あえて挑んだ未開の地。一つの手技を突き詰めたら世界が変わりました。私の履歴書 Vol.30【シェリルアンジェリ 代表 セラピスト川上拓人さん】#1

「アロマトリートメントは女性が施すもの」という概念に挑んできた、男性セラピスト専門サロン「シェリルアンジェリ」。代表を務める川上拓人さんは、男性セラピストの先駆者であると同時に、パリのセラピスト世界大会で優勝した「世界一のセラピスト」でもあります。今回は、川上さんにその開拓の道についてお話を伺います。

前編では、男性でありながらセラピストを選んだ理由や、それゆえの苦悩についてお聞きします。持ち前の運の良さでセラピストとしての就職先を手に入れたものの、「客が来ない」「広告が打てない」という壁に直面したようです。

KAWAKAMI’S PROFILE

幼少期〜就職

自分の名前に後押しされて男性セラピストの道に

――幼少時代はどんなお子さんでしたか?

僕、自分のことを天才だと思っていたんですよ。勉強もスポーツも何でもそつなくこなせるタイプで、先生にも自分のことを「天才」と呼ばせていたくらい(笑)。でも、小学5年生くらいになると塾に通い出したり、スポーツクラブに入ったりする子が増えるじゃないですか。それまで努力せずにポンポンできていたのが、上には上がいることを知ったのがその頃ですね。

――どこで努力型になったのですか?

上には上がいると知りながらも「まあいっか」と努力することを諦めていました。というのも、運がとても強かったんです。受験も運に助けられましたから。僕が入学した学校はかなりの進学校で、周りからは絶対に受からないと言われていて、だからといって勉強もしていませんでした(笑)。試験直前に高熱を出して病院で点滴を打ってもらったんですが、逆にそれがドーピングになったのか、脳がフル回転して受かっちゃったんですよ(笑)。結果的に努力せずに進学校の、しかも中高一貫校に入れたので、それ以降苦労することもなく大学まで進みました。だから調子に乗ってましたね(笑)。努力するようになったのはセラピストになってからです。

――それは確かに努力しようと思わなくなるかもしれませんね…。ちなみにどんな性格だったのですか?

もともと明るくてポジティブな性格でした。でも、中学生で思春期に突入してからはすごくシャイになってしまって。中学・高校時代のあだ名が「S・H・Y」でした(笑)。

――川上さんは大学は一般の四大ですよね。どのタイミングでセラピストの道を選んだのですか?

普通は大学3年のときに就活をはじめますよね。でも僕、就活しなかったんです。出身が高知県なんですが、東京に出かけたときに電車に乗っている人たちがみんな死んだ魚の目をしていて、流石にこうなりたくないなと思ったんですよ。だから、会社員になることは選択肢に全くなくて、手に職をつけて自分で何か経営しようと考えていたんです。何人かの社長さんとお話しする機会があったときに「好きなことをしなさい」と言われたことが胸に刺さっていて。「好きなことをしていれば、努力を努力と感じないし、すごく楽しいし、成功しやすい。だから好きなことをするのが一番大事だよ」と。

そこで思いついたのが、バーテンダーとセラピストの2択でした。バーテンダーは大好きなお酒が飲めると思ったから。そして、セラピストはなぜだったかというと、実は中学時代にニキビがすごくて、それでシャイになっちゃったんですよ。そのときに美顔器を親と共同購入したり、美容の知識も色々と調べて身につけたりして、美容に興味を持つようになったんです。

大学を卒業して一年間は両方を勉強してみて、それからどちらかを選ぶことにしました。

――男性でセラピストを選ぶというのは、中々思い切りましたよね!

当時、男性セラピストはほとんどいませんでしたね。が、それを逆手に取ったんです。僕、名前が「開拓する人」と書くんですよ。だから、未開拓の地は開拓しないと! と思って、大変だとわかっているセラピストをあえて選びました。名前に導かれちゃったんです(笑)。

――面白い決め方ですね(笑)。とは言っても就職先はあったのでしょうか…?

男性セラピストの求人はやっぱりなくて、男性の場合は個人でやるか、整体とかに行くしかなかったんです。だから、資格を取り終えたタイミングで見つからなかったら自分でお店をつくろうと決めていたんですよ。でも、やっぱりそこでも運が良くて、たまたま「表参道 オープニングスタッフ アロマセラピスト 男性募集」という求人が出てきたんです。いざ探しはじめた矢先に一発目でそれが出てきて、これだ!! と。

――すごい! そこでもトントン拍子! やっぱり呼ばれたんですかね。

呼ばれましたね〜(笑)。いばらの道を進んで、自分が第一人者になってやろうと覚悟を決めました。

下積み時代

一つの手技を1日5時間、繰り返しやっていました

――男性セラピスト専門店で実際に働きはじめて、最初、お客さんはどのような反応だったのでしょうか?

反応も何も、お客さんが来ませんでした(笑)。だって、大手美容サロン検索サイトは掲載NGだし、ほかでも「男性セラピストって何…?」みたいな反応で、結局どの広告サイトにも相手にしてもらえませんでした。だから毎日ビラ配りですよ。それでもお客さんが来なかったので、オーナーの知り合いに来店してもらったり、その方々からの口コミで広めたりして。でも、口コミは相変わらず広まらないし、再来店の価格を安くしてもダメでした。

最初は何でお客さんにリピートしてもらえないのかわからなかったんです。それで1年目は結構大変でしたね。だからこそ時間は鬼のようにあったので、その1年間でひたすら技術練習をして、基礎を固めることができました。

――その1年間で挫折しそうにはなりませんでしたか?

