社会人経験が長かったからこそ、現代人の生活や体の悩みに寄り添ったヨガを広めていきたい【ヨガ・瞑想講師 井上敦子さん】#2
一般企業で働きながら、趣味でヨガを学んでいた井上敦子さんが、ヨガインストラクターの資格をとったのは36歳。遅咲きならではの強みと、普及に励んでいる「寝る瞑想」について伺います。
お話を伺ったのは…
ヨガ・瞑想講師 井上敦子さん
大学卒業後編集プロダクションに勤めるも、ハードな労働環境に体を壊して1年で退社。心と体のためにヨガを学びながら、再就職先で10年以上勤務。36歳で思い立ち、ヨガの資格をとるためにインドに渡る。現在は、ヨガインストラクターのかたわら、瞑想法の一種でもある「ヨガニドラ」の指導者育成にも尽力している。
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インスタグラム:@yoga_atsuko.inoue
自分の人生を生きたいと思い立ち会社を退社
――敷かれたレールを進むのが正解、と思って生きていた井上さんですが、36歳で思い切って退社を決意します。
はい、理由はいくつかありますが、1番は「自分を活かしたい」「満足のいく生き方をしたい」ということです。
それって言い換えれば、人間の根本的な欲求なわけで、36歳の時急にそのスイッチが入ったのだと思います。
――タイミングだったというわけですね。
そうですね。じゃあヨガインストラクターになるにはどうしよう、と思ってまず考えたのが、退職してヨガ指導者の資格である「RYT200」を取ること。そこでインドに資格をとりに1か月半ほど行きました。
――それはとても貴重な経験でしたね。戻ってきてからは順調に仕事を得ることができたんですか?
最初は苦労しました。「RYT200を取れば先生になれる」と思って資格を取ったのはいいものの、それと仕事が入るのはまったく別の話で。
「そっか、就職活動しないといけないんだ」と思って、そこからは夢中で行動しました。
多くのインストラクターは、日本で指導者養成の学校に通って、卒業後その学校から紹介やコネクションがあったりして、先生としてのキャリアをスタートする人が多いと思うんです。
でも私は日本で資格を取っていないので、まったくルートがありませんでした。一から自分で開拓しなくてはいけないので、それはとても大変でした。
――不安になりませんでしたか?
ありがたいことに私にはずっと通っていたホームとなるスタジオがあって、そこに通う人たちが「先生になったらぜひ教えて」と言い続けてくれていたので、それが心の支えになっていましたね。
とはいえそのスタジオも「明日からどうぞ」というわけにはいかないので、まずは自分でサークルのようなものを作るところから始めました。
友人を集めてレンタルルームを借りて指導
――サークルメンバーは友人とかですか?
はい。ヨガ友達や会社員時代の同僚などを集めて、レンタルルームを借りてレッスンをしていました。
ポイントカードを作ったりもしましたよ(笑)。
――稼げるようになるのはまだまだ?
まだ全然! 生徒が2人の時もあったりして、スタジオのレンタル料を支払ったらそれで終わり、というようなこともよくありました。
それと並行して、外部のスタジオに売り込みに行ったり、オーディションを受けたりしていました。
そのうちの一つで飛び込みで行ったスタジオから、「ちょうど現在担当している先生が休職するから、その先生の分をまとめて受け持ってほしい」と言われました。急に週に6コマぐらい担当することになって、それは本当にラッキーでしたね。
「睡眠」という自分の得意分野をアピール
――井上さんは、ヨガインストラクターのほかに、睡眠講師としての活動もされています。
はい。私自身が小さい頃から睡眠トラブルを抱えていました。具体的には、眠れない・寝ても途中で起きる・眠りが浅い、といったようなことです。
会社員時代に何回か倒れたのも、過労と睡眠不足や睡眠の質の悪さが原因なのではないかと思っています。
そんな長年の悩みだった睡眠トラブルが、ヨガを続けるうちに改善されてきました。そういった自分の経験を経て、「ヨガと睡眠は密接な関係にある」ということに気づきました。
――「ヨガニドラ」のことは、どこで知ったのですか?
「睡眠の瞑想」と呼ばれているヨガニドラには、インドで出会いました。インドで初めてヨガニドラを体験している時、私ぐっすり寝てしまったんです。本当は寝るものじゃないのに(笑)。それでヨガニドラには、緊張をほどく作用があるんだな、と実感しました。
――「ヨガニドラ」を自分のヨガスタイルの看板にしようを思ったと。
はい。ヨガインストラクターとして個性を出すには、自分の看板が必要です。インストラクターとして2年ほど経ち、自分の方向性について考えた時に、これからもっと「睡眠ヨガ」を打ち出していこうと思ったんです。
――実体験に基づいていると、説得力もありますね。
私自身が15年間会社員をしていたことも強いかな、と思っています。ヨガインストラクターでありながら、一般社会人のリアルな悩みもわかる。現代の社会人にこそヨガが有効だよ、ということを自分の経験から語ることができます。
遅咲きのヨガインストラクターだからこそ、言えることなんじゃないかな、と思っていますね。
現代人の生活に寄り添ったモダンなヨガを提唱していきたい
――今後の展望はありますか?
日本全国でヨガニドラのワークショップや指導者養成を行いたいですね。今も少しずつ地方に呼んでもらえるようになったのですが、もっと地方出張を増やして、ヨガニドラを広めていきたいです。
もう一つは、自分のこととして、「もっと学びたい」と考えています。今は、アメリカやオーストラリアのヨガに注目していて、現地で学べたらなと思っています。
――アメリカやオーストラリアのヨガは、他と何が違うんですか?
古典的なヨガをベースにはしているんですが、より自由なアレンジが加わっている気がします。例えはヨガニドラでいうと、古典では「瞑想したまま30分」だったり、スクリプトの順番ががっちり決まっています。
一方現代的なアメリカやオーストラリア版ヨガだと、「とりあえず10分でもいいからやってみましょう」という風に、現代人の生活スタイルに合わせたアレンジがされています。
対象者も女性だけでなく、男性だったり子供だったりと間口が広い。
そういうところを自分の目で見て、日本に持ち帰って、日本の忙しい人たちに伝えていきたい、という夢があります。
井上敦子さんの成功の秘訣
1.苦しい経験は、成功のためにある
2.年齢を言い訳にしない。何歳からでも始められる
3.他人と比べずに自分が情熱を注げることを追求する
取材・文/皆川知子(tokiwa)
撮影/ワタナベミカ