自分の感覚がすべて。だからこそ、自らの実体験を大切に 私の履歴書 【アロマ調香デザイナー®︎ 関根加奈さん】#2
植物の花や葉、種子に果皮、樹脂などが持つ芳香成分を抽出した、自然の恵みである天然精油の豊かな香り。「TOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIO(トモコ サイトウ アロマティークスタジオ)」は、目的に合わせて最適な精油を選定し、天然精油の持つ機能性とデザイン性を掛け合わせて組み立てる「アロマ調香デザイン®︎」により、世界に2つとない香りを創り出すプロフェッショナルチームです。
建築やインテリア関連の業界から香りの世界に舞台を移し、現在「アロマ調香デザイナー®︎」として活躍する関根加奈さん。前編では、そのキャリアの変遷を主に伺いました。
後編では、「アロマ調香デザイナー®︎」としての仕事のことや実際に従事されている関根さんの仕事観を中心にお伝えします。
「百聞は一見に如かず」。実体験に勝るものなし

――アロマ調香デザイナー®︎となってからは、具体的にどのようなお仕事に従事されているのでしょうか?
香りのデザインを通じた、宿泊施設や商業施設、オフィスなどをはじめとした空間演出や、化粧品をはじめとしたプロダクトのデザインや開発などといった法人向けの事業が中心です。
また、一般社団法人プラスアロマ協会(IAPA)でインストラクターとしての講師業、さらに個人事業として自身の教室や出張レッスンなども行っています。
その他、弊社が展開する事業としては、香りにまつわる執筆や講演会などを通して幅広い分野のマーケティングやブランディングに携わることもありますね。
――香りに関連する事業って、こんなにも多岐にわたるのですね!
ありがたいことに、各方面から多くのご依頼やお問合せをいただいています。プライベートの時間もほとんど取れないくらい多忙な日々ですが、大変な一方で毎日楽しいです。
――アロマ調香デザイナー®︎としての仕事される中で、どんな時にやりがいを感じますか?
チームのみんなで創り上げた香りを、お客様に納得して喜んでいただけた瞬間でしょうか。
お客様からご依頼いただき、香りを事業として展開する以上、自己満足というわけにはいきません。初めてお客様に香りをお披露目するのはいつになっても緊張しますが、デザインした香りが舞台となる空間にピタッとハマった瞬間、お客様の表情が明確に変わるんです。その瞬間、鳥肌が立つ事もあります。
お客様から「御社で香りを創ってよかった」とおっしゃっていただくたびに、この仕事の喜びや楽しさを再認識しています。
――関根さんが香りをデザインする上で、心がけていらっしゃることはありますか?
仕上がる香りの舞台となる空間への想像力を働かせることです。その空間に流れる時間の遷移やそれに伴う光の変化、壁や床、調度品の素材などといったことをできる限り具体的に想像し、そのシーンを深掘りするようにしています。
こういった空間を捉える視点も、かつて建築やインテリアの世界にいたからこそでもあることなので、前職の経験が生きている部分ですね。
また、自分が惹かれる空間へ足を運んだり、気になる商品を使ってみたりするなど、自分の体で実際に体験することも大切にしています。
例えばある商品の人気の秘訣がプロダクトそのものの良さなのか、それともPRやマーケティングが上手などといったような他の要素があるのか、などといったことが鮮明にならないと思っていて。
あくまで個人的な考えですが、分からないことって、私にとってはなんだか居心地が悪いんです。知識だけではなく、自分で感じたこともとても大事だと思っています。
――では、インストラクターとしてアロマや調香について教える上で心がけていらっしゃることは?
こちらも、先ほどお話ししたことに通じるものがありますが、とにかく実際に香りを嗅いでみてほしいとお伝えしています。香りそのものを知り、実際に使ってみて、経験値を積んでほしい、と。数はこなせばこなすほど良いですね。
というのも、テキストの文字や知識に重きを置いてしまい、実際の香りを知らない方が、実は意外と多いんです。
例えば「鎮静作用」や「抗菌作用」といったような、精油に関する機能面の知識はあっても、香りそのもののインプットが少なければ、アロマ調香デザイン®︎をする上での表現の幅はグッと狭まってしまいます。
せっかく、講座を通じて一通りの知識や技術を身につけたとしても、頭でっかちになってしまってはもったいないですから。
「アロマ調香デザイナー®︎」の仕事を、もっと知ってもらいたい

