しゃべりが苦手だったからサロンワーク試験の気遣いでアピール。自分が勝てる場所で勝負 「DADA CuBiC」安武茜さん
1997年に東京・表参道にオープンし、30年近い歴史を誇る「DADA CuBiC」。ハサミ一本でその人にあった、美しいスタイルに仕上げるカット技術は業界内でも評判で、運営するアカデミーには、日本各地から美容師が訪れる有名店です。そんな「DADA CuBiC」に入社6年目となるのが、安武茜さん。
前編では、サロン選びの際に安武さんがこだわったポイントについて伺いました。
後編では、安武さんが実際に体験した採用試験の様子について伺います。言葉でアピールするのは苦手だと感じていたという安武さん。スタイルブックの作成やサロンワーク試験での立ち振る舞いにすべてをかけて試験に挑み、無事に内定を手にすることができたそうです。
今回、お話を伺ったのは…
「DADA CuBiC」スタイリスト
安武茜さん
福岡県出身。祖母、父、母が美容師という環境で自然と美容師の道を志すようになる。福岡の美容専門学校を経て、2019年4月に「DADA CuBiC」入社。努力を重ねて、技術力を身につけ、2024年3月にスタイリストデビュー。「DADA CuBiC」で注目を集めるスタイリストのひとり。
答えを求めるより、自分で考える。戦略を立て、挑んだ採用試験
――「DADA CuBiC」の採用に応募を決めてから、準備をしたことはありますか?
その後も月に1回くらいのペースでお店に通っていました。私にはそこまで華々しい経歴があったわけではなかったので、顔を覚えてもらうこと、毎月通うくらい熱意があるということをくらいしか、アピールできることがないと思っていたんです。
――応募にあたって、スタッフの方にアドバイスを聞きましたか?
細かいことはあまり聞かないようにしていました。答えだけを求めてもだめで、受かるために必要なことは自分で考えるべきだと思っていたんです。ただ、うちのサロンの履歴書が当時ちょっと特殊で、履歴書、志望動機、学生時代にがんばったこと、フリースペースと5ページくらいにわたっていたんですね。フリースペースは絵が得意な人だったら絵を描いたり、コラージュ写真で好きな世界観を表現したり使い方は自由なのですが、そこにどんなことを書いたのかは聞きました。
あとはサロンで求められる人物像についても聞いて、積極的な人がいいよとアドバイスをもらいました。元々うちのサロンは、カットを担当するカッターと、カラーを担当するカラーリストに分かれた分業制を取っていました。今はどちらも担当することもできるのですが、技術の本質を追求するサロンであることには変わりないので、そのあたりの意欲がアピールできるかどうかポイントになると思うと。
――では意欲をアピールできるようなことを準備したのですか?
その先輩スタイリストの言葉を聞いていろいろと考えたのですが、私はしゃべってアピールするのが苦手なので、サロンワーク試験の動きや気遣いでアピールしかないと思ったんです。サロンの歴史は勉強しておいたほうがいいと言われたので、サロンのコンセプトや経歴を調べ、聞かれたら返答できるように準備しておきました。
――実際の採用試験の流れについて教えてください。
書類選考、集団面接、サロンワーク試験2日間、最終面接の4つのステップがありました。書類選考以降の試験は、それぞれ別日に行われたため、福岡と東京を何度か行き来する形でしたね。
――履歴書が特殊とのことでしたが、フリースペースはどのように使ったのですか?
黒歴史過ぎてあまり言いたくないのですが、手形を押したんです。私はデザインブックを別に作っていたので、また作品をフリースペースに載せてもな、と思って。絵も描けないし、どうしようかと悩んでいたのですが、熱意と気合いだけはあることをアピールしたかったのと、インパクトだけは残せるかなと思ったんです。
ただあまりいい方法だったとは思えませんし、ほかの人にはおすすめしません(笑)。ちなみに採用担当だった店長からもとくにリアクションはありませんでしたし、どう思ったかは未だに怖くて聞けません。
事前にスタッフの顔と名前を一致させ挑んだ、サロンワーク試験
――面接ではどんなことを感じましたか?
