お客様の良いところを褒めて、楽しい時間を過ごしてもらう。これが令和の接客術【MIROOM ミールーム オーナー・町田美香子さん】#2
前回に引き続き、「MIROOM ミールーム」のオーナーエステティシャン・町田美香子さんにお話を伺います。リピート率は90%を誇り、エステに精通した女性や深い悩みを抱えた女性たちから信頼が寄せられているサロンです。前編では、「地道にコツコツ」という集客スタイルを選び、広告を使わずにやってきた数年間の成果と、リピーターを増やすための接客術について教えていただきました。
今回の後編では、個人サロンがやってしまいがちな接客についてや、セミナー事業が増えている今改めて注意しておきたいことなどについてアドバイスをいただきました。
教えてくれたのは
「MIROOM ミールーム」オーナー・町田美香子さん
大手サロンに就職後、2年目にして月間売上1位を獲得。その後もトップエステティシャンとして活躍し続けるも、日々の忙しさとプレッシャーで体調を崩し、5年勤めたサロンを退職。独立し、2013年に東京都江戸川区葛西にオールハンドのエステサロン「MIROO ミールーム」をオープン。エステ講師として活動し、「社団法人日本エステマイスター協会」代表を務め、後進育成にも尽力している。
サービスのしすぎは、自分の時給を下げることに繋がる
――個人サロンの場合、「ついサービス精神で施術時間を延ばしてしまう」というお店も多いと聞きます。それについてはいかがでしょう?
私は、自分の時給は下げてはいけないと思っています。施術の前後にお喋りすることはもちろん良いと思います。でも、施術時間が60分と決まっているのに長くやってあげて、それで何とかお客様を繋ぎとめるというのは後々自分の首を絞めることになるのかなと。お客様からすると当然「やってもらって当たり前」になります。「サービスしてくれるから行く」というような関係性はちょっと寂しいというか、「じゃあサービスがなければ来てくれないの?」となりますよね。それに、こちらは実際にいただく金額は変わらないので心のどこかでモヤモヤしますし。時給を下げないためにもサービスはしすぎない方が良いです。
私は60分のメニューだったら、ベッドに横になったところからきっちり60分後にベッドを起こします。お話が盛り上がって数分延びてしまったときは「すみません、お話が楽しすぎてお時間が少し延びてしまったのですが、このあとのご予定大丈夫ですか?」と必ず確認します。その後の予定が入っている人もいますし、お客様はベッドに横になっていると時間がわからないので、こちらの都合で勝手に施術時間を延ばさない。お互いの時間は守るということを徹底しています。
――今の時代、接客のあり方に変化を感じていますか?
令和は多様性を受け入れる、みんながみんなに優しい時代だなって。「ふくよかな人は良くない」「痩せていれば正義」という考え方もしなくなりましたよね。
ひと昔前のエステサロンでは、お客様にあえてネガティブな指摘をたくさんするエステティシャンが多かったと思います。「私は太ってるんだ。このままじゃダメなんだ」と不安を煽って通わせるみたいな。最近でも、お客様のお話を聞いていると、いまだにそういうサロンはあるみたいです。
はっきり言って、不安を煽って通わせるというやり方は古いのではないでしょうか。お客様の良いところを褒めて、優しく接し、お互いに楽しい時間を過ごす。そういうコミュニケーションの取り方がベストかなと私は思います。
お金をかけるか、時間をかけるか。独立するなら必ずどちらかを選ばなければ成功しない
――エステ講師としても活動する町田さんのもとには、独立・開業を目指す多くの人が相談に来るそうですね。エステ講師の立場から、何か業界の課題を感じていますか?
最近、何かしらの流行りの技術を覚えたら、それをすぐに他の人に教えるというコミュニティが増えていることが気になっています。素人が素人に教えるみたいな。それにより、皮膚化学や解剖生理学などを一切勉強せず、一風変わった技術だけを覚えて開業する人も増えている印象です。
自分のサロンが立ち行かないからと講師活動をはじめる人もいるようです。講師という肩書を持っていれば箔がつきますからね。実情、自分のサロンにお客様はほとんど来ていなくても「すごいサロン」みたいに見えるんですよね。
だから、セミナーを受けるときは講師選びはとても重要だと思います。
――実際、セミナーに申し込んだけど全然ダメだった…という声も町田さんのもとに届きますか?
そうですね。「貯金を切り崩して100〜150万円もかけたのに、一人も集客できなかった」といった相談をよく受けます。
載せ方も上手なんですよね。「誰でもサロン業で100万円稼げる!」と謳っていたり。でも、100万円なんてそんなに簡単に稼げる金額じゃないですから。
――「開業してからの数年間は忍耐だった」と語ってくれた町田さんからすると、より歯痒さを感じますよね。
「独立は簡単!」みたいな広告も多く、それを見るたびに「そんなに簡単じゃないのにな」と。片手間で独立開業しようと思っている人がいるなら、厳しいかなと。私がそうだったように、最初はお金なんて全然入りません。広告費をしっかりかけてより多くの人を集客するか、それとも時間をかけてコツコツとお客様と信頼関係を築いていくか。お金をかけるか、時間をかけるか。サロンを継続していくのならそのどちらかしかないと思います。
技術でも、メニューでもない。お客様がつくのは「人」
――町田さんのお仕事の軸を教えてください。
プライベートも仕事も「今の時間をしっかり楽しむ」こと。プライベートでも仕事でも、私はあまり区切りがないんです。言葉遣いもほとんど変わりません。普段からずっとこんな感じです(笑)。
私自身が肩の力を抜いて楽しく仕事をしていなければ、来店されるお客様だって緊張してしまいますからね。ご新規様だと特にそう。受け答えがまるで面接に来たみたいにガチガチだったり、カウンセリングシートが手汗でふやけていたり、緊張している人はたくさんいます。私は少しでもお客様にリラックスしてもらいたいと思っているので、自分自身が楽しく過ごすことをとても大事にしています。30代の今が一番楽しいかもしれません。
――そのしなやかさも、10年以上サロンが続く秘訣なのでしょうね。
技術やメニューにお客様がつくわけではないんです。オーナー自身に魅力がなければお客様はつきません。どんなサロンをつくろうが、何を扱おうが、結局は「人」だと思います。
――最後に、個人サロンを営む人へアドバイスをお願いします。
自分でサロンを経営することは簡単なことではありません。人間関係のストレスから解放されるというメリットがある反面、責任が伴います。自由と責任はセットなんだなと私も開業当初に実感しました。
私は、経済的な自立が精神的な自立に繋がると感じています。自立すれば自分自身にもっと自信が持てるはず。最終的に信じられるのは自分だけなので、自分のしたいことをしていくことはエステの仕事に限らず大事なのかなと。
今が人生で一番若いですから。私は、チャレンジするときは「今が一番最良」と思うようにしています。
町田さんが教える、個人サロンに必要な接客とは
1.施術時間をサービスで延ばしたりせず、自分の時給はきちんと守る
2.エステを受ける目的をすり合わせ、お客様に主体性を持ってもらう
3.結局は「人」。お客様を否定せず、楽しいひとときを過ごしてもらえるよう気を配る
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