美容業界の応援メディア
コラム・特集 2020-12-26

自分が与えた小さな愛が大きくなって返ってきました。私の履歴書 Vol.30【シェリルアンジェリ 代表 セラピスト 川上拓人さん】#2

男性セラピストのパイオニア・川上拓人さん。男性セラピスト専門サロン「シェリルアンジェリ」で代表を務めるほか、日本メンズセラピスト協会やインターナショナルセラピー協会などを発足させ、セラピスト業界の発展に尽力してこられました。

前編では、男性セラピストならではの苦労や顧客を増やす上で工夫されてきたことを教えていただきました。この後編でご紹介するのは、被災地でのボランティア活動や世界大会で優勝したときのお話、さらにこれからの時代における「癒し」の価値についてなど。たっぷりと語り尽くしていただき、最終的に行きついたのは「愛」でした。

協会&スクールの創設

ボランティアでアロマのパワーに気づきました

――川上さんは、店長になられた翌年に日本メンズセラピスト協会を発足させたとか。

学びたいけどきちんと教えてくれるところがない、という状況だったんです。アロマセラピストを専門にしている人が当時はあまりいなくて、例えば整体をやっている人がアロマもかじる感じで、教える側も基礎ができていなかったんです。スクールでも資格を発行してくれるところはほとんどないし、一般社団法人ではなかったので信頼度も弱くて…。僕が駆け出しの頃に苦労したのもまさにその点でした。だから、それらを解消できるスクールをつくりたいなと思って、まずは一般社団法人の協会を立ち上げたんです。翌年にスクールを開校したのですが、ニッチなところを責めすぎたことで逆に全国から男性がたくさん集まってくれたんです。やっぱり学びたいけど学べなかった人がこんなにいたんだなと実感しましたね。

もともとメンズに特化して教えていたんですが、僕の指導法が女性セラピストにも勉強になるということで、大手の美容系商社さんがスクールを立ち上げるときに、オープニング講師として呼んでいただいたんです。ただその当時、僕はまだ26歳くらいで最年少講師だったみたいで、生徒さんの方が年齢もキャリアも上で、最初は「あなたで大丈夫…?」という反応をされました(笑)。だから今度は、信頼してもらえる「講師としての教え方」を研究することになりました。

――本当に色々なことを研究されてきたんですね。あとは、ボランティア活動についても世間の注目を集めていましたよね。

正直に言うと、ボランティア大好きです! という人間ではありませんでした。協会でどんな活動をしていこうかと考えたときに、やっぱり社会貢献はしないとダメだよなと思いまして。東日本大震災のあとだったのですが、たまたまお店に福島出身のスタッフがいたこともあって、福島県浪江町の仮設住宅でアロマハンドをさせてもらうことになったんです。

そのときに新聞社が2社とテレビ局が僕らを取材してくれたんですよ。びっくりしたのが、お昼のニュースで僕らの活動が紹介されていて、僕らの施術を受けたおじいちゃんが「自分の体じゃないみたいだ」って泣いて喜んでいたんですよ。それを見て、「あれ? アロマの力ってすごいのかも…!」って気づいたんです。自分たちが思っている以上に、ストレスが溜まっている人に必要とされていているんだなと実感しました。また、僕らの癒したいという気持ちが相手に伝わるんだということも。

ボランティア活動でパワーを感じて嬉しくなって、アロマセラピー業界で最も権威のある「IFA(国際アロマセラピスト連盟)」で、「アロマタッチプラクティショナー」という、介護とアロマセラピーが融合した国際ライセンスを取得したんです。ボランティア活動をするならばきちんとスキルを身につけたいなと思って。それで、アロマタッチプラクティショナーの資格を日本で男性が取得したのが初めてだったみたいで、連盟の代表の方がイギリスからわざわざ僕のところに来てくださったんですよ。めちゃくちゃ嬉しかったですね! 今、世界を癒したいと思って活動しているのも、ボランティア活動がきっかけになったんだと思います。

――インターナショナルセラピー協会はどのような経緯で立ち上げられたのですか?

