美容師として働き続ける。揺らがない気持ちと“ママ視点”で躍進【美容師 櫻田亜弓さん】#1
髪も気持ちもリフレッシュできるサロンとして人気の「LONESS ginza」で、ママ美容師として活躍する櫻田亜弓さん。元美容師という経歴を持つパートナーと一緒に2歳の娘さんを育てながら、自分らしい働き方を続けています。
前編では、妊娠がわかったときにパートナーやサロンと話し合ったこと、出産後に復職してからの働き方、ママ美容師として発信することへのこだわりなどをお聞きしました。
お話を伺ったのは…
LONESS ginza(ローネス ギンザ)
スタイリスト 櫻田亜弓さん
2013年に美容学校を卒業、表参道のサロンに入社。2015年4月にLONESSに移籍し、25歳でスタイリストデビュー。その後、2019年にオープンしたLONESS ginzaに異動し、サロンワークはもちろん雑誌などの撮影でも活躍。結婚・出産を経て、ママ美容師目線で提案する「結べるボブ」や「楽ちんヘア」が、おしゃれで可愛くいたいママさんたちから支持を集める。
LONESSでは「ママ美容師」第1号
――独身の頃は、結婚や出産についてどう考えていましたか。
結婚も出産もいずれはしたいと思っていましたが、あまり具体的には考えていませんでした。なにしろ、20代前半はまだアシスタントで、早朝からサロンにいて帰るのは終電、家では寝るだけの毎日。スタイリストになってから、やっと少し時間に余裕ができるという感じでしたから。
――漠然としていた結婚が現実になったのは?
26歳のときです。夫とは同僚の紹介で知り合い、おつきあいしていました。そろそろ結婚かなと思い始めたタイミングで、ちょうど妊娠がわかったんです。妊娠しても、仕事を辞めるという考えはまったくありませんでした。ただ、絶対に働き方は変わるということはわかっていたので、できるだけ自分の望む形で働き続けるために、夫とどう協力していくかを考えました。
夫はウェブ制作会社に勤めるサラリーマンですが、元美容師なんです。だから私の仕事にも理解があり、ふたりでいろいろと話し合うことができました。
――櫻田さんはLONESS初のママ美容師だそうですね。
そうなんです。産休・育休を取るのは私が第1号。会社として制度を整えるにも私が基盤になります。この先、LONESSでママになる美容師のためにも簡単に決めるわけにはいかないため、産休に入ってからもリモートで打ち合わせをして、しっかり時間をかけて話し合いました。会社と私でお互いに試行錯誤したからこそ、安心して復帰することができたと思います。
――どれくらい休んで職場復帰したのですか。
2月に出産して、9月に復帰しました。前年の12月半ばくらいまではサロンワークを続けていたので、産休と育休で9ヶ月ほど。お客様を失いたくなかったので、もともとあまり長く休むつもりはありませんでした。
――失客を防ぐために何か準備をしましたか。
担当していたお客様がまた私のところに戻ってくださるように、私の休み中もLONESSに通い続けてほしいなと思ったので、お客様ひとりひとりの人柄や好みなどに合ったスタイリストを紹介して、引き継ぎをしました。復帰後、半分以上の方が戻ってきてくれたので、お客様にもスタッフにも感謝しています。
出産後も土日はフルタイムでサロンワーク
――職場復帰後、どのように働きたいと思っていましたか。
子どもがいるので時短勤務にはなりますが、朝は今まで通りの時間に出勤したいと思いました。また、お客様が集中する土日はフルタイムで働きたいという思いも強かったです。夫に話したら「そうだよね」と。彼は土日が休みなので、子どもの面倒を見るなど協力してくれています。
――サロン側とはどんな話をしましたか。
LONESS代表のふたりにも、働き方をあまり変えたくないこと、できるだけみんなと対等に働きたいという気持ちを伝えました。朝は撮影の仕事も入ったりしますが、子どもがいるから任せられない…となるのは悲しい。撮影もこれまでのようにやりたいと話しました。
勤務時間は自分で決めていいよと言われたので、平日は子どもの保育園のお迎えギリギリまで働きたくて、17時までの勤務にしました。18時がお迎えの時間なのですが、サロンから保育園まで1時間ほどかかるので、本当にギリギリですね(笑)。
――実際に復帰してみて大変だったことは?