応募者が3人、面接官が1人という形で進行され、1対1でやりとりするというより、応募者の3人でセッションをするようなリラックスした雰囲気のなかで行われました。でも私は緊張してしまって、まったくうまく話せず……。
その面接の場には、のちに同期入社することになる男性スタッフがいたのですが、自分が書いたダイヤグラム(髪の毛の展開図)を持ってきて、カットが大好きだということをアピールしていて、こんなアピール方法もあるんだと思いましたね。私は普通のデザインブックを用意しただけでしたし、応募者の3人対しサロンの歴史も実際に聞かれたのですが、私ではなくその同期が答えていて。差をつけられたような気がして焦った記憶があります。
――それでも受かることができたわけですね。サロンワーク試験はいかがでしたか?
サロンワーク試験でアピールするしかないと思っていたので、かなり気合いを入れていました。事前にスタッフの方の顔と名前を一致させておいたのと、何度かサロンに通ってスタッフの方の服装の雰囲気もわかっていたので、サロンになじめるよう意識して洋服の準備をしました。
サロンワーク試験は土日の2日間で行われたのですが、予約表が真っ黒になるくらいとても忙しい日だったので、教えてもらう暇もなくスタートしました。お客様への接触はNGで、主にやることは掃除などのいわゆる雑用だったのですが、とにかく一番目立とうと思っていました。アシスタントの方からやり方を盗むのと、フロアを見て必要があればさっと動くこと、あと疑問点は自分で解決しようとせず、アシスタントの方に質問もちゃんとしてから動くように心がけていました。
――最終面接ではどんなことを聞かれましたか?
実際働いてみて、このなかでやっていける自信はあるかの意思確認をされ、「自信はあります」と答えました。想像以上に忙しかったですし、甘い世界ではないということがよくわかったのですが、先輩たちの技術も接客も素晴らしく、お客様もみなさん喜んでいらっしゃって、私もこうなりたいという思いが強くなったんです。
実は最終面接の日、体調不良で急に声が出なくなってしまい、小さな声しかでない状況だったんです。体調管理も仕事のひとつだと思っていたので、そんな状態を見られて、落ちたかもれないとすごく不安になりました。1週間くらい経ってから郵送で内定通知が届いたんですが、そのときは本当にうれしかったですね。
実際に足を運んでこそ、自分の求めるサロン像がわかる
――実際に入社してみてどんなことを感じましたか?
想像していたことですが、カリキュラムがかなり細かくゆっくり進んだんです。だから、専門学校時代の友人に働くお店のカリキュラムの進み具合を聞いたときに、成長の差を感じることもありました。ただ、私は器用なタイプではないですし、じっくり技術を身につけていきたかったので、焦らずにがんばろうと思いました。
このサロンでは、ベーシックな技術をとても大切にしていて、新人スタッフそれぞれに、10年くらいのキャリアのある大先輩たちがついて、かなり細かい部分まで教えてくれるんです。新人のうちからさまざまなお客様に対応できる基礎の力を身につけられたことは本当に良かったと思っています。今年の3月に5年目にしてスタイリストデビューも叶い、うれしかったです。
――最後に、これから美容師を目指す人にアドバイスをお願いします。
自分が望む美容師を目指すには、サロン探しがとても重要だと思うので、自分にどんなサロンが合うか調べることはもちろん、実際に足を運んでみることがとても大事だと私は考えています。インスタやホームページで見ていた雰囲気と実際のお店がまったく違うということもありますし、自分に合う、合わないというのは足を運んでみないとわからないことではないかと思うんです。
実際採用試験を受けにくる人のなかでも、試験で初めてサロンに来たという人もいるのですが、それだと入社後のアンマッチも起きやすいと思います。学生時代に、ぜひいろんなサロンに行ってみることをおすすめします。
あとは自分にとっての優先順位をきちんとつけておくことです。全部の条件を完璧に満たすサロンというのはなかなかないと思うので、自分にとって大切で譲れない部分はどこなのかを見極めて選ぶといいと思います。自分に合ったサロンを見つけて、美容師生活を楽しんでほしいです。
安武さんが就活を成功させた3つのポイント
1.サロンスタッフからのアドバイスは最小限にし、採用に必要な要素を自分で考えた
2.自分が苦手なしゃべりではなく、得意なサロンワークの動きでアピールした
3.自分のなりたい美容師像を、しっかり持ち続けた
安武さんのお話しを伺っていると、自分が望む美容師像を実現するため、しっかりと準備をして採用試験に望んだことが伝わってきました。また話すことによるアピールが苦手だとしても、自分の得意分野でアピールするなど、自分がどうやったら採用試験を突破できるか戦略的に考える姿はさすがだと感じました。これから採用試験を受けるという方はぜひ参考にしてみてくださいね。