挫折しかけたことはありますよ。僕、わりと細身で、手もそんなに大きくなくてパワーがあるわけでもなかったんですね。それで、お客さんに初っ端から「君、細いね。チェンジ」と言われてしまって。でも、そのときは僕一人しかいなかったのでチェンジできるわけもなく、「頑張ります!」と何とかやらせてもらったのですが、まだ基礎ができていない頃だったので、「やっぱり力がないね」と言って途中で帰られてしまったんです。

悔しくて最初こそ怒りが湧いてきたんですが、やっぱり自分の力不足だなって。その日、仕事終わりに100均で鍛えるためのゴムボールを買って帰りましたよ(笑)。ほかにも、物理学とかを調べて、体重計を持ち込んで体重が一番乗るポイントを探ったりしていましたね。

――手技はどのように学ばれたのですか?

僕が通っていた学校では体の使い方までは教えてくれなかったので、最初は手だけでやっていたんですよ。ある日、海外で活動していた超ベテランのエステティシャンが助っ人としてうちに来てくれたんです。その人が僕の同僚の施術を受けたときにブチ切れたんですよ。「こんなんじゃ金払えねーよ!!」って。そこで初めて、僕らの技術は全然足りていなかったことに気づいたんです。

「基礎ができていないのに、ほかの手技を取り入れてもダメ。手技なんて3つで良い。その3つが完璧にできていればお客さんは絶対に満足するから」と教えてくださったんです。それからは、エフルラージュっていう超基本の手技一つだけを1日5時間、ひたすらやっていました。

――ずっと一つの手技を繰り返し、ですか!

「ふくらはぎと太ももは長さが違うから、同じスピードでやってもダメ」「手の角度ひとつでも、感じ方は全然違う」「いくら男性は手が大きいからといって、指先まで意識しなければ女性よりも小さくなる」など、僕らがそれまで気づかなかったことをたくさん教えてもらいました。行って戻って来るだけの手技でも「こんなに世界って奥深かったんだ!」って(笑)。

――川上さんの手技は、ほかでは見ないような独特のものも結構ありますよね。

僕、色々な技術や哲学を節操なく取り入れているんです。タイ古式マッサージ、バリニース、ロミロミ、エサレンマッサージなどなど。オーナーが海外好きだったこともあり、よく海外に連れて行ってもらえたので、そこで現地の技を習得して施術に組み入れたりしていました。2年目で店長に就任してからは自主的に海外に学びに行くようになりましたね。あとは、自分でオリジナルの手技を開発するのも好きだったんです。

――リピートしてもらうためにどんなことを工夫してこられたのですか?

メンテナスの習慣をつけてもらうために、次回予約を入れてもらうように促していました。とはいえ、セールスっぽくなるとお客さんは嫌な気持ちになってしまうので、リンパについて解剖生理学に基づいて教えるようにしたり…。

技術、知識、そしてもう一つ大事なのはおもてなしですよね。ウェルカムメッセージカードをお客さん一人ひとりに手書きで用意したり、名刺の裏に「今日はこの部分のリンパが詰まっていました」とか、お客さんが自分の体の不調がわかるように書き残したり。しかも、ただ渡すだけではなくて、アロマの香りをつけてお渡しするんです。寝るときにその香りを嗅いでリラックスできるようにと。香りって五感の中でも特に記憶に残るものなので、香りで施術を思い出してまた行きたいなと思ってもらえるじゃないですか。思い出というか、癒しを持って帰るというか。

――その名刺は手放せないですよね!

そうなんです。普通の名刺だとポーンってすぐどこかに行っちゃうけど、僕らのは捨てられない名刺になるんですよ。

名刺の裏面。
どこのリンパが詰まっていたのかを図に書き込むことで、お客さん自身が自覚を持てるようになるのだとか。

――ちなみに、男性に施術されるのはちょっと…というお客さんも中にはいますよね。

いらっしゃいますね。初めての方だとやっぱり緊張しているので、タオルワークから徹底していました。どういうタオルワークが安心感を持たれるのか、どこに立てば圧迫感を与えずに済むか、印象が決まる最初の7秒間で何をすればお客さんの緊張が解れるか…など、色々考えましたね。そうやって男性セラピストとして苦労してきたことや研究してきたことを活かして、今スクールの授業で心理学を教えているんですよ。

運の良さと、まさかのご自身の名前から背中を押されて飛び込んだというセラピスト業界。「本当にお客さんが来なかった…」という苦労を乗り越え、川上さんは現在、YouTubeで同じ男性セラピストに向けてたくさんのアドバイスを発信しています。次回、川上さんがセラピスト業界でどのように尽力してきたのか、その世界レベルでの活動をご紹介します。

▽後編はこちら▽
自分が与えた小さな愛が大きくなって返ってきました。私の履歴書 Vol.30【シェリルアンジェリ 代表 セラピスト 川上拓人さん】#2>>

取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)

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Salon Data

シェリルアンジェリ

住所:東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山ルカビル3F
TEL:03-6805-0358

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