大変だったことはあまり思い当たらないかも。希望していた働き方をもう2年くらい続けられています。
ただ、最初の頃は子どもが体調を崩しがちだったので、保育園に預けてもすぐに電話がかかってくることがありました。そのときは夫と連絡を取り、動けるほうがお迎えに。とにかく夫婦で話し合うことを大切にしました。子どもがあまり体調を崩さなくなり、私自身もペースをつかめるまでに1年くらいはかかったかな…。
復帰してから追加で相談した働き方もあるんですよ。子どもの保育園の時間に合わせて早く起きるので、実は朝の時間を持て余していて。それで、お店は11時オープンですが私は10時から働けないかなと思ったんです。集客サイトのシステム上、私だけ予約時間枠を変えることはできなかったのですが、私のもともとの顧客様で直接連絡を取り合える方だったら、何時から予約を受けてもいいと代表のOKが出ました。
――相談しやすい環境なんですね。
そうですね。いろいろ相談して話し合っていくことで、この先、LONESSでママ美容師になる子にとっても働きやすい場所になるんじゃないかなと思います。
ママであることが美容師としての強みのひとつに
――集客サイトやSNSで「ママ美容師」として発信していますよね。
自分がママになって思ったのは、ママ同士の「共感」ってすごいなということ。何かを話して、共感したりされたりして、ストレスを発散することもある。そういう経験から、ママさんをターゲットにしていきたいと思ったんです。「この人、ママ美容師なんだ。じゃあ行ってみよう」とか、そこからお客様と関わっていけるのは今のLONESSでは私しかいません。技術だけではなく、それも強みにしたいなと。
――ママになる前のターゲット層は?
ざっくりと、自分に近い世代の働く女性という感じでした。ママになってから、やっとターゲットが定まった気がしています。今、SNSは誰に向けて発信するのかしっかり絞らないといけない時代。だからある意味、発信が楽になりました。
――インスタグラムに投稿している「結べるボブ」の反響が大きいようですね。
以前からボブスタイルが得意だったのですが、「結べるボブ」を発信するようになったのはママになってから。自分自身が試してみて、これだ!と。ママとしては結べる長さって楽ですし、ひとつ結びにしていた髪を下ろすと自然と人気の外ハネボブになっておしゃれに見えます。
「結べるボブ」を投稿し始めてから、フォロワーやお客様にママさんがすごく増えました。忙しいうえに髪悩みもいろいろ出てくるので、どうすれば楽になるのか、簡単におしゃれになれるのかを知りたい人がたくさんいるんですね。ヘアスタイルの提案と合わせて、スタイリングのポイントやケア方法もお伝えするようにしています。
――インスタ投稿のこだわりはありますか。
サロン内でスマホで撮っているのですが、ボブが可愛く見える角度を研究しています。それから、今のインスタグラムで大事なのは統一感。ターゲットを絞る、スタイルを絞る、できるだけ同じ場所で撮る、画面に写る頭の大きさや位置を揃えるように意識しています。
もうひとつのこだわりは、ヘアスタイルの写真だけでなく、9:1くらいの割合で私と子どものツーショットも載せること。「そうだ、ママだった」「子育て中なんだ」と親近感がわくかなと思うんです。
今後は「結べるボブ」でできるヘアアレンジや、季節ごとの髪の変化と対策方法など、見る人の役に立つテクニックや情報もどんどん発信していきたいです。
26歳で妊娠、27歳で出産してLONESSのママ美容師第1号となった櫻田さん。パートナーやサロンの代表に、いつでも自分の思いをしっかり伝えて、とことん話し合うことを大切にしてきたことが、今の活躍につながっています。
後編では、家事や育児の分担の仕方、家族の時間のつくり方、自分の気持ちのコントロール方法など、仕事と子育てを両立させる秘訣を教えていただきます。
取材・文/井上菜々子
撮影/喜多二三雄