アート、ロック、ファッション好きが集まる美容室『SAIKA』
『SAIKA』は渋谷の中心部のすぐ近く、松濤の閑静な住宅街のなかに佇む美容室です。店内は、モダンインテリアのシンプルなデザインになっており、いたるところにCDや写真集、本が並び、ロックな雰囲気が漂います。そんな『SAIKA』のディレクターが齋藤嘉弘さん。幼少期より芸術、文学、音楽など幅広く知識をもっている齋藤さんの元には、芸術や文化的な事に造詣が深いお客さまが足を運びます。今回は、そんな文化人を魅了する美容室『SAIKA』をご紹介。前編ではオープンまでの道のりについて伺いました。
自分の人生にはアート、ロック、ファッションの3つしかない
――まず『SAIKA』をオープンした経緯を教えてください。
「オープンは1993年、私が32歳の頃です。都内で11年間サロン勤務した後に一度パリに渡り、その後現在の場所で開業しました。ちなみに、パリには美容留学ではなく、絵の勉強をしに行ったんです。あまりおもしろくなかったので、3ヵ月間しかいませんでしたが」
――なぜ絵の勉強をしにパリに渡ったのでしょうか？
「私の人生には、アートとロックとファッションの3つしかないので、本格的にアートを学ぼうと思って31歳の時にパリに行きました。しかしみんな保守的で、新しいことにチャレンジする気持ちが感じられなかったんです。ようするにロックの熱気がなくて、つまらなかったのですぐに帰ってきました。今までにないものを作りだすという、ロックの精神は私にすごく大きな影響を与えてくれて、こうして美容師として働いているのはロックと出会ったからです」
グラフィックデザイナーに憧れた学生時代
――それでは美容師になるきっかけについて教えてください。
「中学1年生の時に自分の顔にメイクをしたのがきっかけです。当時はグラムロックという音楽が流行しており、デビッドボウイやマークボランなど男性のミュージシャンが顔に化粧を施してステージに立っていて、衝撃を覚えました。実家が化粧品店だったこともあり試供品などを自由に使い、そのアーティストのマネをしていたんです。その後、パンクロックのファッションやそのヘアスタイルに興味を覚えて、自分の髪や友達の髪をカットし始めました。ちなみに、その頃は美容師になる気持ちはなく、レコードジャケットのデザイナーになること以外考えていませんでした。しかし両親に大反対されたので、自宅で取り扱いがあった化粧品会社が運営する都内の専門学校に入学することにしたんです。その会社に入社すれば、パッケージデザインや広告などのデザインの仕事ができるかもしれないと思ったので。そうしたらその学校が美容学校だったんです（笑）」
――専門学校への入学を機に美容師に興味を持ったのでしょうか？
「それが美容学生時代もほとんど美容師に興味はありませんでした。当時は男性の美容師はほとんどいない時代で、地元では『なんで美容師になるのか？』と不思議がられていましたね。美容師よりもグラフィックデザイナーへの憧れが強かったので、美容学校を卒業後は美術学校に入りなおそうと思い実際に入学しました。ところが美術学校に通っている時にバイトをしていた美容室がすごく厳しくて自然と鍛えられたんです」
入社4年目、25歳でトップスタイリストに
――なるほど。具体的にどのようなサロンだったのでしょうか？
「とにかくとても厳しいサロンでした。基本的な技術はもちろんの事、言葉遣い、礼儀など、とくに先輩には絶対服従でした。月に一度しかサロン内で技術試験がなく、合格できなければ床履きしかできず、お客さまのシャンプーさえ入れてもらえないんです。また、先輩美容師がやりやすいようにアシストできないと「もう明日から来なくていい！」というそんな世界でした。当然、「負けてたまるか」という思いが強くなりましたね。美容師は技術が誰よりもうまくなって、しっかり気遣いのできる人間力を身につければお客さまに気に入っていただけます。そして指名数が伸び、個人売上が良ければ経営者にも喜んでもらえるんです。とにかく『早くスタイリストになって先輩たちの指名や売上を抜けばいいんだ』と考え、必死に勉強しました。私は少年期よりオタク的な感覚をもっているので、誰よりも掘り下げて美容の勉強を当時したと思います」
好きなものをとことんまで追求する姿勢が印象的だった齋藤さん。後編では独立後の活動や、現在の若手美容師をどのように感じているのかなどについて伺いました。
技術よりも感性。常に新しいことを提案する美容室『SAIKA』>>
