社会経験値が武器になる。ママさんが対等に働けるオーガニックサロン【ORGANIC MOTHER LIFE 代表 坂田まことさん】#2
「オーガニック」をユニークな切り口で発信している「ORGANIC MOTHER LIFE」。店名に「MOTHER=母」が入っていることからも伝わりますが、代表・坂田まことさんは「ママさんの働き方」について追求しつづけてきました。19歳で母となり、子持ちゆえに理不尽な働き方を余儀なくされた経験から、「環境や年齢で差別しない」という雇用スタイルを取っています。
後編では、自社化粧品工場を設立した背景、美容業以外も任せるという教育方針、社会経験値で評価する採用についてお聞きしました。
教えてくれたのは
「ORGANIC MOTHER LIFE」代表兼セラピスト 坂田まことさん
18歳で上京。19歳で結婚&出産。出産後はウェディングプランナーとして働くも、「オーガニックエステ」に出会い、セラピストに転向。サロン勤めを経て、24歳で自宅サロン「オーガニックマザーライフ」を開業。その数ヶ月後にスクール「コットンハウス®︎」を開校&社団法人を設立。27歳で、サロン×コスメショップ「ORGANIC MOTHER LIFE」をリニューアルオープン。現在は株式会社オーガニックマザーライフの代表取締役を務めながら、サロン3店舗とスクールを運営するほか、自社化粧品工場「植物調合美容研究所」(宮崎県国富町)にて製品開発・製造も行う。
廃棄農産物で日本由来のオーガニック商品をつくる
――オーガニック一本でここまで事業を展開している企業は他にないのではないでしょうか。
私たちの観点で言えば、これほどにオーガニックを中心に多角的事業を開発や製造から販売、教育までを一貫して行う会社はないと思います。
でも実は、27歳で今の「ORGANIC MOTHER LIFE」を展開したとき、オーガニックの先駆者の方々に叩かれたんです。多店舗出店し、メディアにも露出している私に対し「あなたはオーガニックの本質を理解していない」と。こんなに日々たくさんの肌に触れて向き合っているのに、「流行り物を扱う若い起業家さん」として見られたことが悔しくて。
その頃からずっと「本質を求めること」に固執し続けてきました。
――宮崎県に工場をつくったのも、「本質」を追求した結果ということでしょうか?
それもあるし、コロナ禍で美容業界が閉ざされ、うちのママさんアルバイトの方々がたくさん辞めてしまったことも理由の一つ。エステと販売だけではママさんの雇用がつくれないのだと気づいたんです。それで、ふと「オーガニック化粧品の製造の世界に入ろう」と思いついて。
たまたま行政関係の方が私のSNSを見つけてくれて、「毎年数トン廃棄されるゆずを使って、宮崎県の有機農業を盛り上げてくれませんか?」と依頼があったんです。それで宮崎県庁に出向き、農家さんたちの前でプレゼンをし、農家さんの協力を得ることができました。
――貴社の製品づくりは地域に根差していることも素敵ですね。
日本でオーガニックが浸透しないのは、日本の原料が使われていないことも原因の一つ。海外製品ばかりだからいつまでも「流行り物」「スピリチュアル」扱いなんですよ。日本由来の日本らしいものをつくれば、それは正真正銘「日本発祥」になるわけで。農家や産地の「顔が見える植物素材」を使用したいと思いました。そこで、日本の廃棄農産物や植物を全国からかき集め、自社工場で国産コスメをつくることにしました。
――スケールが違いますね!
日本の化粧品市場では、一時期98%がケミカル化粧品で、オーガニック化粧品はわずか2%と言われていました。昔も今も販売市場が狭いのです。ですが私は2%の狭い世界ではなく、98%の土俵で勝負したいんです。今も「オーガニック化粧品」として戦っているつもりはありません。
社会経験も立派なスキル。採用時は子育てしてきた人ほど高評価
――こちらのスタッフさんはどういう経緯で入社されたのですか?
うちのスタッフたちは収入よりも、自分のやりたいことを限られた時間の中でやれることに対価を感じている人ばかりです。家庭を持っても、子どもがいても夢を諦めたくない。やりたいことは全部やりたい。うちではそれを「フルキャリ」と呼んでいるのですが、まさに令和の女性の働き方だと思うんです。
私も別にお金を稼ぎたかったわけではありません。例え10〜17時までしか働けなくても、責任のある仕事を任せてもらいたかった。その当時の想いを逆手に取ったんです。
――仕事も家庭も諦めないために、どんな勤務スタイルを用意していますか?
