきなりプロポーズされてびっくりしたのですが、おつきあいをすることになった時点で、このまま結婚するんだろうなって思っていました。

――素敵ですね〜!妊娠されたのはいつ頃ですか。

結婚して1年後くらいでした。授かったことはもちろん嬉しかったのですが、仕事に関してはこのタイミングかぁ…という感じで。

――どんなタイミングだったのですか。

「メンズトレンド大賞」を取ったり、セミナーが増えてきたり、どんどん忙しくなっている時期で。妊娠がわかったときは、ちょうど「ドリプラ」(株式会社ナプラ主催の「DREAM PLUS」)というコンテストに出る直前でした。いろいろなことが重なりすぎて、当時は不安の方が大きかったですね。それまでのように働けなくなるのは、目に見えていましたし。

でも当時のオーナーは「一緒に考えていこう。働くママがいるということ自体が、お店のブランディングになる」と言ってくれましたし、周りのみんなもサポートしてくれました。だからこそ、頼るだけじゃなくて私から何が提供できるかを考えて、みんなが納得するような見せ方を実践しようと思ったんです

――納得するような見せ方というのは、例えばどんなことをしたのですか。

私ができないことを誰かにやってもらう代わりに、まだ誰もやっていないことを探しました。自宅でできる事務作業だったり、データ分析だったり。朝の時間に後輩たちの練習を見てあげるとか、そういう部分で役に立てるように。

今の自分だからこそできることを考えて、手探りで実行して、形にしていきました。そうやって私なりに貢献するから、ちょっと手伝ってね、お願いねっていう感じです。

復帰後は「限られた中でどこまでできるか」というスタンスにシフト

産休に入ったとき、何をしていいか本当にわからなかったというTOMOMIさん。「休み最高!と思ったのは最初の3日だけで、仕事に戻りたくなりました」。

――産休・育休に入る前は、どのように引き継ぎをされたのですか。

仕事の引き継ぎに関しては、それほど大変ではありませんでした。というのも、会社の教育方針として、女性はいつかそういうタイミングがくるものだという前提があったからです。後輩やアシスタントの子たちが、「いつかTOMOMIさんのお客様を担当する」という気持ちで日々関わるということを、1年目のときから徹底して教育してきましたし、システム作りも徹底されていました。これは本当に重要なことだと思うんですね。

あとは、自分自身がどうスムーズに復帰するかが大きな問題。そこに重点を置きました。ママ美容師に関する事例が載っている本を読んだら、「1年休むと半数から7割のお客様が離れてしまう」と書かれていて。とにかく早く復帰したいと思いました。9月に出産だったので、確実に4月には戻りたい!と。妊娠中にすぐに認可外保育園を予約して、認可保育園への申し込み準備も始めました。

休日は夫の小池康友さん、娘さんと3人でお出かけ。娘さんはすでにおしゃれに目覚め、洋服へのこだわりもあるのだそう。

――入念な準備をされたんですね。

産後2ヶ月で復帰したので、トータル3ヶ月しか休んでいないんです。これ、絶対誰にもおすすめしません!体がとても辛いので、ちゃんと休んだ方がいいです(苦笑)

3ヶ月に1度の来店サイクルのお客様からしたら、引き継ぎのスタイリストを1回挟んだらもう私が戻ってきた…みたいな。そんな感じだったので、ほぼ失客はありませんでした。体は本当にきつくてボロボロでしたが、お客様がちゃんと来てくださるという点でメンタルの安定はありましたね

現在勤めている「K.e.y」は女性スタッフが多いんです。私のようなハードなことはさせたくないし、自分が大変だったことは必ず手助けしてあげたい。子育てしながら働くためのいろんな形をつくってあげたいなと感じています。

――復帰してから困ったことや悩んだことはありましたか。

時短勤務になったため自分の営業しかできず、スタッフの教育などに関われる機会が減ってしまいました。そして、子供が熱を出したら帰らなければいけないし、お迎えに間に合うよう18時には必ず退勤しなければいけない。保育園の都合でこれまでより休みも増やさなければいけない。それを、みんなに理解してもらえるかなという不安も大きかったです。

「これをTOMOMIさんに頼んだら大変かな」って、周りから遠慮されてしまうのも寂しいけど、やったらやったでキャパオーバーになるのはわかりきっている。それがもどかしくて…。

――やりたい気持ちと時間的な制限の板挟みですね。

少し時間はかかりましたけど、気持ちの整理はつきました。いい意味であきらめがついたというか。働き方にメリハリが出たし、時間の使い方がうまくなった気がします。時間制限がある分、とても効率よく仕事ができるようになりましたよ。売り上げの数字だけ見れば、フルタイムで働いていたときと変わらなかったので、時間の使い方の大切さに気づかされました。逆に、時短勤務でどこまで数字を伸ばせるか、挑戦欲がわきましたね(笑)

――復帰後、前のサロンで何年くらい働いたのですか。

約3年ですね。今思えば、いろいろ無理していました。子供や自分のための時間を削ってしまったし、夫には本当にたくさんサポートしてもらった。だからこそ無理もできたし、それでいいと思っていたんです。でもそんなときにコロナ禍となり、いろいろ考えることになったわけです。


お客様との関わりを大切にしながら真摯に仕事と向き合うTOMOMIさん。これまで勤めたどの店でもエース級の売り上げを誇り、「やらないと気がすまない性格」ゆえに常にフルパワーで頑張り続けてきました。年齢を重ね、家族ができ、世の中が変わっていく中で、TOMOMIさんの考え方や働き方にも変化が現れたそうです。

後編では、働き方を見つめ直すことになったきっかけや、仕事と子育てを両立する秘訣、目指している「美容師像&ママ像」などをお聞きします。

取材・文/井上菜々子
撮影/喜多二三雄

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Salon Data

K.e.y
住所:東京都渋谷区神宮前6-8-7-2F
電話:03-3499-5237
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