オーガニック化粧品はふわっとしたイメージ。でも、『関根さんのは論理的ですね』と言われます」 私の履歴書【オーガニックビューティー代表 関根千恵さん】#2
大手電機メーカーのSEからオーガニックコスメのインストラクターへ転身し、自身のオーガニックコスメブランドROSES DE BIOを開発した関根千恵さん。この後編では、ROSES DE BIOの原料となる赤バラ「さ姫」との出会いや、自身のブランドを構築する上で大事にしていることを伺いました。関根さんは東京理科大を卒業したリケ女! 子どもの頃からの化粧品愛にケミカルな知識を掛け合わせたブランド構成で、他のオーガニックコスメとの差別化をはかっています。
気持ちだけでは食べていけない。それに伴ったリスクを計算しておくべき
東京理科大学理学部数学科卒業後、大手電機メーカーにSEとして入社。自身の肌荒れ経験からコスメおたくに。100種類以上のコスメを使用する中、ある自然派化粧品の大ファンになり、後にそのブランドの会社へ転職。オーガニックコスメのインストラクター、OEM会社の企画担当、コンサルティング会社の化粧品立ち上げ、オーガニックコスメ販売会社の社長などを歴任。2014年、(株)オーガニックビューティー創業。自身のブランドROSES DE BIOを開発。
――独立するときに覚悟みたいなものはありましたか?
まず、自分のやりたいという気持ちが、果たして本物なのかどうか、とことん自問しました。あとは、気持ちだけでは食べていけないので、それに伴ったリスクを計算しておくことは大事だと思います。コスメの開発にいくらかかって、それまでお世話になったお客様+新規開拓の販売ルートでどれくらいの利益が上がるのか。費用を抑えるためにはどうすればいいか。総じて上手くいくあてはどれくらいあるのか、失敗したらどれくらいの損失が出るのか。そこまで計算して独立しました。
――入念な準備の上での独立だったのですね。ご自身のコスメブランドの原料にバラを採用したのはなぜですか?
長年オーガニック化粧品に携わる中で、ローズは特別なものでした。大学生のときにニキビだらけの顔になったのは、ケミカルの化粧品を使いすぎたこと以外に、ホルモンバランスの影響もあったんですね。そのときに助けられたのが、ローズでした。ローズには、鎮静効果やホルモンバランスを整える働きがあります。もちろん私の経験だけではなくて、バラが好きな女性がとても多いことから、バラを使おうということだけは決めていました。その中でも、オーガニックのバラと決めて、原料を探し歩きました。
――原料になるバラはどうやって探したのですか?
単純にいいものと言うと選び方が難しくなってしまうので、まずは3つの条件を明確にしました。国産のオーガニックで、香りがよく、真っ赤なバラであること。真っ赤というのにも意味があって、昔ヨーロッパで使われていたアポテカリーローズや、中国で漢方薬として使われているロサ・キネンシスなど薬用に使われているものには赤バラが多いんですね。この赤バラに含まれる色素が、スキンケアとして使ったときに美容効果を発揮します。単純に美しいからというわけではなく、薬草として優秀だという観点から赤バラを選んでいます。
先ほどの3つの条件を軸に、展示会に足を運んだり、人づてに紹介してもらって赤バラを探しました。でも、化粧品原料だけではいいものが見つからなかったんですね。そこで、食品原料にまで範囲を広げて、やっと出会えたのが、奥出雲薔薇園の「さ姫」という赤バラだったんです。
――「さ姫」! 名前からしてなんだか尊い響きですね。
オーガニックコスメのユーザーには化学物質に過敏な方も多いので、石油合成のものが1滴も入っていないものを作りたいという思いがありました。さ姫のエキス抽出をしている会社はいくつかあるのですが、抽出の際に石油系溶剤が使われているものがほとんど。ROSES DE BIOに配合されているさ姫エキスは、生産者の福間さん監修の下、食品用に加工されたものなので、口に入れても問題ないくらい安全性が高いんです。
添加物なしで、ローズの有効成分をしっかりと活かして抽出するのはとても難しいことで、これを化粧品に配合しているのは、弊社のROSES DE BIOだけ。そういった意味でも唯一無二の化粧品といえるのではないかと自負しています。
リスクが10倍になったとしたら、楽しさは100倍以上に
――ROSES DE BIOを作る上で、大事にしていることは何ですか?
化粧品をただの商売道具だとは思っていないんですね。化粧品は、お客様の肌の悩みを解決する大事なものだと思っているので、原料と処方にいちばん力を入れています。化粧品も農作物も、良くも悪くも、作っている人の気持ちを反映してしまうと思うんですよね。単なるお金儲けツールだと思っている人がつくるものは、その程度なのかなと。
「さ姫」の生産者の福間さん親子は、本当に「さ姫」が大好きで、自分の娘のように愛情をかけて育てていらっしゃいます。決して華美なものにしようとは思っていないのですが、そうやって大事に育てられた「さ姫」の良さを引き立たせるために、製品によっては医療品グレードの容器を厳選して、採用しています。
セラピストや美容師、どの職種も同じだと思いますが、お客様に気持ちよくなってもらおうという気持ちが大事ですよね。根底に、お客様の役に立てるものを作ろうという気持ちがないとだめなのかなと思っています。
――関根さんが手がけるROSES DE BIOと他のオーガニック化粧品とのいちばんの違いは何ですか?
オーガニック化粧品は素材が優れているものが多いですが、素材がいいだけだと限界があると思うんですね。その素材をどうやって活かすかが重要だと思っています。例えば、美容オイルは素材をそのまま活かせばそれで十分だと思いますが、クレンジングの場合は、素材がいいだけではダメ。肌の構造や界面活性剤の仕組みを知らないといいクレンジング剤はできません。だからこそ、ケミカルの知識を身につけた上で、オーガニックをつくる。そうすることで、ハーブの良さも活かしつつ、化粧品としての機能性の高さも両方追求できる。そのへんが、他社との違いだと思います。
オーガニック化粧品というと、わりとふわっとしたイメージを持たれると思いますが、「関根さんのは論理的ですね」と言われることが多いです。
――では最後に、今後独立を考えている方にアドバイスをお願いします。
好きなことを仕事にすると言うと、一見遊びながら働いているようなイメージがあるかもしれません。でも、自由とリスクは隣り合わせなので、その分人よりたくさんがんばらないといけないと思うんです。
わたしは、独立してよかったなと思っています。確かにリスクも増えるんですよ。でもリスクが10倍になったとしたら、楽しさは100倍以上になりました。勇気とがんばる力がある人は、信念をもって努力して、ぜひその夢を叶えてほしいです。
関根さんの成功の秘訣
1.好きなことを仕事にすることはプライスレス。その想いを貫いた。
2.根底に、お客様の役に立つものを作ろうという気持ちがあった。
3.自由とリスクは隣合わせ。だから、信念をもって努力した。
取材・文/永瀬紀子