100%の力で取り組む性格だからこそ、「余白」を作ることも大事だと実感【美容師 TOMOMIさん】#2
妊娠・出産を経て、職場に復帰したTOMOMIさん。「今までできていた仕事」ができない気持ちに折り合いをつけながら、効率のよい働き方のコツをつかみ、精力的に仕事を続けていました。ところが、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、再び自分の働き方を見直すことに。
後編では、「いったん止まってみる」と決断したお話や、大好きな家族と仕事を大切にしながら自分らしく輝くために心がけていることをお聞きしました。
お話を伺ったのは…
K.e.y
ディレクター 小池友美(TOMOMI)さん
都内2店舗を経て、2021年4月から「K.e.y」に所属。美容師歴は18年。「メンズトレンド大賞」初代グランプリを獲得するなど、メンズヘアや女性のショートヘアに定評があり、雑誌の撮影やセミナー等でも活躍。5歳の女の子のママであり、子育ても美容師の仕事も「楽しみながら両立したい」と精力的に取り組んでいる。パートナーは「K.e.y 勝どき」の代表を務める小池康友氏。
コロナ禍での経験と葛藤が、価値観を変えてくれた
――前のサロンでコロナ禍に直面したときに、働き方を見つめ直したそうですね。
2020年4月に緊急事態宣言が出たときにサロン内で話し合いをして、お客様は来ないけれど出勤しようという形に。原宿の街から人が消え、もちろん娘の保育園はストップ。2ヶ月休園になりました。それでも私は出勤しなくてはいけないし、レポートやマニュアルの作成などやることがあって。その間、夫が勤めていたK.e.yはクローズしていたので、子供のことは全部夫が見てくれました。
そのときに、私は母親なのに何してるんだろうと思ってしまったんです。子供が異様な状況を察して不安になっているのに、一緒にいてあげられないなんて。私にとって一番大切なのは子供。それをあらためて実感したときに、もう少し周りをよく見渡してみよう、今までと違った働き方もあるんじゃないかなと。
その頃から、自分の働き方や子供との向き合い方、今後の自分のブランディングを見つめ直すように。自分らしく仕事と子育てを両立していくには、どうすればいいのか考え始めたんです。
――働き方を変えるために、実際に行動に移したのはいつですか。
その年の夏過ぎくらいに、一度整理をつけようと思い、前のサロンに辞める意志を伝えました。私が働き続けられるようにさまざまな提案をいただいたのですが、いったん止まらないと頑張りすぎてしまう。みんなの期待に応えたくてやりすぎてしまう。性格柄、そうなるだろうと思ってけじめをつけました。
そのとき35歳。人生について考えるお年頃でもあったのかもしれませんね。
――辞めてからはどうされたのですか。
今はフリーランス美容師という働き方もあるし、どうしようかなと。いろいろな考えの中のひとつに「K.e.yで働けないかな?」というのがあり、夫につないでもらって、K.e.yのオーナーの田中とも話し合いをしました。
はじめは様子見といいますか、半年ほどは所属せずに場所だけお借りしてフリーで働きました。ただ、いずれは入社させてもらうという気持ちではいました。
――お試し期間のようなものを経て、K.e.yに入社されたんですね。
K.e.yのスタッフは、「なんか怖い人が来た」ってビビっていたと思いますよ(笑)。
場所とアシスタントをただ使わせていただくだけではダメだなと思い、ここで私が提供できることはなんだろうと考えました。1ヶ月は何も言わずにスタッフの様子などをじっと観察して…。集客方法だったり売り上げに関してだったり、何かしらプラスになることを伝えさせてもらって、少しでも役に立てたらいいなと思いながら働いていました。
ゆくゆくは入社して、ここで自分のポジションをつくらないといけない。このお店だからこそできることや新しい発見があるはずだ、とも思っていました。
――正式に所属して1年半ほどですが、どんな発見がありましたか。
前のサロンで10年間同じ技術を貫いてきたので、まず技術的な発見や学びがありました。初めての技術を教えてもらったり、今まで曖昧にしてきたことやこだわらなかったことが新たに見えてきたり。いくつになっても、美容師歴何年でも、新しく学ぶって楽しいですね!
