「一生健康でいて欲しい」という願いからトレーナーへ【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.44 フィットネストレーナー 古川杏梨さん #1】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、宅トレインストラクター・健康管理士として運動習慣の大切さを伝えている古川杏梨さんにフォーカス。ご自身のうつ病・摂食障害、そして運動音痴だった経験から、筋肉の大切さを知ったという杏梨さん。現在ではInstagramフォロワー12万人超えの人気トレーナーとして活動しています。
前編では、杏梨さんがトレーナーになった経緯と、現在の働き方について詳しくお聞きします。
お話を伺ったのは…
フィットネストレーナー 古川杏梨さん
宅トレインストラクター・健康管理士一般指導員として運動習慣、生活習慣病の予防を伝える。現在は「どんな人にも健康の為の運動習慣を」をモットーに、オンラインサロンでの指南や雑誌記事監修、SNSでの配信を通じて発信し続けている。書籍『おうちでストレス解消・気持ちがアガる!あげ筋トレ』(KADOKAWA)。
体を壊した自分を救った、姉の「健康でいて欲しい」という願い
―まずは杏梨さんがトレーナーになったきっかけを教えてください。
20代前半のころ、うつ病と摂食障害になり体調を崩して実家で過ごしていました。そんな私を見かねて、姉が「東京で一緒に住もう」と無理やり連れ出してくれたんです。東京に出てきてからは、少しずつうつ病はよくなっていたんですが摂食障害が治らず、ずっとやせ細ったままアパレルの仕事を続け、頻繁に体調を崩していました。
そんな私に、姉が「杏梨には一生健康でいて欲しい。この先も自分で健康になる方法を見つけられる人になって欲しい」とトレーナーを勧めてくれて。ずっと支えてきてくれた姉が、初めて私に頼み事をしてくれたんですよね。恩を返すのは、このタイミングしかないと思って、トレーナーになる決心をしました。
でも私はそれまで全く運動をしたことがなかったし、運動音痴なので「私なんかじゃできないんじゃないか」という不安はありました。
―では、ゼロから運動について学ばれたんですね。
はい。本当にゼロの状態でジムに入ったので、最初のうちは何もできないから、事務的なことや雑用をしていましたね。その分お客様と話す機会は多かったので、まずは人に慣れるというか、お客様とのコミュニケーションをどう取るかから始めて。
最初は体力も全くなくて…初めてトレーニングマシンを使ったときは、70代、80代の方が使っているマシンを1mmも動かせないくらいでした(笑)。
運動を習慣にすることで心と体に変化を感じるように
―そこから、トレーナーになるためにしたことは?
まずは、自分の体力をつけることを目標に、働いていたジムで週3回のトレーニングを続けました。それも本当に初歩的な、お腹に力を入れる練習から始めて。研修制度がしっかりしたところだったので、学びながら資格を取りました。
あとは知識をつけること。それまで痩せているのが正解だと思っていたし、間違った知識で痩せようと思っていたんです。見た目を重視して、食べたそのとき、体重が増えたその時にどうすればいいかという思考でした。でも知識を得て、何のために運動をするのかという目的を、自分でちゃんと持てるようになりました。
私が働いていたジムのお客様は、高齢者の方が多かったんです。好きな趣味を続けたいとか、孫を抱っこしたいとか、自分のためはもちろん誰かのために頑張る目的を持たれている方ばかりで、そんな方々に触れたことで私自身も学ばせてもらいました。
―トレーナーになるための勉強のなかで、メンタル面での変化があったんですね。
他にご自身のなかで変化を感じたことは?
トレーニング習慣がついたころ、それまで止まっていた生理がきたんです。妊娠できないと言われていた自分の体に、初めてしっかり変化を感じた瞬間でした。筋トレを始めて妊娠という夢を持てたんですよね。だから本当に姉には感謝しているんです。
筋肉の大切さ、健康であることが夢を持つためにどれだけ大切かということを実感できたことは、その後のトレーナー活動の指針になったなと思います。
運動が苦手な人に寄り添うトレーナーとして活動中
―トレーナーをお仕事にする前と後でギャップはありましたか?
トレーナーになる前は、「トレーナー」という人間が別次元の存在だと思っていました(笑)。そもそも運動をしたことがなかったので、運動が好きという感覚もわからなかったし、ちょっとドSなイメージがあって…。相容れない存在だったんですよね。
でも自分がトレーナーになり運動の世界に入ったことで、いろんなトレーナーさんがいるんだなということに気づきました。思っていた通りのスパルタ系の人もいれば、寄り添ってくれる人もいる。だから一般的なイメージに合わせなくても、自分が目指すトレーナーになっていいんだなと感じました。
私はもともと運動が苦手な人間だったので、そういう方に寄り添っていけるトレーナーでいたいなというのは、ずっと考えています。
―現在の働き方について教えてください。
今はフリーランスとして活動しています。ジムに所属している時に始めたInstagramが伸びたことで、競合とみなされてしまって、退職することになりました。
レッスンのお仕事は、今は週3回午前のグループレッスンのみ。多い時は13人ほどを同時に見ています。
監修のお仕事は、企業からの依頼でプログラムを作ったり、雑誌やアプリでのトレーニング内容のチェックや作成が多いです。
レッスンはコロナ禍を経たこともあり、オンラインがメインになりました。ジムという人の集まるところから出て、フリーランスとしての集客のツールがSNSになったことも大きいですね。
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「健康でいて欲しい」というお姉さんの願いを聞き、ご自身もトレーナーとして健康に向き合うようになったという杏梨さん。健康、筋肉の大切さを実感したことで、それを多くの人に伝えたいと考えるようになったそう。そんな杏梨さんが考える、トレーナーというお仕事の魅力や苦労、心得について、次回はお聞きしていきます。
取材・文/山本二季
撮影/高嶋佳代