考えを押し付けるのではなく、対話を通してスタッフが輝ける場所を提供!「Le’Salon RYiCA」タナカエミさんの人材育成術
創業50年の美容室「Le’Salon RYiCA」の店長を務めるタナカエミさん。お店に20年以上も通ってくれる顧客を100人以上も抱える、人気美容師です。
前編ではなぜ顧客が増え続けるようになったのかを伺いました。見えてきたのは「美容師と顧客」を超えたタナカさんとお客さまの関係性。美容師として美容の困りごとをしっかり解決する技を提供しながら、お客さまにもたくさん助けてもらってきたというタナカさん。お店を引き継いだ当初、4人中3人のスタッフが辞めてしまうという事態に陥ったときも、なんとお客さまがスタッフを紹介してくれたといいます。また物販の売上が月80万になることもあるというタナカさんにそのコツも伺いました。
後編ではタナカさんに、人材育成について伺います。すぐスタッフが辞めてしまうサロンも多いなか、お客さまの紹介で採用した2人が9年経った現在も働いているのだとか。ポイントは対話。自分の考えを押し付けるのではなく、対話をしながらスタッフが実現したいことをヒアリングし、落としどころを見つけるようになったら、よりよい関係が築けるようになったといいます。
今回、お話を伺ったのは…
タナカエミさん
美容師歴24年。創業50年の美容室「Le’Salon RYiCA」を先代である叔母から引き継ぎ、二代目として、店長を任されている。リピート率は98%で、20年以上の付き合いがある顧客が100人以上と、信頼も厚い。一方ふたりの子どもを育てながら美容師を続けてきた経験を持ち、同じく子育てをしながらフリーランス美容師として活躍しているたえさんとふたりで「たえみ」を結成。働く女性が楽しく生きるための情報発信をしている。また求人サイト「シゴトリ」と業務提携を結び、ママ美容師を採用する企業美容室のアンマッチを防ぐためのコンサルティングも行う。
スタッフそれぞれが輝ける環境を模索して
――9年前にお客さまが紹介してくれた2名のスタッフが、現在も働いているとお聞きしましたが、接するうえで心がけていることはありますか?
対話を大切にするようにしています。私にも曲げられない軸はあるのですが、それを押し付けるのではなく、スタッフはどうしたいのかを確認し、落としどころを模索するようになりました。
たとえばお店の経営を担っている立場からすると、やはり売上はあげてもらわないと困ってしまうと思うんです。でもそこで「売上をあげてほしい」と伝えるだけでなく、どういう形であればそれぞれが納得して、さらにスタッフが輝けるかを、常に対話しながら模索していますね。
――もう少し具体的に教えていただけますか?
9年務めてくれたスタッフのひとりは現在チーフを務めてくれているのですが、対話をして知ったのは、新しいことにチャレンジしたいという思いを持っていること。そこで今このサロンでできること、お客さまにもっと喜んでもらえることは何かをチーフが考え、ナイトサロンを始めることになったんです。お店の営業が終了したあとの時間帯で、集客や経営を実際に彼に担ってもらっています。
ほかにも、もうひとりのスタッフはハサミは握りませんが、美容師免許を活かし、自身が大好きな美容をよりお客さまに伝導していきたいと、エステやアイラッシュ、スパに特化した道を邁進しています。手があいているときはカラーやシャンプーも担当していますのでお客さまからの支持も厚いスタッフです。それぞれのスタッフが輝き出すと、結果として売上がついてきて、お店にも、スタッフにも還元されるいいサイクルになっていると思います。
だれよりも自分がやり切ることで、背中を見せる
――タナカさん自身は先代の厳しい環境で育たれたとのことでしたが、スタッフの方にはあまり厳しく言ったりはされないんですか?
そうですね、あまり言葉でいろいろと言っても意味がなくて、自分が見本になるしかないのかなと思っています。叔母にも「店長って何でもできるから、人より多く給料もらってるんでしょ」とよく言われました(笑)。なので今でも、シャンプーも掃除も、自分もやるようにしています。
ただ言葉にしないだけで、態度がぴりっとしているときもあると思いますね。「たまに怖いです」と言われることがあるので(笑)。でもみんなそれで気付いてくれるスタッフに成長してくれていて。とくにチーフは「店長があれだけやってくるのに、俺たちダメじゃないか」と声かけてくれるんです。
スタッフたちとの関係性がどうしたら良くなるかと考えると、やっぱりお互い心を配りあうことが大切なのかなと。私もスタッフに対して気付かなくてはいけないと思います。最近、若い世代をZ世代だとか言いますけど、基本的には人と人との間に必要なことは変わらないと私は思うんです。導いてほしい、話しかけてほしい、認めてほしい。そういう気持ちはどの世代も一緒ですよね。
――確かにそうですね。ほかにもスタッフの方を育てるうえで心がけていることはありますか?
魅力的なスタッフに育てることがとても大切だと思うんです。そのためにまずスタッフに「もし自分が施術してもらうなら、どんな美容師にやってもらいたい?」と聞き、自分が施術してもらいたい美容師像を目指すように伝えています。そうしているうちに、自分にあったお客さま、つまり接し方の好みが似ているお客さまが付いてきます。
自分のなりたい姿を目指せるように。自信を付けられるように。お客さまに愛していただくことを知れるように導く。自分のカラーを見つけ、自分に自信を持っていくことで段々とその人らしい魅力のあるスタッフに育つと思っています。
人を育てることは、すごくやりがいがありますよ。何にもできなかったスタッフが、接客や技術でお客さまを喜ばせている姿を見ると、子どもが初めて立ったときのように感動してしまいます(笑)。
女性美容師がもっと輝けるように
――フリーランス美容師のたえさんと「たえみ」として活動されていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
女性美容師がもっと輝けるために何かできることはないかなとずっと思っていたんです。そんなときに、自分と同じような境遇で美容師をしてきた、たえさんと出会い、すぐに意気投合して、「たえみ」を結成。一緒に発信をするようになりました。
――「たえみ」として目指していることはどんなことでしょうか?
まだまだ女性美容師が長く働いていくにはハードルがあるので、その実現のために動いていきたいと思っています。
最近では女性の復職支援をしている「シゴトリ」の社長さんと知り合いになり、ママさん美容を採用しようとしているサロンに行って、サロンとママさんのアンマッチが起きないようにコンサルティングをさせてもらっています。女性だけが変わるのではなくて、会社がママさんたちに寄り添ってくれるようになるといいなと思っていますね。
美容師になりたいと考える人が減っているので、中途採用の人がどれだけ増えるかが今後の鍵になるかと。「たえみ」として活動を続け、お客さまを笑顔にできる美容師が増えればうれしいです。
タナカさんのスタッフ育成3つのポイント
1.対話を通して、スタッフが輝ける場所を提供する
2.言葉で伝えるのではなく、だれよりも自分が結果を出す
3.スタッフそれぞれが自分のカラーを見つけ、お客さまに愛されるように導く
ひとつひとつの言葉に、ずっしりと重みを感じさたタナカさんのインタビュー。それは24年間、お客さま、スタッフ、お店のために動いてきたからこそ出る重みなのだと感じました。美容師としてもっと活躍したい人は参考にしてみてくださいね!