でも、オーナーには全部変える必要はないと言われています。「今持っているものに肉付けするだけ、プラスアルファするだけでいい」って。学んでみて、必要だったら取り入れてみたらと言ってもらえるのがありがたいです。
「ママ美容師」だけでなく、「パパ美容師」の働き方も大事な時代
――店舗は違いますが、ご夫婦で同じサロンで働くメリットはありますか。
やはり、子供のことで何かあったときに臨機応変に対応しやすいです。例えばまだコロナが終息していないので、急に保育園に預けられなくなることも。そういうときに柔軟に対処できるし、周りもその状況をわかってくれるというのもありますね。
それに、夫は「パパ美容師」としての姿をスタッフに見せることができます。
――確かに、今の時代は「パパ美容師」の働き方も大事ですよね。
男性も仕事と子育ての両立はあたりまえにやらなくちゃいけないことですからね。「パパ美容師」という働き方の一例を提示することは、お店の若いスタッフにとっても大事だなと。
――パートナーとの協力体制で工夫していることや、意識していることはありますか。
お互いに、全部自分がやろうとしないで役割分担をきちんとすること。例えば娘の保育園の送りは夫で、迎えは私が担当しています。
そして、家族みんなですごす時間をしっかり作るということが大事だと思うので、そこは徹底していますね。火曜日は2人ともお店が休みなので、家族で少し遠出したり、お友達ファミリーと出かけたり。娘にはいろいろな体験をさせたいので、ライブに連れて行くこともあります。
――娘さんは今いくつに?
5歳になりました。洋服のこだわりが強くて、「あのお洋服を着ないと保育園行かない!」とか。子育てママにとってはあるあるの話ですけど、本当に面倒くさいなぁって(笑)。
親のことをよく見ているなとも思いますし、私たちの仕事のことも理解しているみたいです。「パパとママのお仕事、知ってる?」って聞いたら、一体どこで覚えてきたのか、「髪を切って、お客様を幸せにする仕事だよね!」という答え。もう、100点満点!
目指すは、「選ばれ続ける美容師」であり「娘にカッコいいと思われるママ」
――仕事と子育てを両立するうえで、精神力&体力をキープする方法はありますか。
私は、お客様としっかり関わったうえで髪を切りたいタイプ。だから頑張って接客するんですが、オーナーには「TOMOMIちゃんは本当の自分と美容師の自分がかけ離れているから、疲れちゃうよ」と指摘されました。「年齢やタイミング的に、本当の自分にもう少し寄せた関わり合いを心がけた方がいいよ」といわれ、少しずつですけど意識するようになりました。
私、何でも「100%」でやっちゃうんですよ。自分のよさでもありますが、そろそろ「余白」もちゃんと作らないといけないなと。
体力面では、毎日運動することを心がけています。肩が痛い、腰が痛いとならないように、とにかく普通の状態を維持するのが目的。毎朝30分くらい、YouTubeを観ながら筋トレをしたり、たまに走ったりしています。
――TOMOMIさんが目指す理想の美容師像を教えてください。
選ばれ続ける美容師です。簡単そうですごく難しい。20年、30年、40年ずっと自分を選んでもらうって、相当努力していないと無理ですし、あらゆる場面で選ばれるように仕向けていかないといけない。自分自身が輝いていないといけませんよね。
――それでは、理想のママ像は?
子供が「かっこいい!」と思ってくれるママでありたいです。私のママはすごく素敵な仕事をしているんだよって人に言えるような。だからこそ、仕事も子供との関わり合いも大事にしたいと思います。私自身が輝いていることによって、子供も感化されて、自分も頑張ろうって思ってもらえたらいいですね。
TOMOMIさん流!仕事と子育てを両立する秘訣
1.夫としっかり役割分担して協力
2.何のため(子供のため、自分の将来のため)に頑張るかを意識する
3.仕事も子育ても楽しむ
取材・文/井上菜々子
撮影/喜多二三雄