美容師の独立 割引はしない。自社の力だけで集客できるサロンに Vol.15【SOZO 郡山恵三(KEIZO)さん、青木聡(TAA)さん】#1
美容師としての将来に「独立」という目標を持っている人も多いのでは? そんな人に向けて、サロンオーナーとして成功されている方の経験談をお届けする本企画。
今回お話を伺ったのは、日本で数少ないインターナショナルサロンとして世界各国から外国人が訪れる「SOZO HAIR&MAKE」の代表・郡山恵三(KEIZO)さんと青木聡(TAA)さん。当時は「必ず失敗する」と言われていた共同経営で10年以上も第一線として活躍されてきました。
前編では、お二人の出会い、お店の立ち上げで工夫したこと、サロンのビジョンなどについてお話を伺いました。特に「集客」する上で決して譲れない信条があるのだとか。
ロンドンの学校で同じクラスに
――お二人は以前、どのようなサロンにいらしたのですか?
郡山恵三さん(以下KEIZOさん):日本で何年かスタイリストをしたのち、もう一度勉強をしようと思ってロンドンの学校に留学したんです。卒業後は、イギリスのサロンに1年くらい、そのあとにニューヨークのサロンで5年くらい働いていました。
青木聡さん(以下TAAさん):僕はもともと海外で一流の技術を学びたかったので、高校を出てすぐロンドンに留学して、卒業後は日本のサロンで働いていました。KEIZOとはロンドンの学校で同級生だったんです。
――海外を見てこられて、日本と海外の美容業界にギャップを感じましたか?
KEIZOさん:僕が向こうで働いていたのは20年前になりますが、その頃はかなりありました。例えば、海外だとカット専門、カラー専門という風にそれぞれが別の職業なんです。日本だと一人で全部こなせないといけないので、一人前になるまでに時間がかかるんですよ。
あと、海外の人は美容師にプロとしての意見を求める人が多いですね。日本だと「こうしたい」とか写真を持って来たりするじゃないですか。でも海外は、「どうしたら良い?」とアドバイスを求められることが多く、全部お任せという人も結構います。美容師をリスペクトしてくれるというか。僕としては海外の方がやりやすいなと思っています。
TAAさん:こちらが言ったことをすごく受け入れてくれるんです。日本の技術力って非常に高いみたいで、僕らにとっては当たり前のことをしたつもりでも、向こうはすごく喜んでくれるんですよ。だから、日本の技術って世界一なんじゃないかなと思っています。
KEIZOさん:技術とか接客が細やかなんでしょうね。それにチップもいらないしね。
TAAさん:そうそう。海外だとサービスに満足していなくてもチップは払わないといけないしね(笑)。
――日本の美容室はやはりレベルが高いのですね!
KEIZOさん:わざわざ美容室に行くためだけに海外から来日する人もいますからね。
TAAさん:香港の方で3〜4ヶ月に一回の頻度でSOZOに通ってくれている方もいるんですよ。あと、台湾人のお客様に「台湾の雑誌に載ってたよ」って教えてもらったこともあります。僕らはそれを知らなくて、「え! 全然聞いてないんだけど(笑)」って。ありがたいことですけどね。
――ちなみに外国人のお客さんはどんなところに感動していかれるのでしょうか?
KEIZOさん:英語がこれほど堪能なサロンは日本にはあまりないと思っています。日本のサロンってまだまだ外国人に対して抵抗を示すところが多い気がするのですが、僕らは結構フレンドリーに接しているんじゃないかな。英語でオーダーを聞き取れるのはもちろん、コミュニケーションというか会話を楽しんでいますからね。いつもそれに喜んでもらえます。
TAAさん:受け入れてくれるのは向こうからすると嬉しいのかもしれないですね。「外国の方はウェルカムですよ」というお店は安心なんだと思います。
――お二人は何がきっかけで親しくなられたのですか?
