ちょっとの工夫で流れが変わりました。私の履歴書 Vol.21【ヘアメイク 犬木愛さん】#2
人気女優やタレントさんたちのメイクを担当する犬木愛さん。数多くの美容誌で活躍しています。犬木さんの代名詞とも言える、完璧すぎず作り込みすぎない「抜け感メイク」が大人気! 前半ではヘアメイクの仕事を始めるまでの道のりなどを伺いました。自分なりに工夫したことで、ちょっとずつ流れが変わり「抜け感メイク」が生まれたそう。後半では、「抜け感メイク」が生まれたきっかけや犬木さんが考えるヘアメイクの楽しさについてお届けします。
転機
もともと『抜け感』をもっている人に魅力を感じていたんです
——本を出版されたことも大きな転機になったのではないでしょうか。
お声がけいただき、本を出すことができました。当時、美容本が流行る手前に出版させていただいたことがラッキーだったと思います。もし流行中に本を出していたら、埋もれてしまっていたかもしれないので(笑)。
——ヘアメイクをしていて流れが変わったなと思う出来事はありましたか?
最初は、みんなのレベルに追いつこうと必死こいてやっていてあんまり個性がなかったんですね。ただ途中からみんなと同じことをやっていても仕方がないと気づいたんです。そこでちょっとだけ自分なりに工夫したら変わっていきましたね。当時はつけまつ毛などをつけてメイクを盛る時代でした。私は「アイラインは引かない!」「つけまつ毛はつけません」というように足すのではなく、引くようにしていったんです。みんなと違うことをやり始めたらみるみる変わっていきました。このメイクを始めたくらいから犬木さんって「抜け感だよね」「なんか抜けがあるよね」って言われて、『抜け感メイク』が生まれました。
——『抜け感メイク』は今では犬木さんの代名詞でありますよね。
私もともと『抜け感』がすごく好きで。メイクも人間も80パーセントくらいがいいなと思っているんです。100パーセントの完璧人間だと息が詰まっちゃいますよね。私自身、抜け感がある人にすごく魅力を感じていたのもあるんです。若い頃はそれこそ休まず働いていたし、休むのが怖くなっちゃってとにかく気が張っていました。昔から一緒にお仕事をしているモデルやタレントさんに「昔は犬ちゃん怖かったよね」ってよく言われます(笑)。だから自然に肩の力が抜けている人って素敵だなと思っていたんです。
——そういった発想からメイクにつなげていったのはすごいです!
周りが面白がってくれたのも一つあると思うんです。人と同じことやっていちゃダメなんだって気づきました。やりすぎると個性的になってしまうので。なので、ちょっとした工夫が大事なんだなと思います。
——こういったインスピレーションはどこから得ていますか?
昔からよく人間観察をしていて、「リップこの色にしたらいいのにな〜」など想像しています。よく、春や夏などの季節のメイク企画で「どうしてこの色を選びましたか?」と聞かれることが多いのですが、「外の空気や周りの空気がそういう色じゃん」って思うんです。
——空気とは?
春はどんどん呼吸が楽になって、花が咲いて街や自然がカラフルになりますよね。だからピンクや淡い色などをつけても浮かないと思うんです。夏だったら、木々が緑色になってオレンジや赤い花が咲く。だからそういう色を塗ってもはまると思うんです。リゾート地へ行くと服装が派手になったりしますよね。でも日本じゃ着られないと思うのはそういう空気感によると思います。冬は太陽の熱が弱くなり空気や植物がスモーキーな色みになるので、スモーキートーンのメイクがハマりやすくなると思います。みんな自然と感じていることだと思いますね。
——確かに言われてみるとそうかもしれないですね。
だから色も気分やそのときの空気感で選んでいます。撮影で色んな商品を見させていただけることがありますが、一目惚れしたものを使っています。空気って曇っているなとか、その時々で感覚が違うと思うんですよね。
今後について
体力がある限り、ずっと現役でいたいです
——犬木さんが考えるヘアメイクの楽しさはどこにあると思いますか?
ヘアメイクって女優さんやモデルさんたちの下準備だと思うんです。ステージに上げるために尽くすことだと思います。ステージに上がって、キラキラしている様子を見ていると、「可愛い!」「素敵!」ってすごく思いますね。私も嬉しくなります。
そんな女優さんやモデルさんたちはすごく影響力があると思うので、自分が作ったメイクを通じて、読者の人たちからの反響があるととても嬉しいですね。
たまに女優さんが方向性を変えたいときとかあるじゃないですか。そういったときにメイクを変えてあげてうまくハマって、それが世の中の皆さんが気づいたときも同じです。
また、表に出る人がハッピーでステージに上がれば、読者や見ている人たちもハッピーな気持ちになれると思うんです。だから、テンションが下がらないように、当日のメンタルや気持ちも温めるのも大事な仕事だと思います。
——ヘアメイクで大事にしていることやモットーなどはありますか?
チームワークはすごく大事にしています。私一人じゃ何もできないと思うんです。モデルさんがいるのはもちろん、写し出すカメラマンや洋服で輝かせるスタイリストなど、いろんな人の力があるからこそ成り立っていると思います。みなさんに感謝していますね。最近よく思うのが、思いやりさえあればいろんなことが楽になると思うんです。
——楽になるとは?
理不尽なことがあったりしても、思いやりがあればちょっとのことでイライラしないし、人に優しくなれますよね。他人のことを自然に思いやることができたら、自分もすごく楽になると思います。まだまだ自分もそこまで到達することができていないので、無意識に思いやりを持って接することができたらいいなと思います。
——今後の目標を教えてください。
よく周りからは欲がないねと言われるのですが……本当にこの仕事が自分でも天職だと思っているので、体力がある限りずっと現役でいたいと思います。先日74歳でヘアメイクをしている方がいらっしゃるということを聞いて、私も頑張んなきゃなと思っています。もちろん現役でい続けたいですが、もっと歳を取ったら田舎でパーマ屋さんをやるのもいいなと思っています。美容室ではなくてパーマ屋さんです(笑)。両方できたらいいなと思いますね。あとは他人に無意識に思いやりを持てるようになりたいです!
犬木さんの成功の秘訣
1.枠にはまらない
2.周囲の人々に感謝する
3.チームワークを大事にする
▽前編はこちら▽
ヘアメイクの仕事は自分にとって天職です。私の履歴書Vol.21【ヘアメイク 犬木愛さん】#1>>
撮影/吉岡真理
取材・文/梅澤 暁
profile
犬木愛
ヘア&メイクアップアーティスト
アージェ所属。作り込み過ぎない大人の「抜け感メイク」は、美容誌やメディアで特集が組まれるなど人気に。多くの女優やモデルから支持を受けているほか、数多くの女性誌で引っ張りだこの人気ヘア&メイクアップアーティストである。
URL:https://agee.co.jp/