美容師の幸せもひとりひとり違う。その人に合った働き方を選んでいけるように【onn代表 安齋由美さん】#2

編集者やスタイリストなど、感度の高い業界関係者から熱烈な支持を集める、美容師の安齋由美さんが、念願のサロン「onn」をオープン! オープン直後のサロンに伺い、このタイミングで新規サロンを立ち上げたわけや、これからonnをどう育てていきたいかについて聞きました。またスタッフ働きやすい環境作りへのこだわりや、フリーランスのスタッフが多く在籍するなど、既存の枠組みにとらわれないビジネスモデルにも注目。これからの美容師の働き方を模索するうえで、ひとつの道標となってくれそうです。

後編では、代表取締役社長を務めた前サロンや、オープンしたばかりの「onn」について。「信頼できるスタッフに囲まれて恵まれている」と話す現在の状況について伺います。

お話を伺ったのは…

onn代表 美容師スタイリスト 安齋由美さん

福島県出身。地元の美容専門学校を卒業後上京。表参道の人気サロンに就職後、複数のサロンで実践を積む。前サロンでは代表取締役社長を務めながら、結婚と出産も経験。2025年6月、代官山に念願のサロン「onn」をオープン。シンプルなのにトレンドの抜け感が詰まった高い技術力に、多くの注目を集めている。

経営、スタッフの管理、自分でやってみたくなった

―― 先輩スタイリストさんが勤めていた美容室で8年ほど働いたあと、ついにオーナーと共に美容室を立ち上げます。

はい。美容師を続けるうちにいろいろと考えることが増えてきました。自分のやりたいこと、スタッフを成長させるためにしたい取り組み、ビジネス的な意味で「こうしたらもっとよくなるんじゃないか」と思うことが増えてきたんです。

周囲からも「安齋さんは独立が向いている」と言われることもあったのですが、31歳の時に急にスイッチが入って、「思い切って独立してみよう」と思ったんです。

自分のやりたいことができるお店を作りたくなったんですよね。

――とはいえ、美容室をイチから作るのは莫大な予算がかかります。ノウハウも必要ですし。

そうなんですよね。最初は自分一人でお店を出そうと考えていましたが、両親に強く反対されて……。それはそうですよね、親としては、30そこそこの娘に大きな借金を負わせたくはないですから。

そんな時にオーナーとなってくれる人がいて、32歳で念願のサロンをオープンすることができました。オーナーは複数の飲食店を経営していて、経営のことはプロだけど美容のことはまったく専門外。美容室の実質の経営は私にまかせてくれたので、自由にさせていただき、それは今でもとても感謝しています。

――現在はシェアサロンを使い、より身軽に働く美容師さんも増えています。その発想はありませんでしたか?

それはなかったですね。私は空間を大事にしたいんです。技術を提供するだけではなく、施術する空間や音楽、提供するお茶にまでこだわりたい。そういった点からも、独立するなら自分のサロンを持ちたいと思っていました。

美容師業界はブラック、というイメージを払拭したかった

――オーナーがいるとはいえ自分のサロンを持つ夢が叶いました。こだわった部分はなんですか?

「ホワイトな経営」をすることですね。スタッフに対して、福利厚生や休みもきちんと与えて、お給料も相場よりも高めに設定。その代わりしっかり働いてくださいね、ということです。もちろんお客様に対する接客や技術も、最高のものを提供します。

私が新人の頃は、朝早くから出勤して終電を超えても働いて、それでこのお給料!?っていうのが当たり前だったので、そういった慣習を払拭したかったという思いがありました。

――そのサロンでは代表取締役社長兼スタイリストとして10年務められました。

はい。8年目の頃に結婚と出産を経験しました。ライフプランとしては35歳ぐらいで出産したかったのですが、そこは少しずれて40歳での出産になりました。

子供が産まれて働き方を変えることになり、お店をたたむ前の1年半ぐらいは社長という肩書きを降りてフリーランスとして働いていました。

お店のオープンは11時からだったのですが、フリーランスになったことで時間の設定も自由になり、子供のお迎えで早く帰らなくてはいけない分、朝は9時から働いていました。おかげで育児と両立することができました。

2025年6月念願のサロンをオープン

――10年続けた前サロンをクローズし、このたび「onn」をオープンされました。おめでとうございます!