もともと好きなことを仕事にしようと思ってこの業界に入ったクチなので、大好きな海外でセラピストの仕事をして稼げるって最高だなと思っていたんです。最初は海外にスクールをつくろうとしたんですけど、法律上では現地の人じゃないと難しいみたいで。だったら、現地の学校と提携して仲良くなることからスタートと思ったのがはじまりです。現地に行って、直前にアポを取って、取材させてください! って突撃する、という感じでしたね(笑)。向こうの学校の良いところと悪いところを吸収して、実際に自分も留学させてもらったりして。お互いに紹介し合う形にして提携を結んでいきました。

――海外ではセラピストはどのような評価なのでしょうか?

日本ではまだまだ地位が低いし、社会的認知度もそこまで高くないですよね。でも、観光業が盛んな東南アジアだと、マッサージは観光に密接につながっていますし、男性セラピストも結構います。タイ古式マッサージやインドのアーユルヴェーダは伝統療法で、医療に取り入れられることもあります。足裏のリフレクソロジーは南アフリカでは国家資格になっているし、イギリスでは看護師がリフレクソロジーを発展させ、緩和ケアとして使っています。フランス・ベルギー・ドイツではアロマは漢方のような位置づけで、「メディカルアロマ」として薬局で売られているんですよ。

特にイギリスでは、ホリスティックアロマという概念があって、病気や怪我に対してだけでなく、普段の生活をより良いものにするためのメンテナンスとしてアロマを取り入れています。セラピストはお医者さんに行く前のお医者さん、みたいなイメージですよね。

――海外のお話を聞くと、日本ではまだアロマセラピーは信頼度が低いと感じますよね。

日本にはあん摩マッサージの国家資格があるので、僕らはマッサージという言葉が使えなかったり、何かと制限があるじゃないですか。もちろん治療ではなく、あくまで癒しを目的とするトリートメントですからね。でも、治すだけではなく「癒す」ことも必要だと思うんです。このコロナの時代ではなおさら。海外でもできているんだから、日本でも癒しのメンテナンスを習慣にできたらいいですよね。

世界大会に出場

日本人はセラピストに一番向いています

――川上さんはパリの世界大会でインターナショナル部門1位を獲得したことも話題となりましたね。

すごく嬉しかったです。1位という結果はもちろんなんですが、人種の壁を超えられたことがすごいと思って。2位がスリランカ人、3位がスイス人で、ほかにも南米からの出場者もいました。フランスではアジア人は差別されるのかなという不安もあったのですが、むしろ好意的に迎えてくれて。

面接では英語かフランス語のどちらかで話さなければいけなかったのですが、僕は丸暗記した英語で何とか意見を伝えることができ、言葉の壁もクリアできました。

また、海外では男性セラピストが多いとはいえ、大会の出場者は9.5割が女性でした。その中でも男性を1位に選んでくれたわけですから、性別の壁も超えちゃったんです。

真剣に誠実に取り組んでいれば、全ての壁を超えることができるんだと実感しましたね。

――プロの世界には国境はないのですね。ちなみに、どんなところを評価されたのですか?

評価基準は様々ありますが、例えば30分のバックボディの施術。見られていたポイントは姿勢の良さ、施術の流れ、リンパや筋肉のどこにアプローチしているのか、などですね。特に、フランスは芸術の国でもあるので、施術にもアートが求められるのかなと思い、手を止めない、流れるようなトリートメントを意識しました。ただし、施術の効果を出すということは決して忘れませんでした。老廃物を流すにしてもいきなりでは流れないので、ほぐして、温めて、ひねって、絞って、リンパ管に押し込んで流す…という一連の流れをいつもストーリー立てて施術しているのですが、そこも評価してもらえたのかな。

あとはおもてなしですね。びっくりしたのが、向こうの人たちってタオルワークがめちゃくちゃだったんですよ…(笑)。やっぱり日本人の繊細さにはどこの国も勝てないなと確信しましたね。タオルワーク一つ取っても、日本人の良さがアピールできたと思います。

――日本人の繊細さは世界でもダントツなんですね! やっぱり手応えは感じていましたか?