――ご家庭とお仕事の両立は、どのようにしていらっしゃいますか?
正直に言ってしまうと、家と仕事の両立ができているとは言い難いです(笑)。
私は仕事が大好きなタイプなので、子どもが小さいうちから仕事をしていましたが、時には仕事先のスタッフの方々が面倒を見てくださることもありました。家族や友人の力も借りながら、周りのみなさんに育ててもらってきたな、と感謝しています。
子どもが苦手だった、頼ることや甘えるという事も、だいぶできるようになりましたが、まだ我慢させてしまうこともあるなと感じますね。
――働く女性にとって、子育ては永遠の課題ですよね…!
そうですね。その分、一緒に過ごせる時間はとても大切にしています。家にいる時になるべく対話をしたり、何かを一緒に体験したり。香りも好きなので、調香をすることもあります。長期休みには、2人で旅行にも行きます。
――仕事にも精力的な関根さんですが、今後の展望はありますか?
アロマ調香デザイナー®︎という職の、世間での認知度を上げることです。
私たちはこれまでも、多くの施設の空間をプロデュースしてきました。しかし法人向けの案件が中心であることもあってか、TOMOKO SAITO AROMATIQUE STUDIOやアロマ調香デザイナー®︎の仕事についてはまだまだ世の中に知られていないな、と感じています。
ゆくゆくは、アロマ調香デザイナー®︎という名前を出したら、どんな仕事をしている人なのかがすぐに分かるくらい広まってほしい。そしてもっとこの仕事を目指す人が増えて、業界の活性化にもつながってほしいですね。


探究し続けられるものこそが、いつしか自分の一部になる

――美容や健康関連、ひいてはこの業界を目指す方へ向けて、アドバイスがあればぜひ!
まず、好きであることは大前提ですよね。その上でさらに大切なのが、好奇心を持ち続けることだと思います。
なりたい職業に就くこと、やりたかった仕事ができるようになることはゴールではなくスタートラインです。常に新しい素材や手法、情報などを追い続けてほしい。探究心を持ち続け、自己研鑽に繋げてほしいと思います。
アロマや香りの世界に寄せて言うなら、繰り返しにはなりますが、考えてばかりいないで実際に行動すること。香り自体はもちろんですが、精油の素材を作る生産者の方々の思いなども同じですね。
私たちも実際に素材の産地まで足を運び、生産者の方々とコミュニケーションを取る機会を持つようにしています。生産者の思いや産地の環境、そして素材そのものを五感で体験することで、精油や香りへの解像度を上げるためです。分からないものを、お客様に自信を持って勧めることはできませんから。
――関根さんにとって、「働く」とは何でしょう?
もはや、「自分の一部」かな。
働くことを通じて、人との出会いや様々なプロジェクトでの経験・学び、誰かの喜ぶ姿など、お金以外に得られるものがたくさんあります。好きなことを仕事にできているというのもありますが、日々発見があって楽しいです。
だから、私は働かない自分なんて考えられない。もし、働くのがつらい時があるとするなら、それは自分自身や環境が整っていない状況だと思います。
――自分自身や環境を整えることは、働く上でとても大切なことですね。関根さんが、ご自身や環境を整えるためにされていることはありますか?
「余白」を大切にするようにしています。例えば、スケジュールといった時間の管理などは分かりやすいですよね。気持ちの面での余裕にもつながります。
また、自分が携わっている香りも一つの余白なんです。香りは、暮らしに必須である衣食住そのものではありません。でも、香りとは空間に彩りを添え、その場にいる人の心を豊かにしてくれるものだと思うのです。
香りがもたらしてくれる余白に励まされながら、私は、今日も楽しんで働いています。
関根さんの成功の秘訣
1. 旺盛な好奇心とストイックな探究心
2. 自ら体験することを大切にする姿勢
3. 自身の仕事に誇りを持つこと
撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