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介護・看護・リハビリ 2022-02-26

【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本vol.52】失禁の続く利用者にうまくポータブルトイレを勧めるには?

介護の現場での困りごとを取り上げる当企画。今回は、トイレにまつわる対処法をお届けします。ぜひ参考にしてみてください。

歩行が悪く失禁が続くJさん。ポータブルトイレを勧めたら機嫌を損ねてしまった…。

ヘルパーの援助を受けながら自宅で暮らす80代のJさん(男性)。歩行が悪く、トイレには伝い歩きで行っています。ですが、最近、トイレが間に合わず失禁することが増えてきました。

失禁が続いたある日の会話です。
介護職:Jさん、最近、お身体の調子はどうですか?
Jさん:ベッドから起き上がるのも辛く、ほとんど横になっているよ。
介護職:そうなんですね。トイレに行くのも大変ではないですか?
Jさん:歩くのはもっとキツイからね…。
介護職:だったら、ポータブルトイレにした方がいいですね。

Jさんはこの声かけに反応せず、ムスッとした表情でその後も黙ってしまいました。もちろん、ポータブルトイレの導入には至らず、トイレに間に合わず失禁してしまう日々が続いています。そのせいか、Jさんの元気も少しなくなってきたように感じています。
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担当の介護職はJさんのメンタル面も合わせて、どう対応したらいいのでしょうか。

介護の現場では起こりがちなトイレ問題。ポイントを押さえながら、対応の一例を見ていきましょう。

お話を伺ったのは…

中浜 崇之さん
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役

1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。

ポイント1:トイレ問題、高齢者にとっては不安感とセット

老若男女問わずデリーケートな話題として扱われるのが、いわゆる「下」の話です。「下」の話題に羞恥心を感じない人はいないでしょう。高齢になろうと同じです。排泄は自分で完結したいと思っているのが普通です。ですから、ポータブルトイレやリハビリパンツの導入を提示された利用者は、今後、排泄を自己完結できなくなるんじゃないかと強く不安感を感じます。「今、自分でトイレに行くことを諦めたら、死ぬまでずっとオムツ生活になるんじゃないか…。」そんな猜疑心を抱えていることを知っておきましょう。

ポイント2:「試しに一度」

前述の通り、Jさんのような人は「自分でトイレに行けなくなったら最後…」だと思っている可能性があります。介護職にとってポータブルトイレは、「トイレが近くに来る」だけのもの。「自分でできるのだから大した問題ではない」と思うかもしれませんが、ポータブルトイレの先にはリハビリパンツがあるわけなので、後戻りできない宣告を受けたような印象を持つ利用者がいることもうなずけます。そんな人には、『試しに一度』という言葉が有効です。「体調がイマイチな今だけ、試しに使ってみましょう。」と声をかけてみましょう。

ポイント3:回復の可能性を示唆して、自立意欲を刺激しよう

「体調がよくない今だけ」「お試し感覚で」と使用に前向きになってもらえたら、次はその先の希望まで提示してあげるといいでしょう。「今は無理せず、体調を回復させましょう!」「体調が回復したら伝い歩きでも自力でトイレにも行けますよ。」のような、不安を軽減し、かつ自立への意欲を支える前向きな声かけが大切です。

トイレ問題に対応するときに忘れてはいけない2つのこと

1.歳をとっても羞恥心は変わらない
2.自立心は力になる

自分自身が恥ずかしいと感じることは、高齢で身体の自由が利かなくなった利用者にとっても恥ずかしいことだと忘れてはいけません。歳をとったからといって、恥ずかしくなくなるわけではありません。むしろ、恥ずかしさを感じる状況にならざるを得ない自分の衰えすらも引け目に感じていることもあるでしょう。

介護職にとっては当たり前すぎることかもしれませんが、そんな利用者の気持ちへの配慮は忘れないようにしましょう。また、衰えばかりに目が行く状況では気持ちもなえていく一方です。リハビリなどで状況を好転できる可能性があるのであれば、それをサポートしてあげるとよいでしょう。信じることは自立に向かう際の強力な支えになります。

監修・中浜さんの「実際にこんなことありました!」

ポータブルトイレを利用したくないと思う気持ちは決してご自宅だけでなく、入居施設でもあるお話です。それだけ、トイレではない場所で排泄することが個人にとって恥ずかしいことだと感じるのです。

私にも経験があります。私はポータブルトイレを拒否された方がいた時には、まずは無理をして進めないことを意識しました。利用することよりもまずはお部屋に置かせてもらうことを優先しました。『保険のために置かせていただく』というスタンスです。

また、その上で、トイレまでの動線を確保したり、掴まれる場所を作るなど移動しやすい環境を設計しました。しかし実際には、移動するのが億劫になったり、時間的に間に合わない場合が出てきますよね。そういう時にポータブルトイレを活用してもらい、使うことに慣れてもらおうと考えました。

さらに、消臭剤を活用するなど、細やかな部分へも配慮しするように意識しました。そういう配慮を利用者に認識してもらえると、利用することに対するハードルが下がる可能性もあります。

このような利用者の気持ちに寄り添う視点も忘れないようにしてみてくださいね。

参考:「こんなときにはどう言葉をかけたらいい? 介護の言葉かけタブー集」誠文堂新光社

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