銀座の売れっ子エステティシャンが直面した「集客ゼロ」。その忍耐の10年間とは【MIROOM ミールーム オーナー・町田美香子さん】#1
オールハンドにこだわり続けて10年。プライベートエステサロン「MIROOM ミールーム」のオーナー・町田美香子さんは、銀座の大手サロンでトップエステティシャンとして活躍していた方です。ご自身が主宰したエステ講座には1年間で200名以上のサロンオーナーが参加するなど、技術力だけでなく、町田さんのエステティシャンとしての精神をも学ぼうとする人があとを絶ちません。
しかし、実は開業当初は集客の術を全く知らず、トップエステティシャン時代とのギャップを痛感させられたそう。この前編では、町田さんがとった「集客スタイル」について教えていただきます。
教えてくれたのは
「MIROOM」オーナー・町田美香子さん
大手サロンに就職後、2年目にして月間売上1位を獲得。その後もトップエステティシャンとして活躍し続けるも、日々の忙しさとプレッシャーで体調を崩し、5年勤めたサロンを退職。独立し、2013年に東京都江戸川区葛西にオールハンドのエステサロン「MIROOM ミールーム」をオープン。エステ講師として活動し、「社団法人日本エステマイスター協会」代表を務め、後進育成にも尽力している。
大手サロンで成績上位をキープするプレッシャーに耐えられず、独立を決意
――大手エステサロン勤務時代は常にトップクラスの成績だったとか。
毎月10位以内には入っていましたが、1000人くらいスタッフがいる大きい会社で常に売上上位をキープするのはとても難しいことでした。売上についてとても厳しいサロンだったので、プレッシャーはものすごく大きかったです。
上司からは常に「もっと売り上げを」と怒られるのですが、私はお客様に必要のないものは紹介も販売もしたくないと思っていたので、精神的につらかったです。しかも、オープンからクローズまでお水を飲む暇もないくらい毎日が忙しくて。それで心身ともに疲弊してしまい、「このまま仕事を続けていくのは無理かもしれない…」と感じたとき、専門学校時代に抱いていた「自分でお店をやりたい」という夢を思い出したんです。忙しすぎてすっかり忘れていましたけど(笑)。25歳になってすぐ独立しました。
――若くして独立されたのですね。
もしも失敗するなら少しでも早い方が良いなと思って。ちょうど日当たりも良く、駅から近い物件を狙っていたところ、たまたまこの部屋が空いたと連絡が来て「今しかない!」と。若さゆえの無鉄砲さでこの場所を借りました(笑)。
絶対に真似してほしくないんですけど、本当に何も考えずにはじめたんです。「来てくれた方にゆっくり過ごしてもらえたら良いな」とただその想いだけでスタートしたので、経営の勉強もしていませんでしたし、「ターゲット層」「コンセプト」なんて単語は聞いたこともありませんでした(笑)。
やりながら少しずつ試行錯誤してきたという感じですね。
「流行り廃りのないものを提供」の裏で、集客に耐え忍んだ数年間

趣味が貯金だという町田さん。開業資金は借入れをせず、貯金を切り崩してはじめたのだそう
――それにしてもなぜ葛西にお店を構えたのですか?
単純に自宅から近かったから。自営業の場合は交通費も自腹になるわけなので、遠いところにサロンを構えるとその分経費がかかってしまうためです。なので、自宅から徒歩あるいは電車で初乗りで行けるくらいの範囲で場所を探しました。
――集客はゼロからのスタートでしたか?
そうですね。以前勤めていたサロンはお客様を引っ張っていくのはNG、独立するのもあまり良しとされていなかったんです。なので、一人でひっそりとはじめました。
銀座のサロンで培った技術と接遇に自信を持っていたのですが、お客様は全然来なくて(笑)。「あ、こんなにも来ないんだ」とびっくりしました。
まずはHPをつくってみたのですが、HPをつくればお客様が来ると思っていたんですよ(笑)。そんなわけないのに。地域のフリーペーパーにも広告を3カ月間載せてみたんですけど、やっぱり一人も来なくて。
この部屋で一人ボーッとして過ごす中で「ダメだ。もう終わった」と何度も思いましたね。
――そんな時期があったとは意外です。今ではリピート率90%を誇っていますが、どのようにお客様を定着させてきたのですか?
