SNSで集客はしなかった。技術だけではない“人”として魅力のある美容師になりたくて【フリーランス美容師 工藤由布さん】#1
Instagramに毎日投稿していた自身のヘアアレンジが、「お洒落、今っぽい、丁寧でわかりやすい解説」と話題になり、その人気ぶりからアレンジ本を出版。さらに、ヘアアクセやピアスなどのプロデュースに携わるなど、日々のサロンワークにプラスαのチャレンジを続けている工藤由布さん。そのクリエイティブな活動に注目が集まる一人でもあります。
前編では、そんな工藤さんの下積み時代やヘアアレンジを始めたきっかけ、SNSをどのように活用してきたかなどお聞きしました。
お話を伺ったのは…
フリーランス美容師 工藤由布さん
地元・青森県から都内の美容学校に進学し、卒業後は原宿のヘアサロンに就職。憧れの美容師がいるサロンだったものの、自分にとっての働き方や今後の人生を考え、いったん離職。一年間限定でアパレル業界を経験後、美容師として再スタートし、恵比寿のサロンに15年勤務。2022年に独立。現在はフリーランスの美容師として活動中。
YU-U’S PROFILE
- お名前
- 工藤由布(YU-U)
- 出身地
- 青森県
- 年齢
- 39歳
- 出身学校
- 日本美容専門学校
- プライベートの過ごし方
- 旅行、食べ歩きが好き
- 趣味・ハマっていること
- 料理(毎日自炊派!)
- 美容へのこだわり
- トータルバランスを大切に
最初に入ったサロンを10ヶ月で辞め、一年限定でアパレル業界へ
――美容師を目指したきっかけは?
私の髪は、クセがあって広がりやすいんです。中学生の時に、そんな悩みを美容師さんがストレートアイロンでまっすぐキレイに仕上げてくれました。アイロン作業ひとつで悩みがクリアになって、人をこんなにウキウキな気分にさせてくれるなんて、何て魅力的な仕事なんだ! その感動が始まりですね。
青森から上京して美容学校へ。ヘアメイクになりたいという思いもありましたが、先生から「時代的にヘアメイクだけでやっていくのは難しいから、先に美容師を目指した方がいい。そこから次を考えても遅くないよ」とアドバイスをもらい、美容室へ就職しました。
――若手時代はどんな風に過ごしていたか?
最初に入ったサロンを、実は10ヶ月ほどで辞めています。当時の私は、ガンガン練習して次に進んでまたがんばろう! そういう気持ちが強くて。ただ新人が何人かいる中で、やはり同じくらいの足並みで教育していくわけですよね。そこでフラストレーションがたまってしまった。
そこには憧れの美容師さんがいたし、好きなサロンだったけど、私が思っていた働き方と、その時のやる気やスピード感など……何となくフィットしなかったのが理由です。
――そこからまた、次のサロンを探した?
いえ、美容師をいったん離れて、アパレル業界を一年間だけ経験しました。「美容師しか知らない人生ってどうなんだろう?」「他の人はどんな社会人生活をおくっているのだろう?」と、その頃いろいろ考えていたのもあります。
知り合いのつてで、アパレルのお店で働かせてもらいました。
――それはまた思い切りましたね!
外の世界を学ぶために、一年間だけと決めて挑戦しました。高級なブランドを扱うお店だったので、若い頃の私にとってすごく勉強になりましたね。年上のお客様との付き合い方や、ブランド品や本質を見極める勉強もかなりしました。
最初にいたサロンは原宿でしたが、そこでは知り得なかったであろう様々なジャンルのことを学べたのはよい経験と思っています。
技術だけでない、人として魅力のある美容師を目指したい
――アパレル業界を経て、その次は?
今度は恵比寿の美容室に就職しました。以前のサロンは新規のお客様やトレンドが次々と行き交うような場所でしたが、そこで思ったのは、私は一人のお客様とのやりとりがもっと多い方が好きで、その方が自分らしく働けるということ。
落ち着いた雰囲気で、駅前から少し離れれば地域性もあると感じた恵比寿に限定してサロンを探しました。
気になったお店でいざ面接を受けると、私の働き方へのモチベーションや得意なこと、こんな風にやっていきたいなど、最初からすごく理解していただけて。オーナーから、「じゃあ明日からすぐ働いて!」と即採用してもらえました。
――2つ目のサロンで学んだことは?
