ウェディングに捧げた大充実の仕事人生。妊娠をきっかけに仕事スタイルをチェンジ【ヘアメイク Hitomiさん】#1
これまで数々の花嫁たちを送り出してきたヘアメイクHitomiさん。ハワイ挙式がブームになる少し前にハワイに渡り、ハワイウェディングを盛り上げてきた方です。フリーランスとなったあともたくさんの指名を受け、国内外を飛び回ってきたそうですが、望んでいた妊娠を機にスパッと仕事量をセーブすることに。子どものために、けれど自身も納得した上で仕事のスタイルを変えてきたのだそう。
前編では、Hitomiさんのこれまでのヘアメイク人生と、妊娠中の仕事への向き合い方についてお話しいただきました。
教えてくれたのは
ヘアメイク Hitomiさん
元美容師。ヘアメイクに転身後、ウェディング会社に入社し、花嫁のヘアメイクを担当。5年間をハワイ支店で過ごし、帰国後にフリーランスに。現在はウェディング案件だけでなく、幅広い業界でヘアメイクを請け負う。2年前に結婚し、今は1歳の男の子のママ。
ハワイ転勤でウェディングのヘアメイクの楽しさに気づいた
――Hitomiさんのこれまでの経歴を教えてください。
実は美容師をやっていたのですが、薬剤やシャンプーによる手荒れに悩まされ、1年弱で泣く泣く辞めてしまったんです。美容の仕事は続けたかったので、薬剤を使わない仕事って他に何があるだろう?と考えた結果、ヘアメイクに転向することに。
最初はヘアメイクになるための入り口がわかりませんでした。前に勤めていた美容室にウェディングのヘアメイクのメニューがあったこともあり、とりあえず大手のウェディング会社に入社することに。そこの専属ヘアメイクとして働くことになり、ヘアセットもメイクも全て基礎から学ばせてもらいました。
――最初は会社員としてヘアメイクのお仕事をスタートされたのですね。ウェディングのヘアメイクは実際いかがでしたか?
最初は、辞めたいと思っていました。
私、すごい気にしちゃう性格で、当時は未熟で若かったこともあり「花嫁さんは本当にこのヘアメイクを気に入ってくれてるのかな?」と不安になっていました。大体挙式の一ヶ月前にヘアメイクの打ち合わせをするのですが、挙式が終わるまでの一ヶ月間ずっとその緊張感が続くのがしんどくて…。
しかし数年後、勤めている会社がハワイに支店を構えることになり、私も転勤させていただいたんです。ハワイ挙式って5〜6泊の滞在中に行うため、挙式の前日にヘアメイクの打ち合わせをして「じゃあ明日よろしくね」という感じなんですね。私が悩んでいた「緊張の一ヶ月間」のスパンが急激に短くなったわけですよ(笑)。気持ち的なストレスがなくなったことに加え、技術力も上がり、自分の年齢も花嫁さんに追いつき、自由度が高くなったことで「ヘアメイク楽しいな」とやっと思えるようになったんです。
――ハワイ転勤がターニングポイントとなったわけですね。
Instagramをハワイにいた頃にはじめたんですけど、担当させていただいた花嫁さんのお写真をコツコツ上げているうちに、ハワイ挙式を上げに来る際に指名してくださる方がどんどん増えていって。
ハワイ挙式が盛り上がっていた時期に、25歳からの5年間をハワイで過ごし、ビザが切れるタイミングに日本に帰って来たんです。本当はビザを延長しても良かったんですけど…。
――なぜ帰国を?
飽きが来てしまったんです。ハワイって四季がなく、冬もずっと暖かいんですよ。だから、みんなヘアメイクに求めるテイストがリゾートっぽいものばかりで。このままハワイにいたら面白いものがつくれなくなっちゃうかも…と不安になり、いったん整えるために日本に帰ることにしたんです。
妊娠に備え、前もって仕事量と仕事内容を調整していた
――帰国後、どのタイミングでフリーランスになったのですか?