オールフレックス制で、土日は自由に休んでOK。その代わりスタッフ一人でもお店を回せるように、サロンの営業時間を10〜18時にしています。もし、閉店時間を20時にしてしまうとスタッフは2人必要になりますよね。だから、スタッフの働き方を守るために雇用側が先に労働環境を変えることにしました。
出勤退勤時間や有給などは社長の私には一切申請しなくてOK。時間と休日の管理をやめ、社員同士で調整してもらうようにしました。うちは経理部を設けていないので、給与明細も社員(セラピスト)に作成してもらい、銀行振り込みも社員(セラピスト)が行います。
――給与振り込みもセラピストがやるんですか?
エステの施術しかできない子を育てるつもりはないので。施術だけでなく、在庫管理や商品発送、スクール講師、給与計算、全部やらせます。そして、こちらはそれに対してインセンティブを払っています。経理をやってもらったらプラスいくら、講師一本やってもらったらプラスいくらとか。
営業時間を10〜18時で厳守するとなると、一日に施術できる人数と売上には限りがあります。そこで、施術売上が下がる分、PRや広告会社、税理士や会計士、発送管理代行、デザイナー等に掛かる費用(外注費用)を徹底的に削減しました。その分、セラピスト一人ひとりにPCスキルを身につけさせ、自分たちでPRや広告をつくらせたり、会計処理から社労処理も担当を振り分け、化粧品の発送在庫管理も施術のない時間「アイドルタイム(売り上げの上がらない空白の時間)」に全てをサロン内で作業させました。
そのため、今でもSNSや出版だけで、広告費は0円の会社に。全ての顧客がSNSやクチコミだけで来店し、それらは私含めスタッフ全員で発信したSNSでの集客となります。
スタッフのお給料を上げる意味でも理にかなった仕組みなんです。
――こちらの採用基準ってありますか?
社会経験も立派なスキル。苦労した数だけスキルがあると思って採用しています。
前職のサロンで働いていたとき、技術が上手い人より社会経験値の高い人の方が指名がつくことに気づいたんです。一般的なエステサロンでは、若い子の方が体力があるので重宝されますよね。でも、お客様からすると「若い」はあまり良いことではありません。技術もトーク力も未熟なわけなので。
40〜50代の社会経験値が高い人の方がお客様は安心します。お子さんがいる人だと子育てを通じてありとあらゆる社会経験を積んでいるし、女性の人生の一番重い部分を背負ってきたわけですから。
――そういう意味で、「年齢制限なし」で募集しているんですね。
そうなんです。年齢ではなく、その人が何を経験してきたのかで評価しています。「この人の経験がこういうお客様にとってすごく良いヒントになるかもしれない」と思ったら採用しています。
技術は努力次第じゃないですか。環境や年齢などの努力で変えられないことで差別したくなかったんです。
仕事を続けたいなら、子どもがいても「自分が今できること」を伝える努力をすること
――ママさんにとって働きやすい環境をつくるために必要なことは何だと考えますか?
双方の努力は絶対に必要です。
まず、雇う側の意識としては「子どもがいるから働けない」という偏見をやめること。「この時間しか働けない」人がいるなら、「その時間で働ける」仕事をつくるべきなんです。うちが営業時間を社員一人の労働時間に合わせたように。
そして、美容業の中に色々な仕事をつくるべきだと思います。セラピスト+〇〇と二足以上のわらじを履かせる。美容業の子に美容業しかやらせないのは本当にナンセンス。きちんと教えればみんなできますから。美容従事者の働き方の多様性をつくるのが雇用側の意識改革だと思います。
――では、ママさんたち働く側は?
私は「子どもを理由に休むのをやめなさい」と伝えています。子どもを言い訳にすると、会社で自分の評価を下げちゃうんですよ。上司からすると「この人は子どもを理由に結構休むね。じゃあ子どもがいない人に仕事を振ろう」となるじゃないですか。
自分の意思で子どもを産む、家庭を持つと決め、それでも社会の中で平等に仕事をしたいと思うのであれば、自分の家庭環境を口先で理由にしないこと。「限られた時間の中でこの仕事ならできます」というプレゼン力と行動指針を自分で持つべきです。だって、環境はそんなに簡単には変わりませんから。子どもを抱えて働くのはやっぱりまだ少数派。だからもう「子どもがいない人に理解してもらうのは難しい」とこちらが割り切るしかないんです。難しいなら自分で社会をつくるとか、活躍できる職場を他に探すしかない。
会社側に全てを「わかってもらえる」「環境をつくってもらえる」と思ってはいけません。自らが社会の一員になる覚悟を持てば、必ず環境は認めてくれる。子どもの存在をただの「不自由」で終わらせない。「働く糧」や「自身の魅力」に変える意識を持って周りにプレゼンする勇気を持ってもらいたいと思います。
坂田さんが掲げる「女性の働き方改革」とは?
1.営業時間や休日を会社側で管理するのをやめる
2.施術以外の役割も任せ、オールマイティなスキルを身につけてもらう
3.求人採用は年齢で足切りしない。社会経験値を評価する
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/SHOHEI