入ったばかりはまだ20代で若いので、もっと上手くなりたい、自分のお客様を増やしたい、という気持ちはやはり強かったですね。
オーナーのアドバイスで一番印象に残っているのが、「美容の練習だけずっとしていたらいいわけではないよ。練習、仕事をきちんとやった上で、他業種の人たちと飲みにいったりして交流を持った方がいい」という言葉。
人とのつながりをとても大事にするオーナーでした。遠方に行ってしまいもう長いこと切っていないお客様でも、たまたま近くに来たからサロンに寄ってくださる。お茶を飲みに来たよ、と気軽に声をかけてくれる。技術だけじゃない部分に人が集まってきている、それがすごいなと。何十年経っても誰かの頭の片隅にある、こういう人に私もなりたいと思いました。
――それを見習って、他業種との人たちと交流を?
いろんな職種の人たちと知り合いになって、飲みにいったり遊びに行ったり。お酒もその頃に勉強させてもらいました(笑)。美容だけでない、いろんな話を聞く機会でもあったので知識が増え、人との会話や付き合い方も学びました。
のちのちサロンワーク以外の仕事もしていくわけですが、この頃に知り合った人たちに大切なアドバイスをもらうことも多くて。他業種交流が人生の肥やしになっていると改めて実感しています。
SNSはお客様の参考になればいい。その思いで毎日投稿して早10年
――ヘアアレンジをSNSでやろうと思ったきっかけは?
ヘアアレンジ自体は子供の頃から大好きで、自分でもやるし、友達の髪もやってあげたりしてました。ずっと好きだったけれど、SNSでヘアアレンジをたくさん投稿して集客しようというのは全然考えていなかったんです。
Instagramを始めた最初の頃は、非公開でやっていたくらい。好きなヘアアレンジはたまにアップしているだけ。他にご飯の写真とか、友達との写真とかも普通に上げていたし、何となくやっていた感じ。美容師だとも、どこのサロンだとも言ってなくて(笑)。
――今のように毎日ヘアアレンジを投稿するようになったのは?
まだそんなに投稿数が多くない中で、ヘアアレンジの写真に「#uアレンジ」とハッシュタグをつけてやってみたら、アレンジの写真だけまとめて見られてすごくいい! と言ってくれた友達がいたんです。当時のSNSはそういう機能もやり方もまだあまり広まっておらず、でも誰かがいいと言うならやってみようと。
そして、美容師か何かもよく分からない私のアカウントに、DMで「いつも見てます。どちらの美容室なんですか?」と聞いてくださったフォロワーさんがいた。見たいと思って見てくれている人がいるんだ、そうしたら名前もサロン名も出してしっかりやろう。お店の名前を出すからには、責任を持って毎日続けてやろう、そういう流れでした。
――それから毎日投稿を!?
コロナの時に2日ほどお休みしてしまいましたが、それ以外毎日続けて早10年。自分の髪をアレンジしてその写真を毎日投稿しているのと、お客様のヘアスタイルの写真も時々アップしています。
毎日上げているので投稿数こそ増えていますが、これで集客しようとはいまだに思っていなくて、私にとってはただの日常。日常だから全然辛くないし、大変とも思ったことがないんですよ。
――SNSにもいろんな使い方がありますね。
今はSNSで集客するのがメジャーになっているから、その使い方もあり。私はたまたま、自分のやりたいことを続けて投稿してきたけど、そこからお客さんに直につなげようとは考えなかった。これを見てくださった人が、「私もアレンジやってみよう」と参考になったらうれしいし、みんながハッピーになってくれればそれでいいじゃん!くらいの気持ちでずっと続けています。
取材・文/青木麻理(tokiwa)
撮影/高嶋佳代
Salon Data