小暮モエ interview:ヘアメイクに興味をもったきっかけ。そしてヘアメイクアーティストになってみて
モデルさんや女優さんからの指名が後を絶たないヘアメイクアーティスト、小暮モエさん。スタッフクレジットを注意して見てみると、小暮さんの名前がない雑誌はないんじゃないかというほどの活躍ぶり。それこそが、今まで真摯に仕事をされてきたことを物語ります。裏方ゆえの喜びを、リジョブに初めて語っていただきました。
大学時代に、転機が
「もともとは、お洋服が大好きだったんです。地元は群馬なのですが、高校生の頃は、日曜日とかに親に内緒で表参道に行って買い物したりして。高校を卒業したらとにかく東京に出たくて、親を説得できる栄養士の学部がある大学に行きました。 大学生になって、よく行くお店で知り合った友だちに、なぜかヘアメイクが多かったんです。その人たちがね、みんな大人なのに、すごく楽しそうに仕事の話をするんです。その人たちを見てたら、メイクの仕事っていいなあ、私もやりたい、って単純に思えてきて。 でも、そう言ったら『やめた方がいいよ』って止められました。止められると、『なんで!? これはやってみなくちゃわからないな!』と、逆に燃えてしまうでしょ(笑)! やがて本格的にヘアメイクを目指すことにしました。もちろん親は猛反対。学費を出してもらっていたので、それはそうですよね。申し訳なかったですが、気持ちは止まらなかったの」
栄養士をやりながら、ヘアメイクの道へ
「本気でヘアメイクになりたいってことを友人に伝えたら、『美容学校は出た方がいい』って言われたんですね。メイクだけじゃなくて、ヘアの基本も学んだ方がいいと。でも、もう親には頼れないなって思って、大学卒業して栄養士免許取得後は、栄養士の仕事をして入学金を貯めました。それと並行してヘアメイクのスクールにも通って、二足のワラジを一年間続け、美容学校に入学したんです。そして卒業後、ヘアサロンでのインターンを経て、ようやくヘアメイクさんのアシスタントに就きました。 だから、私は『ヘアメイクになりたい』って思ってから実際にその仕事に就くまではすごく時間がかかってるんですよね。 アシスタント時代はすごく厳しかったです。付いた先生がそれはそれは厳しい人で、渡すブラシを間違うと『違う!!』って投げられたりして、絵に描いたような修業時代(笑)。でも苦しいと思ったことはなかったんです。失敗したら怒られるのは当然だと思っていたし、この仕事に関われるのが何より楽しかったのね。 今から思うと、私は別の世界も経験してから入ったから、学生からすぐにこの世界に入ったアシスタントに比べて耐性がついていたのかもしれないです」
日々、違う緊張感があるから楽しい。
「ヘアメイクってどんな仕事なんだろう…と思っている方もきっと多いですよね。私は主に雑誌や広告の仕事をしています。たまにCMも。モデルさんやタレントさんなどを、その企画のイメージに合うように編集・カメラマン・スタイリストの方々と相談をしながらヘアやメイクを整えます。日によって違う人の肌質・毛質などを考えながら、クライアントが表現したいイメージをその時のスタッフみんなで創りだしていく。日々緊張感があって、日々創られるものが違う。それがとても楽しい仕事ですね。 モデルさんや女優さんとの距離が近いですから、良くも悪くも気持ちが直に伝わりやすくもあります。 一度、初めて伺った大物女優さんの撮影でロケバスが遅れてしまったことがあって、その時はメイク中ずーっと怒られていました(私のせいではないんですが……(笑))。でも撮影を終えるとすごく仲良くなり、またお仕事を頂いたりしました。それはそれは刺激的な毎日です。 アーティストさん専属で舞台やコンサート等に一緒に回るヘアメイクもいて、私もたまにそういうお仕事もしたいなぁと思う時もありますが、今は雑誌や広告のお仕事が楽しいし、ずっと続けていきたいと思っています」
失敗を待ちこさないのが秘訣!
