『基本を100点まで磨き上げる』MINX・岡村享央さんのスタイリストを育てる教育法 ＃１
サロンにとってスタッフ教育の質の向上は大きな課題の一つです。そこで、大手サロンMINXの代表取締役社長としてサロンのみならず美容業界を牽引している岡村享央さんに、次世代のスタイリストを育成するポイントを伺いました。
スタイリストに必要なのはお客様を呼ぶ「発信力」と満足させる「提案力」
――美容師に求められる能力で岡村さんが一番大切だと思うものはなんですか
「美容師がお客様に果たす役割は『お客様の満足するヘアスタイルを創り上げる』こと。それに尽きると思います。
その役割を果たす上で、今は“お客様の気持ちを汲むこと”がより重要視されているように思います。お客様が“何を”望んで美容室を訪れたのかを汲み取り、希望通りのスタイルを創り上げることができれば、お客様は必ず次回以降もご来店してくださいますから。
後は、新規のお客様を呼ぶ力（SNSなどで効果的に宣伝をする力）と、お客様を定着させる力（技術力、デザイン力、コミュニケーション力）のバランスが取れていることも大切だと思います。新規をどんどん呼ぶことができても、美容師としての力量が足りなければお客様に満足していただき、リピートしてもらうことはできません」
――お客さんを呼び込む発信力と、サロンに定着してもらうための提案力の両方が大切なのですね
「MINXではお客様一人ひとりに『永久顧客』となっていただくことをテーマに掲げており、それに基づいたスタイリスト教育を行っています。ほかにも『生涯一美容師として活躍できる人材の育成』や『終身雇用ができる組織体制の構築』にも力を入れています」
スタイリストデビューしてからが教育の本番
――スタイリストの教育・指導を行うにあたり、今と昔で変わったことはありますか
「今はインターネットによる情報の氾濫によって“分かった気でいる”若手美容師が、昔に比べて増えたように感じています。私が若手だった頃は、今のように情報が簡単に手に入る環境ではなかったので、とにかく現場で経験を積むしかありませんでした。知識や技術は周りからどんどん吸収していくしかなかったです。今は手軽に情報に触れられる環境下で早いうちから色々なことを“知ってはいる”ものの、知っていることと“それができる”ということは決してイコールになりません」
――MINXはスタッフの教育にとても力を入れていると聞きますが、現在も岡村さんが直接指導をされているのですか
「はい。MINXではカット技術などのデビューチェックに合格した者がスタイリストになりますが、デビューしたら一人前というわけではなく、むしろデビューしてからが本当のスタートだと考えています。そのため、デビュー後売り上げが100万円前後になった若手を対象に、私がもう一度基本を教え直す勉強会を行っています。指導の期間はだいたい2年～2年半ほど。デビューした時点で80点くらいの実力を身につけているスタッフを、100点レベルの力量にまで引き上げることが目的です」
――長年教育・指導を行われてきた中での失敗や成功談について教えていただけますか
「失敗だったと思うのは、特にカットの技術についてですが、基本を十分に習得していないうちに応用技術の指導を行っても結果につながらなかったことですね。その失敗を受け、現在のように基礎からしっかりと教える指導方法へと改めました。そこからはスタッフがどんどん伸びていくようになり、基本技術を磨き上げることの大切さを実感させられましたね。このようにスタイリストデビューしたスタッフに基本指導を行う教育システムは、業界でも珍しいかもしれません」
指導の成果が上がらないのは、教える側に原因がある
――経験に基づいた教育方法なのですね。教育を成功させるために岡村さんが最も重要だと考える要素はなんでしょうか
「間違いなく、教える側の技量や適正の有無です。MINXでは講師チェックに合格したスタッフだけが後輩たちの教育と指導を行うようにしています。これは私の自論ですが、教育が上手くいくかどうかは教える側で90％以上決まります。だからこそ、教える側の資質がとても重要です。
中々成果の上がらない部下や後輩に対して『覚えが悪い』と責めるのは大きな間違いで、それは教える側の“指導の仕方が悪い”ということにほかなりません。だからこそMINXでは厳正な講師チェックを実施しているのです。
とはいえ、現在の教育システムが理想的かというと、そうではないとも思っています。まだまだ行き届いていない部分も多くありますので、より良い教育・指導をスタッフに提供できるよう、これからも日々ブラッシュアップに努めていきたいと思います」
後編では、これまで多くの一流スタイリストを育て上げてきた岡村さんが語る、スタイリストの個性を伸ばすための『教育哲学』についてのお話をお届けします。
後輩や部下の指導で悩みを抱えているには参考になるお話ばかりなのでどうぞお楽しみに！
取材・文／甘佐直人（レ・キャトル）
撮影／森崎一寿美
Profile
岡村享央さん
MINXグループ代表取締役社長
専門学校を卒業後、地元高知で美容師のキャリアをスタート。MINXへ入社後、25年以上MINXを支え続け、創立30周年を迎えた2016年に代表取締役に就任。現在の美容業界を牽引するスタイリストの一人。業界向けのテクニック本など著書も多数。
『技術だけでなく心も育む』MINX・岡村享央さんのスタイリストを育てる教育法 ＃２>>
