損得ではなく、相手の心に響くかどうか。その心がけでつながりも仕事も広がっていく【フリーランス美容師 工藤由布さん】#2
SNSを集客ツールとしては使わず、まわりの人とのつながりを大切にしながら美容師としての道を歩んできた工藤由布さん。お客様の参考になればという気持ちだけで毎日継続してきたInstagramは、のちにある編集者の目に止まり、新たなる展開をむかえます。
後編では、アレンジ本の出版やその他クリエイティブな活動など、サロンワーク以外の挑戦について伺いました。
お話を伺ったのは…
フリーランス美容師 工藤由布さん
地元・青森県から都内の美容学校に進学し、卒業後は原宿のヘアサロンに就職。憧れの美容師がいるサロンだったものの、自分にとっての働き方や今後の人生を考え、いったん離職。一年間限定でアパレル業界を経験後、美容師として再スタートし、恵比寿のサロンに15年勤務。2022年に独立。現在はフリーランスの美容師として活動中。
自分の髪を切り、何もかも自前で揃えた「アレンジ本」への挑戦
――ヘアアレンジの本を出したきっかけは?
Instagramに自分のヘアアレンジを毎日投稿していたのですが、それを見てくださっていた出版社の方からDMをいただきました。当時はインスタのDMから仕事の依頼がくるなんて珍しかったので、最初はかなり怪しんで(笑)。お店に電話もくださって、実際に会ってお話が進んでいきました。
――編集の方は、どこに注目されたのでしょう?
そもそもインスタでヘアアレンジだけをこんなに大量にやっている人がいなかったのと、セルフアレンジを自分の手でやりながら細かくプロセスも説明していたので、そこがすごくわかりやすいと。
雑誌のアレンジコーナーはプロセス写真が少なく、美容師さんが作ってくれた仕上がりは可愛いけれど、実際に自分でやるのは難しい。そういう現状だなと私も思っていて、カット数をもっと増やして誰にでもわかりやすい本が作れるなら、という条件で本を作っていくことが決まりました。
――7冊出版されていますが、特に思い出に残っているものは?
モデルは全部自分でやってきた中で、髪を切りながら撮影を進めていった一冊があります。ロングヘアのアレンジを撮影したら、ミディアムくらいまでカットしてまたアレンジを撮影、最後はボブまで短くなりました。
――それはすごい! 洋服やアクセも自分で用意を?
アレンジに合わせて自分で用意してました。予算的なこともあったものの、自分で準備するにあたってリースするという概念が最初なくて、揃えるのは大変でしたね。やっていくうちに知り合いから「貸すよ」とお声がかかったりして。それまでに築いてきた人脈に助けられることも多々ありました。
――ヘアアクセやアパレルのプロデュース業もその人脈から?
そうですね。ヘアアクセを作っているブランドさんと知り合いになって、いろいろ話を聞いてみると、作っている側は意外とアレンジをやらない、知らない人がほとんど。使う人にとってここはこうなっている方が親切だとか、この形が使いやすいとか、見た目だけでない実用的な部分をアドバイスしてみたら、ぜひ形にしましょう! と。
ヘアターバンやピアスなど、ヘアアレンジした時にも可愛くて使いやすいアイテムを、こだわりながら制作に携わっています。
関わる人たちのその先のことまでイメージして働く
――独立してフリーランスになろうと思った理由は?
恵比寿のサロンでは15年間お世話になりました。サロンワーク以外のことは全部休みの日にやっていたので、体力的に厳しくなってきたのが大きな理由。
独立してやっていくことに、オーナーをはじめまわりのみんなは背中を押してくれたけど、やっぱり自信はなかったです。
――しかも独立されたのは2022年。
コロナ禍後半ですね。コロナでお客さんが一時期ぐんと減って、それでも恵比寿まで、自分のところまでわざわざ足を運んでくださるお客様がいた。こんな状況でも来てくれる人がどのくらいいるのか、それをよく考えて、自分が生活できる人数だと計算できたのが大きかったかもしれません。コロナがターニングポイントでした。
――フリーランスになって変わったことは?
今は、代官山のシェアサロンで活動しています。朝9時から18時まで終わるようにスケジューリングして、新規は取っていません。小さいお子さんがいる方だったり、お客様の世代がそのくらいが多いので、基本的に朝からどんどん埋まっていく感じ。朝方で、時間は調整しやすいから体力的には無理なくやっていけます。
若い頃は、休みも削って身も削って、でも好きだからやれる、というのがゴールだった。けれど、年齢とともに生活をもっと丁寧にしたいと思うように。仕事も好きだけど、家のこともちゃんとしたいし、自分磨きもしたい、友達との付き合いも大事にしたい。いい意味で欲張りに、ストレスを溜めずに生きていけるような時間配分ができるのは、フリーランスの魅力かもしれません。
――今後、挑戦したいことは?
以前出版したアレンジ本が、台湾でも販売されたんです。翻訳はせず日本語のままだったのですが、写真がわかりやすいと台湾でも好評で。それもあって台湾のフォロワーさんがけっこう多くて、いつかみなさんにお会いしたい、お礼がしたいと思っていました。
それがこの度、ヘアアクセをプロデュースしているブランドさんが台湾にPOP UPを出すことが決まって、私も同行できることに。夢が一つ、叶えられそうです。
――実際にお会いにできるのは貴重ですね。
そうですね。小さなイベントでも、そこに来てくださるお客様に会って、ちょっとしたことでもアドバイスができたり、その人がよかったなと思える機会を作れたら本当にうれしい。
――工藤さんのように、働き方を広げていきたい人は多いと思います。
そんな方々にアドバイスをするとしたら?
自分のやりたいことやビジョンを持つことは大切。でも、自分のこと、目先のことばかりでなく、お客様や関わる人たちの、その先のことまで想像する。よかったと喜んでもらえるか、響くかどうか、それを常に考えながら仕事の一つ一つをするようにしています。
そういう気持ちで精一杯がんばっていると、自ずと手伝ってくれる人も現れたりして、さらにそこからつながっていけるのかなと思います。
工藤由布さんの成功の秘訣
1.技術だけでなく人としての魅力も磨く
2.他業種の人とつながることで世界が広がる
3.相手の先の先までイメージして働く
取材・文/青木麻理(tokiwa)
撮影/高嶋佳代
Salon Data