ハワイで十分に働いたし、「お洒落なヘアメイクができる会社」というブランディングにも貢献したということで帰国と同時に円満退社をさせてくれました。それでフリーランスになったんです。帰国したのが2018年なので、今はフリーランス4年目ですね。
個人で仕事をいただけるんだろうか…?という不安はありましたが、一般のお客様や、前にお世話になっていた取引先などからオファーをいただけて、フリーになってからもかなりパワフルにお仕事していました。
――お仕事内容は引き続きウェディングですか?
フリーに転身してからは特にウェディングに拘るつもりはなく、広告などのメディア仕事を担当させていただくことも。とはいえ、花嫁さんからの依頼は多かったですけどね。
海外ウェディングのオファーもよくいただきました。入国の手続きとか、電圧の違いとか、海外慣れしていないと難しいこともあるんですが、私の場合はハワイで長年仕事をしていたこともあり、よく声をかけていただいていたんです。
――ご結婚されたのはいつ頃でしょうか?
2020年、33歳のときです。ニューヨークに活動の場を移そうかと思い、ビザ取得の準備をしていたときに主人に出会いました。ビザがなかなか取得できなかったため、まずは結婚することにしたんです。もともと結婚も子どもも二の次に考えていたわけではなく、むしろプライベートの充実ありきでの仕事の充実と考えていました。
だから、結婚するんだったら早く子どももほしいと思っていたので、結婚式が終わったタイミングで赤ちゃんを受け入れる準備をはじめたんです。そうしたらすぐに妊娠して。
――かなり忙しくお仕事されていたようですが、妊娠後、仕事量を調整することは大変ではありませんでしたか?
それがそうでもなくて(笑)。
なんだか子どもを授かる予感がしていたので、前もって仕事を減らしていたんです。近場や室内の仕事を選んだり、出張を減らしたり、体に無理のない仕事を入れていたんです。「ここで妊娠したとして、つわりがひどくなるこの期間は仕事量をセーブして、安定期に入るこの時期から仕事を再開できるか?」と空想でスケジュールを立てていたら、本当にその通りにわが子がやって来てくれて。つわり時期もダイレクトに仕事にかぶらず、安定期から出産直前までやりたい仕事ができました。お利口さんなわが子のおかげです(笑)。
――妊娠中、お仕事する上でどんなことが大変でしたか?
移動ですね。30kgくらいあるメイクボックスを持って現場に向かうのが本当に大変で。例えば、電車に乗る際に荷物をぐっと持ち上げるときに「赤ちゃん大丈夫かな?」と心配になりましたし、現場に行ったらエスカレーターもエレベーターもなかったというときも…(苦笑)。どういう行動が赤ちゃんに負担をかけてしまうのかわからず、怖かったですね。
――勤務時間は特に決めていたんですか?
時間というより、負担になるかならないかという基準で決めていました。ウェディングの仕事の場合、しゃがんでドレスの裾を持ったりするアテンドが必要な案件や、ずっと立ちっぱなし、ずっと移動しっぱなしの案件はお断りしていましたね。「最大限ここまでならできますが、ここからはできません」ときちんとお伝えするようにはしていました。
――妊娠中は、ウェディングのお仕事は難しそうなイメージでした。
披露宴当日の仕事なら拘束時間は長いけど、ヘアメイクを施すとき以外は、スケジュール次第ですが休めるタイミングも取れるので意外と体に負担が掛からなかったです。屋内なので大きな移動が少ないことも助かります。
でも、妊娠を機に働き方のフェーズを変えることにしたんです。
ウェディングの仕事はとても楽しいし、まだまだやれますが、少しずつ若い後輩たちにバトンタッチしても良いかもという気持ちもあって。自分が歳を取ったときに、若い花嫁さんが求める「可愛い」に応えられるかという心配もあるし、後輩もどんどん育ってきているので、花嫁さんと年齢が近い人が担当した方が絶対に良いと思って。
これからは違う視点から美容を発信してみたいと話してくださったHitomiさん。コロナ禍と妊娠をきっかけに仕事量を減らしたことで心の整理ができたのだそうです。後編では、仕事復帰にまつわる周囲のサポート体制とあわせて、今後の美容との向き合い方について語ってくれました。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