表現としての本質はアートや芸術。表現するための手段がネイルなんです 私の履歴書 【ネイリスト isomuさん】#2
ネイル雑誌やSNSなどの各種メディアを通じて作品を発表し続け、そのアーティスティックなネイルアートで注目を集める、フリーランスのネイリスト・isomuさん。
前編では、isomuさんのネイリストとしてのルーツや北海道・札幌と東京におけるネイルサロン時代のキャリアについてを中心にお話を伺いました。
後編では、独立後の歩みやアーティストとして自身の目指すネイルアートの探究など、一人の芸術家としてのisomuさんの姿に迫ります。
ライフステージの変化をきっかけに、独立の道へ
――サロン所属のネイリストから、フリーランスとなった経緯を教えてください。
現在の主人からのサポートと、結婚することになったのが大きなきっかけです。28歳くらいの時でした。
当時は所属していたサロンが住んでいた場所から遠く、通勤の負担などを軽減できることから、独立するにあたっての準備もいろいろと手助けもしてくれたんです。自宅からも通いやすい世田谷区の二子玉川で、駅近のマンションの一室を借り、自分のサロンを構えてやってみることにしました。
――ライフステージの変化は、確かに大きなきっかけになりますよね。
そうですね。幸いにもお客様にも恵まれて、そこでは4年ほど続けていました。
その後、長女を出産することになったため、自分のネイルサロンは自宅の一室で続けることになります。続けて次女にも恵まれ、2人の娘の子育てにてんやわんやしつつ、自宅でサロンワークしたり二子玉川駅近のマンションでサロンワークしたりと行ったり来たりしていました。
――仕事と子育ては、どのように両立されていますか?
主人との協力ももちろんしていましたが、私の場合は気合いで乗り切っていたところもあります(笑)。
私は子どもと一緒にいる時間もうんと大切にしたくて、娘たちとの時間はしっかり取るようにしていました。ただ、その分徹夜をしてしまうなんてこともありましたね…。ネイルチップ作りはもちろんですが、表現したいデザインのために時にはオリジナルのパーツ作りからやらなければならないこともあって、これがまたとても時間がかかる作業なんです。家族との時間を確保するため、時には寝る間を惜しんで作業をすることもありました。
また、フリーランスとして比較的のびのびと仕事させてもらっているうちに、自身の心境の変化みたいなものも感じるようになっていきました。
――どのような変化ですか?
お客様が求めるデザインと自分の好みのデザインとに、ギャップを感じることが多くなっていったんです。もっと前衛的なデザインにもトライしたいと思うようになっていたんですよね。ネイリストとしてキャリアをつみ、独立してからも仕事を続けてこられたことで、ネイリストとしての自分にある程度満足できたことが大きな要因かなと思います。
幼い頃から芸術に触れて生きてきた私は、やはり現代アートや芸術の分野が好きなんでしょうね。自分の本来のルーツに戻ってきたような感覚でした。
前衛的なアートと生活との両立に悩みながら、試行錯誤を繰り返す日々
――isomuさんの芸術家気質からくる創作意欲を、ネイリストとしてどのように落とし込んでいったのでしょう?
そこなんですよ。そこは私もかなり悩みましたし、現在進行形で試行錯誤しています。なので、今やっていることをお話しする、という形にはなってしまうのですが…。
今や、男性でも指先を彩る時代ですが、2021年からラッパー兼シンガーソングライターのNovel Core(ノベルコア)さんのネイルを担当させていただいています。
さらに、NPO法人の日本ネイリスト協会が主催する、ネイルアートの素晴らしさを伝える著名人を表彰する「ネイルオブザイヤー」というアワードがあるんです。そこで、担当するNovel Coreさんがアーティスト部門で2度優勝してくれていることも実績になっていますね。
――すでにアーティストのネイルを担当したいという目標は叶えられているのですね!
そういうことになりますね。また、『NAIL EX』や『NAIL VENUS』といったネイル雑誌にネイルアート作品を掲載してもらったり、ファッション誌などのカバーモデルさんのネイルを担当したりすることもあります。
オファーをいただくだけでなく、自分から企画して動いたものもあるんですよ。
――詳しく聞かせてください!
雑誌『NAIL EX』さんに、創作ネイルの連載をやりたいとご相談したんです、企画書を送り、先方へプレゼンテーションもしました。その甲斐あって承諾してくださり連載してもらえる事になったのですが、企画のテーマ性を「SDGs」にしてはどうか、との提案がありまして。これがまた大変だったんですが、おもしろかったんですよ。
――具体的に、どのような内容でしたか?
「SDGs」って、持続可能な世界を実現するべく17個くらいの目標が定められていますよね。ジェンダーについての議論とか、プラスチックやペットボトルなどのリサイクル問題とか。そんな、それぞれの目標に基づいた世界観をネイルアートで表現しようという企画でした。
これが意外と難しく、デザインの考案に毎回頭を悩ませていましたが、今までできなかった大胆な発想や手法を試すこともできて、自身の表現の幅も広がった気がします。

――斬新な試みですね! アーティストさんとの協力関係に賞や雑誌といったメディア掲載など、幅広くご活躍されている印象です。
ありがたいご縁にも恵まれつつ、一人のネイリストから創作ネイルを強みとする一人のアーティストとしてのあり方を模索しながら、少しずつ活動の場を広げていくことができています。
これらの活動を通じて、私にとってネイルとは一つの表現方法であり、アート作品を創造することが最終的な目標なのだということにも気付かされました。
自分に嘘をつきたくないなら、自分を信じて行動あるのみ!