絶対に優勝したと思っていました(笑)。だから僕、授賞式でフライングしてるんです(笑)。大会主催者の方がスピーチで「ジャポネーゼ」って言ったのが聞こえて、自分の名前が呼ばれたと思って前に出ようとしたら、「違う違う! まだ発表すらしてないよ」と止められるっていう。完全に優勝したと信じきっていたのでちょっと調子に乗ってましたね。でも、やっぱり日本人はセラピストに一番向いている人種だと改めて感じました。これはもう間違いないです。

大会の授賞式にて。
世界一位となった施術シーンはご自身のYouTubeチャンネルにUPされ、再生回数はなんと280万回以上!(11月現在)

――大会後の反響はいかがでしたか?

YouTubeやSNSで大会のことを投稿していたら、「私も出たいです!」と言う人が集まってきてくれて。それで4人くらいを僕が特訓して、その大会の主催団体の知り合いに紹介したんです(残念ながら2020年はコロナで中止となりましたが)。今度は世界一の講師になろうと思いまして。僕が教えた人が世界大会で優勝したら、世界一の講師になれるじゃないですか。

――男性セラピストが世界で優勝したという功績で、男性セラピストの概念がいっそう広まったのではないでしょうか。

そうですね。でも、最近ではもはや「男性」にこだわっていないんです。性別にこだわるから壁ができてしまうのかなと思って。男女関わらずセラピストの価値を高めていくという考え方にシフトして、インターナショナルセラピー協会をもっと大きく構えていこうかと。

後進の育成

「愛のある」セラピストにするためにマインドを育てます

――サロンでは、どのようにスタッフさんを教育されているのですか?

スタッフはうちのスクールの卒業生なので、軸はもうしっかりできているんです。「どうすればお客さんを喜ばせられるのか」を考えられる、愛のあるセラピストです。ほかのサロンでは、限られた時間の中で技術を詰め込めるだけ詰め込んで、すぐに現場に送り込みますよね。うちの場合は生徒さんにお金を貰っている以上、たっぷりと時間を用意して教えているので、マインドを育てることができるんです。マインド=根っこさえしっかり教えていれば、僕がいなくても「お客さんのこと」を自発的に考えて行動できるようになるんですよ。だからうちのスタッフも、こちらから教えたわけではないのにタオルアートでお花やクマをつくったりしていて、いつも驚かされています。

――YouTubeでマインド系の動画をよくUPされているのもそのためなんですね。

実は、バックヤードってとても大事なんですよ。バックヤードはいわば木の根っこです。バックヤードで「これをやったらお客さんが喜んでくれた」「こういうときはお客さんにどんなことをすれば良いかな」などの会話がなされているサロンは強いですね。だって、お客さんの目の届かないところでもお客さんのことを考えているんだから、お客さんの前ではもっと一生懸命やっているってことじゃないですか。逆に、バックヤードでお客さんの悪口や不平不満が飛び交っているお店は絶対に潰れます。お客さんの前で無意識に態度や動作の節々に出てしまうし、施術も小手先だけになってしまうので。無意識って怖いんですよ。だから僕は授業でも潜在意識を鍛えるように教えているんです。

――「愛のある」とはそこから来ているんですね。

授業で一番最初に「愛とは何か」をやりますからね(笑)。面白いことに、愛は100%返ってくるんですよ。しかも、時間差で形を変えて。

YouTubeのとある美容系チャンネルでうちを紹介していただいたことがあるんですが、そのきっかけとなったのが、5年前にうちにレンタルサロンの営業で来た人が僕の対応に感動してくれたからなんだそうです。「お客さんだけではなくて、営業の人にも丁寧に接してくれるんだ」と印象に残っていたみたいで。さらに、その動画が公開されてから僕のフォロワー数も一日100人ずつ増えるようになって、一週間後にはYouTubeの閲覧数も急増したんですよ。大学の知り合いから「動画観てるよ」と連絡が来たり、スクールの入学希望者が定員オーバーになるくらい殺到したり。

5年前のちっちゃな愛が、僕の運命を変えるくらいの大きなパワーを持って返ってきたわけです。「ありがとう」や「お疲れ様」を言うなどの本当に小さな愛で良いんです。それが巡り巡っていつか大きくなって返って来ますから、ぜひ信じて実践してみてください。