「ヘアメイクをした女優さんから『この顔はちょっと違う』と言われて、全部やり直したり、ということもざらにあります。髪をセットした後に、お気に召さなくて洗われたりとかね。相手は顔が商品の職業ですからこだわりがあるのは当たり前ですし、その時はがっくりしますけど一晩寝ると忘れちゃう(笑)。失敗談もたぶんあると思うんですけど、覚えていないの(笑)。あまりクヨクヨを長く持ちこさないようにしています。それがこの仕事を長く続ける秘訣かもしれません。次の現場に引きずってはプロ失格でしょ。 嬉しいのは『今日の私の顔、好き』って言ってもらえた時や、『メイクの持ちがすごくいい』、『指の使い方がソフトで気持ちいい』とか(笑)。本人以外では気付かないような細かいことを褒めていただけると嬉しいですね。 あとは、すごく満足感のある仕上がりを見た時。メイクはトータルバランスだと思っているんですけど、メイクもヘアスタイルも洋服も、写真自体の色とか構図も、全てひっくるめて『これ好き!!』って思う仕上がりってそうそうないので、そういう仕上がりに巡り合った時はとても嬉しいですし、この仕事をやっていて良かったなあ、と思います」
道具やブランドに固執しない
「メイク用品などはどんどん新しいものが出ますし、気にいったもの一つをずっと使うということはあまりないですね。たぶん、私自身が雑多なんですよね。固執がないというか、いろいろなものが好きなんですよ。メイクの勉強などは、雑誌も見るんですけど、街に出掛けることも多いです。人を見たり、プチプラコスメを見に行ったり。今の若い人ってメイクがすごく上手だから、若者ブランドもあなどれないです。 もちろん、高級ブランドは発色や質感が素晴らしく、成分もお肌に優しいものが多いんですが、例えば『すごくいい!』と言われているオーガニックコスメが、ハーブアレルギーのモデルさんには使えなかったりしたこともあるので。評判のいいものは使いますが、あまり固執はせずに、新しいものを吸収していった方がいい気がします」
ヘアメイクアーティストを目指すなら
「ヘアメイクになる方法は、いろいろな道があると思いますが、私自身としては美容学校は出ていて良かったです。現場でブローができないのがいちばん困るので、髪やヘアブラシを扱う基本が学べたのはとても良かったです。 もちろん、学校に行かず直接ヘアメイクさんのアシスタントに応募してしまうのがいちばんてっとり早いのですが(笑)。それでも、できるだけアシスタントは長く続けた方がいいです。『もう自分にはできる』と思うのか、早い段階でアシスタントを辞めてしまう人もいるんですが、その後、誌面や他の事務所などで見ないですしね。まずは完璧にアシスタント業務ができるようになってから独立した方が、あとあと自分が楽ですね。 ヘアメイクからスタイリストになる人もいるし、ヘアメイクからカメラマンになった人もいます。何かをやりたいと思うことに遅すぎることはないです。ジョブチェンジも早い遅いは全く関係ない。でも、今、転職したいと考えている方は、まずは今の自分の仕事を完璧にこなせるようになってからの方がいいと思います。人生に無駄なことはひとつもありません。今までの勉強やキャリアが、次のステップで必ず自分を助けてくれますよ」
周りに気を配れるようになったら一人前
「これからヘアメイクを目指す人に言えることといったら、『めげないで頑張って!』ですね(笑)。 毎回違う現場ですし、様々なスタッフやクライアントとのやりとりが発生しますから、対人スキルは絶対に必要です。もちろん技術向上の努力は必要なのですが、それよりも重要なのは人間力なんですね。 私が今、アシスタントを見ていて『この子はもう一人立ちできるな』と思うのは、周りにきちんと気を配れるようになった時です。先の先を読んで動けるようになったら独立してもやっていけます。自分のことしか見えていないうちは、まだまだ仕事とは言えないですね。 私が一人立ちして間もない頃にエレベーターの中で久しぶりに会った知人に『モエ、なんか顔つきが変わったな』って言われたんです。仕事に自覚ができたって、雰囲気に出ているってことが嬉しかったです。やっぱり顔に出るらしいですよ(笑)。でも、それで認められたらすごく嬉しいですよ!」
将来に残したい、普遍的な「美」
「影響を受けたヘアメイクさんは、太田文夫さんていう方。当時お洒落の最先端だったOliveなどの雑誌で活躍されていた方で、太田さんみたいなヘアメイクになりたくて、アシスタントに応募してみたんですけど、その時すでにアシスタントがいらっしゃったので断られちゃったの。独立してからスタジオで会って、『がんばってるね!』って言ってもらったんです。すごく嬉しかった! 太田さんのお仕事はずっと心に残っているんです。 基本的に、ファッションって流れるものじゃないですか。でもずっと、流行に関係なく残っていくものってあるでしょう? そういう作品が残せたら素敵ですね。全体的にしっくりくる、普遍的な”美”を残せるようになりたいと思っています。 今は雑誌も少なくなっていると言われていますけど、増えてもいるので。お仕事はありがたいことに忙しくさせてもらっているので、このお仕事をずっと続けていきたいですね。 見た目は華やかだけど厳しい世界だから、新しい技術や道具、カメラの特性なども覚えなければいけないし、プレッシャーもすごくある。スタイリストさんとカメラマンで方向性の意見が割れる時もしょっちゅうあります。現場ではアンテナを常に立てておいて、みんなが満足できる方法を探りださなければいけません。でも、好きなことのための苦労は楽しくて、喜びも大きいです。やりたいと思った人は、自分を信じて第一歩を踏み出してください!」
Profile
小暮 モエ(こぐれ もえ)さん
ヘアメイク事務所「+nine(プラスナイン)」所属 伊藤五郎美容室にてサロン経験を積み、ヘッズを経て、現在はフリーのヘアメイクアーティストとして、TVコマーシャル、スチール、雑誌などで活躍中。 透明感のある瑞々しいメイクに定評があり、原田知世さん、三浦りさ子さんなど、有名女優さんからも絶大な信頼を得ている。スチール広告では伊勢丹、Kodak、カネボウ、JTB他。CMでは旭化成、AGFブレンディー、花王ニベア他。
Company
+nine hair&make-up
CMや広告・ファッション雑誌などで活躍する、ヘアメイクアーティストのマネージメントオフィス。 ご依頼やスケジュールなどのお問い合わせは、お電話にて。 ※現在、一般の方へのヘアメイクは行っておりません。