長く通ってもらえるサロンをつくりたかったので、「流行り廃りのないものを提供していこう」と考え、ずっとオールハンドにこだわってきました。
SNSなどを見ていると流行りの化粧品や美容機器がどんどん出てきますが、今でもそういうものにすぐ飛びつかないようにしています。なぜかというと、流行りのものが好きなお客様は比較的リピートしてくださらない傾向にあるから。新しいものが出たらまたそちらに行ってしまう。そうなるとリピートに繋がっていきません。
個人サロンの場合、常に新しいものを取り入れ続ける資金的な余裕はありません。流行りの化粧品、流行りの美容機器を購入し続けていると手元に全くお金が残らない…なんてことに。
だから私は「来たい人が来てくれたら良い」と割り切り、広告を載せたのは最初の一回だけ。その後の10年間は一度も載せていないです。
――その分、なかなか苦しい時期を過ごされたのでは?
忍耐の数年間でしたね。お金をかければ一気に集客ができるんでしょうけど、私はあえてそうせず、手間と時間をかけてやってきました。そのスタイルが私には合っていたのかなと。
――まさに、地道に伸ばしてきた数字なんですね。そうして根付いたお客様は本物志向の方が多い気がします。
本当にそうだと思います。それに「町田さんが言うなら」と信用してくださる方が多いです。お客様はみなさん決して美容に疎いわけではないし、まして今はネットでいくらでも調べられる時代。そんな中で、美容皮膚科と併用して通ってくださる方もいるのでありがたいですね。
お客様の主体性を促すことがキャンセル予防に

大手企業に依頼され、新商品イベント講師として登壇
――高いリピート率をキープし続けてこられた秘訣はありますか?
「話さなくても通じ合う」ことはほぼないと思っています。お客様が来店されたらすぐベッドに横になり、施術中はずっと眠ったまま、終わったらすぐ帰っていく、という淡々とした関係性を私はあまり望んでいません。必ずコミュニケーションを取るようにしています。お客様が話しやすいような雰囲気をつくり、表情やお声がけの仕方なども意識してきました。
同じお客様でも生活リズムはその時々で違うと思うので、来店されたときの様子をきちんとみるようにしています。「今日はあまり話したくなさそうだな」「今日は調子が良さそうだな」と。そのときにお客様が望むように過ごしていただけるような配慮をしているつもりです。
――「次回予約を促すのが難しい」という声も聞きますが、町田さんはどのようにしていますか?
初めての方には特に「単に私が来てほしいと思って言っているわけではないですよ」ということを前提として言葉の端々で伝えるようにしています。そして、「〇〇様がよろしいときにご検討ください」と、あくまで選ぶのはお客様であることをきちんと示しています。
エステに通う目的を最初にきちんとお客様とすり合わせておくのも大事なこと。お客様は自分ではベストな来店頻度がなかなかわかりませんから、施術後の結果を見て「どのくらいの頻度で続けるとこの状態がキープできますよ」と必ず説明します。
――ゴールが明確になると、お客様も主体的になりますよね。
そうなんです。主体性がなく、「町田さんに言われて来ている」という意識になるとどうなるかというと、キャンセルの嵐になるわけです。
主体性がないとお客様の中でエステの優先順位が下がるから。そうなると、エステの予約と他の予定がブッキングした場合はほぼエステが負けます。そして、キャンセルが続いて会わなくなると、お客様の心も離れていきます。
だから、お客様自身が「来たい!」と思って、エステを生活の一部に思っていただくことが一番のキャンセル防止になるんじゃないかなと思います。
「不特定多数の人に発信」という即効性のある集客方法をあえて選ばず、来てくれた人と丁寧に信頼関係を育てることに重きをおいてきた町田さん。その信頼関係の築き方について、後編でさらに詳しくお聞きします。「良かれと思って施術時間をサービスで延ばしている」という人は必見です。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