――セラピストの仕事に限らず、勉強させられるお話ですね。

僕、エレベーターや電車に乗るときも愛を考えているんですよ。ボタンを代わりに押してあげたり、席を譲ってあげたり、その一瞬のコミュニティが少しでもスムーズに動くように何ができるだろうって。その場では返ってこないかもしれないけれど、そういう些細なシーンでもできたという自信になりますし、関係が深い人に対してならなおさらできるようになるじゃないですか。

世界大会に出場できたのも、フランスのスクールで勉強させてもらったときに、「すごく勉強になりました。ありがとうございました」ときちんと感謝の気持ちを伝えていたからです。そうするうちに仲良くなって、一緒にご飯に行くようになったのですが、その席で「世界で一位になりたいんです」と話していたら今回の大会を教えてくれて、しかも全面サポートまでしてもらえたんです。

逆に、愛の反対である「無関心」は無関心で返って来ます。相手に無関心な態度を取っていると、自分のこともどうでも良いと思われてしまうので、いざというときに助けてもらえないんです。

――川上さんが成功した秘訣はというと…?

やっぱり「愛」でしょうね。僕、資格を20個くらい持っているんですが、それもお客さんを喜ばせたいという気持ちから取得したんです。メンズセラピスト協会を立ち上げたのも、男性セラピストの働く場所を用意したいと思ったから。まだ成功したなんて言えないかもしれないけれど、周囲に関心を持ち、喜ばせたいという気持ちがあったからこれまでやってこられたのだと思います。

――コロナの時代、こちらのサロンのような居場所はもっと必要になると思いますが、これからの目標はありますか?

以前は世界一になることが目標でしたが、今は世界を癒すことが目標です。癒しは目に見えないので漠然としていますが、僕らの仕事はとても重要だと思っています。今、自殺者がとても増えていますよね。コロナは閉塞的な空間に人を閉じ込めて、私たちからコミュニケーションを奪ったんです。と同時に、誰かに愚痴を聞いてもらえることのありがたみを実感した人も多いはず。

そこにおいて、一番向いている職業はアロマセラピストだと信じています。整体だとカーテンで仕切られているので周りの目が気になるし、美容室だとどうしてもライトな会話で終わってしまいますが、アロマセラピーは完全個室です。そして僕が思うのは、アロマセラピーはトリートメントをする以前にコミュニケーションに価値があるんじゃないかと。そして、アロマの力で心と体の両方をメンテナンスできる習慣をつくっていければ、健康寿命は必ず伸びると思うし、自殺者も減ると思うんです。

――健康寿命ですか!

日本人って平均寿命は長いけど、健康寿命はそれほど長くないんですよ。実は病気になってからの時間が長いんです。医療が発達したおかげで、寝たきりになっても延命治療ができるようになりましたが、その間は幸せかと言われると必ずしもそうとは限らないですよね。それに、健康でいれば買い物や旅行もできるので経済が活性化しますよね。だから、寿命の中で少しでも健康でいられる時間を伸ばせたら良いなと。平均寿命を伸ばしてくれるのがお医者さん、健康寿命を伸ばすのが僕らセラピストの役割です。

例えばリラクゼーション保険をつくったり、自治体でリラクゼーション費用を補助する制度をつくったりするのはどうかなと考えているところです。保険は実際つくるとなると難しいみたいですが、自治体レベルでなら何かできるんじゃないかなと。もう少し自分が影響力を持てたら実現させたいですね。

川上さんの成功の秘訣

1.お客さんの心理を徹底的に考える
2.「喜ばせたい」という気持ちを持つ
3.どんなときも愛のある行動をする

▽前編はこちら▽
あえて挑んだ未開の地。一つの手技を突き詰めたら世界が変わりました。私の履歴書 Vol.30【シェリルアンジェリ 代表 セラピスト川上拓人さん】#1>>

取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)

Salon Data

シェリルアンジェリ

住所:東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山ルカビル3F
TEL:03-6805-0358

この記事が気に入ったら
いいね!してね

この記事をシェアする

編集部のおすすめ

関連記事