TAAさん:本当は先にKEIZOが帰国するはずだったんですが、その日になって急に「帰らない!」と言い出して(笑)。
KEIZOさん:そう。急にもっとイギリスにいたくなっちゃって(笑)。
TAAさん:でも家を引き払ってしまっていたから、「僕の家に来ますか?」と提案して、一緒に住むことになったんです。海外だとシェアして住むのがわりと普通なので、他の男友達と3人でしばらく同じ家に住んでいました。
ーーお互いの第一印象はいかがでしたか?
KEIZOさん:僕の方が5つ歳上なんですが、最初のクラスでTAAと一緒だったんです。以前、池袋に柄の悪い集団がいたでしょ。彼を見た瞬間まさに同類だと思いましたね(笑)。聞くと池袋出身だっていうし、金髪でゴールドのネックレスをつけてたし。
TAAさん:確かにそういう格好をしてましたけど、違いますよ(笑)。KEIZOはTHE・美容師って感じ。全身真っ黒のファッションに金髪で、「美容師っぽい人がいるなぁ」と思いましたね。
KEIZOさん:まさか二人で共同経営するなんて全く想像していませんでしたね。
性格は真逆、だからこそ役割分担をしっかりしていました
――何がきっかけでお二人で独立しようと思われたのですか?
TAAさん:日本に帰ってからも二人でちょくちょく飲みに行っていたんです。その飲みの席で、未来の美容師像について話が盛り上がり、「世界の人を幸せにするサロンをつくろう!」となって、SOZOを立ち上げることを決意したんです。
KEIZOさん:二人とも他のサロンで役員を務めていたので、もともと経営に携わっていたんです。だから一人で独立すると言っても気持ち的にはあまり変わらないし、そこまで難しいことではなくて。でも、美容の力で世界の人を幸せにするという目標を達成するには一人では大変だと思ったんです。当時は色々な人に反対されましたけどね。
――なぜ反対されたのですか?
KEIZOさん:今の時代は会社に取締役が何人もいるのは当たり前になってきましたが、当時、業界で共同経営している人はほとんどいなくて、「共同経営」は失敗のビジネスモデルと言われていたんです。
TAAさん:絶対に喧嘩するからって。
KEIZOさん:だから色々とネットで検索しました(笑)。「共同経営 失敗」と検索すると失敗談がたくさん出てくるじゃないですか。それらをもとに、「そういう場合はどうするか」「財産はどうするか」などと二人で細かいところまで話し合って決めたていったんです。
TAAさん:覚え書きまで作ってハンコもきちんと押して(笑)。でも結局、今まで一度も喧嘩しませんでしたけどね。
――喧嘩せずに今までやってこられた秘訣は何ですか?
KEIZOさん:性格は真逆なんですが、その代わりに役割分担をしっかり分けていたことですかね。僕は経営側、TAAはサロンワークが得意なのでサロン側を。そして、お互いの領域にはあまり踏み込まないようにしていました。技術に関しては僕は口を出さないし、経営に関しては彼も口を出しません。僕も今でも半分くらいはサロンに入っていますが、後輩指導はTAAがメインでやってくれています。
TAAさん:経営に関してはKEIZOを信頼して全てを受け入れるつもりでいます。僕はKEIZOの船に乗って自分の得意分野を発揮するという感じ。それが良かったんだと思います。
――サロンのコンセプトや客層はどのように決めたのですか?
TAAさん:とにかく綿密に話し合いましたよね。
KEIZOさん:「美容を通じて世界をハッピーにする」というビジョンが先にあり、インターナショナルに目を向けて、スタッフも世界で活動していた人を集めようと。
TAAさん:かなりの時間を話し合いに費やしました。案を出し合って、書き出して、付箋を並べて、お互いの意見をマッチしていって、「じゃあ、うちの目指すところはここだね」という風に決めていきました。一年目の経営計画書はかなり厚めに作っていましたね。
サロン名も二人の本名を組み合わせたもの。僕の「聡(そう)」とKEIZOの「三(ぞう)」を合わせて「SOZO」にしたのですが、他に「創造する」という意味も掛けているんですよ。
――これまで大変だったことはありますか?