ありがとうございます。退職した理由は、私自身、子供が生まれたことで生活が変わった部分が大きく、独立して規模の小さいプライベートサロンを作ろうと思ったからなんです。

一方で前サロンは私が不在になったあと、スタッフがフリーランスだけになってしまいました。それでオーナーが「美容業態をクローズする」という判断をしたんです。

前サロンを閉じることになったこともあり、当時一緒に働いていたスタッフが私のところに来たいと言ってくれて、受け入れることにしました。結果一緒に働くスタッフが増えた分、当初の想定より規模の大きいサロンになってしまいましたが(笑)。

今いるスタッフのなかには15年以上の付き合いの人もいて、もはや家族同然。私自身も来てくれてとても感謝しています。

――現在onnで働いているアシスタントさんは、多くがフリーランスであると伺いました。正社員でないことは何か理由があるんですか?

フリーランスのアシスタントは複数人いて、何曜日と何曜日はこの人、別の日はこの人という形で回しています。彼女たちの中には他のサロンと兼務している人もいますし、別のサロンでスタイリストとして働いている人がここではアシスタントをしてくれたりもしています。

理由としては「自分のサロン以外も見て、いろいろなことを吸収したい」ということらしいですよ。

他にも地方と二拠点生活をしていて、1ヶ月のうち1週間だけうちで働いているスタッフもいます(笑)。そのパターンは私もさすがに初めてですが、「おもしろいじゃん」と思い挑戦してみました。

あと、フリーランスが多いもう一つの理由として、私が「今は新人を育てる時間を子供との時間に使いたい」と思っていることも大きいですね。新人教育をする時間が取れないので、経験のあるフリーのアシスタントさんに頼っています。

――スタッフにも柔軟な働き方を認めているのには理由があるのですか?

スタッフだって個人です。ひとりひとり事情があるし、幸せに対する考え方も違います。「売れっ子になりたい」と思う人もいれば、それが目的じゃない人もいる。人によって仕事への向き合い方が違うので、そこは常に話し合うようにしています。

――そういった経営が成立するのは、安齋さんがしっかり売り上げを作っているからですよね。

そうですね。私によっぽどのアクシデントがない限り、利益が出るような基盤は作っています。今はこのままおばあちゃんになるまで働けたらな、と思っています。

あとは、風通しの良いサロンでありたいですね。個人的な悩みもなんでも相談できて、みんなが気持ちよく働けるサロンを作っていきたいと思っています。

お客様の日常に携わることができる美容師は天職だと思う

――美容師としていつまでも現場に出ていたいという思いはありますか?

ありますね。一時期ヘア&メイクのお仕事のお手伝いをしていたこともあったのですが、私はやっぱり、「人の日常に関わるのが好きなんだ」と再認識しました。

髪を切って美容室を出たあと、その日の後半が少し楽しい気持ちになれるとか、その人の日常に影響を与えられるのが美容師の醍醐味だな、と思います。

予約もありがたいことにいつもいっぱいなのですが、できるだけ多くのお客様を受け入れたいと思っています。忙しい人も、お金を頑張って貯めて来てくれる若い人も、おしゃれをして日常を変えたいと思っている人も、常にウェルカムなスタンスでいたいんです。そのためにアシスタントと無理のない範囲で予約を受け付けるようにしています。

――お忙しそうですが、育児や家庭との両立のために工夫していることはありますか?

現場でお客様の髪を切る時間はどうしても確保したいので、その代わりに外部の仕事は少し減らしていますね。時間はどうしても有限なので。

――この先onnでやっていきたいことはありますか?

デンマークから取り寄せたというオブジェが、店内のいたるところに飾られている。

今回、お店をオープンするにあたって、デンマーク在住のキュレーターの方と、インテリアやアート作品を一緒に探しました。

彼女が現地で見つけてきたものを、オンラインで私も確認しながらやり取りをして。

ゆくゆくはそれらのオブジェやアート作品をサロンで販売していけたらな、と思っています。「onnプロジェクト」と名付けているのですが、さまざまなアート作品などを展示・販売して、サロンを盛り上げていきたいですね。

美容師とはまた違う視点で、素敵な作り手の作品を広めていけたらな、と思っています。

安齋さんの成功の秘訣

1.楽しいがパワーの源!楽しむことを忘れない

2.働き方を枠にはめず、それぞれの幸せの形を話し合いながら決める

3.健康第一。心も体も無理のない環境作りを心がける

取材・文/皆川知子(tokiwa)
撮影/ワタナベミカ


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onn
住所:東京都渋谷区恵比寿西1-34-23 代官山トキビル103
電話:03-6455-3338
onnのインスタグラム@onn_salon

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