――アーティストさんのネイルやSDGsの企画のような、isomuさんが織りなす前衛的なネイルアートを生み出す感性は、一体どこから来るのでしょうか?
ネイルアートを創作する上で、他の方がデザインしたネイルを、私はあまり参考にしないかもしれません。現代アートや美術関連の書籍や写真集など、一見ネイルとは関係ないところにこそクリエイティブなヒントが隠れているように思います。いかに「芸術」という視点で見られるかが大事であって、基本的には暮らしの中で視界に入るものすべてが参考になるんじゃないかな。
何かしらのインスピレーションを得られたら、どうやってネイルアートに落とし込んだら素敵か、脳内である程度イメージを固めます。あとはもう、トライアンドエラーの繰り返し。納得いくまで試作を重ねて、作品として仕上げていきます。
こういった工程を存分にやり切ることができるので、やはりフリーランスになってよかったと思います。
――ネイルサロン所属時とは、仕事の仕方が全然違うのですね。
そうですね。完全にコントロールできるわけではありませんが、予約の管理や調整もある程度可能です。また、多忙なアーティストにネイルアートを施すためにこちらから出向くこともあるように、出張ネイルにも柔軟に対応できるのも強みだと思います。
――isomuさんのやりたいことにも、フリーランスというスタイルは合っているように感じます。他のメリットや、一方でデメリットを感じることもありますか?
SNSの普及などに伴って時代がガラッと変わり、今は何においても「個人」の時代になっているように感じています。発想力豊かなアイデアマンや好奇心旺盛な人にこそ、フリーランスは向いている気がしますね。あとは、現実的なことを言えばやはり売上の面でやりがいを実感しやすいことです。拘束時間や場所などの縛りや制約がないので、先ほどの出張の話のように自分次第でいくらでも動けるから、やれることの可能性も広いと思います。
一方で、自分がしたことの責任はすべて自分で取らなければならないのも事実です。自身のセンスやスキルを常に磨き続けるための情報交換や勉強も、自ら工夫する必要があります。もちろん、経理などお金周りのことも自己管理です。けど、そのくらいかな。あ、他のスタッフがいないので、自分のネイルアートをセルフでやらなきゃいけないことも、デメリットになるかもしれません!(笑)
――一人のアーティストとしてネイルアートを突き詰めているisomuさんですが、今後の展望はありますか?
今ちょうど企画していることがあります。私の作りたいデザインは、非日常的な特殊なデザインのネイルが多めなので、作品撮りをしているヘアメイクさんや、ジャケット撮影を必要とする歌手の方など…アート性ある方へのネイルチップのリース&販売はどうだろうか、と考えているんです。もちろん、一般の方も大歓迎です。
今までのサロンワークももちろん大切にしながら、何か新しいこともできないかというのは、常に探し続けていますね。
――美容業界を目指す方へ、アドバイスがあればぜひ!
いろんな人と会っていろんなことを経験し、自分のやりたいことを明確にしていく。この作業を怠らないでほしいですね。
私のネイリストとしてのあり方は、あくまで一例に過ぎません。ネイル用品のメーカーと契約を交わしてアンバサダーネイリストとして商品のPRをする方、独自のアート技術を生み出し、有料動画を発信する方、オリジナル商品の開発をする方。ネイリストという職業一つとっても様々なやり方・道があります。自分が希望する職種で成したいゴールを、それにとらわれ過ぎなくてもいいから、ある程度は定めることをおすすめします。
あと、これは自分に言い聞かせている部分もあるかもしれませんが、とにかく自分を信じること。自信を持って、前に進むこと。
評価されない時期は、誰しもに必ず訪れます。そんな時でも挫けず、周囲に迎合せずに自分のやりたいことを貫いてほしいです。目先の利益ではなく長期的な視野を持って努力を続ければ、きっと報われる時が来る。少なくとも、私はそう信じています。
――isomuさんにとって「働く」とは?
「自分を知ること」です。良くも悪くも、私にはネイルアートを通じて知った自分の姿がありました。
例えば、多種多様な企画やニーズに合わせてネイルアートを施したり、逆に自由な感性をネイルアートに昇華したりする中で、実は意外と発想力がある自分に気がついたんです。アートの世界において自分は何で勝負していけるのか、試してみたくなりました。
一方で、自信がなくて他人からの評価を人一倍気にする時期もありました。そのせいで時に落ち込むこともありましたが、今ではマイナスではなくチャンスと捉えて、好奇心を持ち楽しく乗り越えていきたいと思っています!
まずは、もっと自分自身が自分の作品を推して、自分の世界観を周りに広めていきたい。既存の枠にとらわれない可能性を、もっと自分の中に見出していきたい。
ネイルの分野って現実的な考えを持つ方々が多くて、大それた野望や夢を掲げる人はあまりいないように感じていたんです。もちろん、それも素敵なことで、生活のためにも必要なことだと思います。
でも私は、夢は大きく持っていたい。本当に好きなことを、こんなにも自由にやらせてもらっているのだから。
isomuさんの成功の秘訣
1. 自分の感性をアップデートし続け、具現化するための努力
2. 発想をきちんと行動に移す挑戦心
3. 自分の心にしっかり耳を傾けること
撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈
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