KEIZOさん:お店を拡張したときですかね。隣の物件を借りて、広告費もかなり使ったんです。結果、売り上げは上がったものの固定費がかさんだため、利益はほとんど増えなかったんです。2年くらい続けてみたのですが、ただ忙しいだけというか、スタッフが全然ハッピーにならないと思ってやめました。
リターン率を上げることがスタッフの幸せに繋がるんです
――集客の面で工夫された点はありますか?
KEIZOさん:実は、集客には大手の美容サロン検索サイトは使わないことが僕の理念でもあって、「値引きをしない」ことにこだわってきたんです。その分、僕らはターゲットをしっかりと決めて、広告費を抑えて、自社の力だけで集客できるような仕組みをつくっていきました。
――割引やクーポン利用を設けなければ新規客が取りづらいイメージですが…?
KEIZOさん:僕らも最初はそういうイメージはあったのですが、結局ターゲットに届く広告を打てていれば、割引をしなくても来てくれるということが分かったんです。
TAAさん:逆に割引をされると嫌がる人っていませんか? 満足したサービスを受けられると「割引かなくていいよ」って言ってくださるし、そういう方々が来やすいお店にしたいなと思ったんです。
KEIZOさん:うちはインターナショナルの人に向けてしか広告を打っていません。「安くしますよ! だから誰でも来てください」という感じではないんです。ターゲットの人が検索するワードをリサーチして、そういう人達にすぐに見つけてもらえるように発信しているつもりです。
川口市にも「cecai」という店舗があって、そこは単価が2万円くらいですが、値引きを一切せずともお客様は来てくれています。ホームページもだいぶ読み込まなければ価格が出てこないようなつくりになっていますし。マーケティングはしっかりできているんじゃないかな。
――ちなみにSNSがほぼ必須の時代ですが、SOZOでもSNSを活用していますか?
KEIZOさん:SNSは大事だと思いますよ。とはいえ、ただむやみに誰でも良いからフォロワー数を増やすのはどうかと思っています。今の僕らがやっているSNSは、どちらかというと新規の方よりも既にいらしてくれているお客様向けに発信している感じですね。
ただ、これからは動画の時代にもなりますので、新しいお店の公式SNSを使ってターゲットのお客様に向けてどのようにブランディングをしていくかを今考えているところです。
――新規数以上に顧客づくりを重視されているのですね。
TAAさん:新規数ばかりを求めていると美容師は絶対に幸せになれないですよね。必死にお客様を呼び込んで、毎回新しいお客様にカウンセリングをして、失敗しないように気を張って、でも会計は半額割引で、それでリピートしてくれなかったら別のお客様に同じことを繰り返して…ってやっていたら生産性が悪いし、スタッフも疲れますよ。しかも、一日中パンパンに忙しく働いても給料はほんの少し。そうなると、「辛いな」と思った瞬間に辞めちゃうんですよね。
だからこそ、お店を立ち上げるときからずっと「スタッフの豊かさを追求するサロン」を目指してきたんです。
美容師を幸せにするお店づくりの極意
海外を見てきたからこそ、「日本の美容技術」に誇りを持っているお二人。世界中から日本の美容技術を求めて来店される外国人が多い中、実はお二人が目指すのは「カット技術の頂上」ではなく、「お客様も美容師もハッピーにできるお店」なのだとか。そのためにサロンの立ち上げ当初から心に決めていたことを教えていただきました。
1.ターゲットを絞り、ターゲットに届く発信をする
2.新規獲得ではなく顧客を大事にする
3.スタッフが拘束されない勤務体制をつくる
▽後編はこちら▽
美容師の独立 若手が美容師を楽しめる業界にするために僕らは動く Vol.15【SOZO 郡山恵三(KEIZO)さん、青木聡(TAA)さん】#2>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)