【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.6】AFINA 伊良林鍼灸均整院 代表 小柳弐魄さん「身体均整師に必要なこと」
整体師や鍼灸師、セラピストなどなど、健康を保つ上で欠かせない「ヘルスケア」のお仕事にフォーカスしたこの企画。
身体均整師兼鍼灸師の小柳弐魄さんに、前回は、身体均整師になるまでのお話やクライアントとの接し方などを教えていただきました。今回は、小柳さんの仕事に対する向き合い方について語っていただきます。
未熟だった昔よりも今の方が不安は尽きません
――こちらのお店では、HPに具体的な施術内容が書かれておらず、ざっくりとしたメニュー名と料金のみですよね。
商売としてやるのであれば、施術の内容や流れを提示してその通りにやるのが親切なんだろうけど、HPの書き方が僕の正直な気持ちですね。やはり会ってみないと分からないですから。一人ひとり、そして毎回やることが違うので、マニュアル化されていない施術を受けたいという人がうちに来てくれるんだと思います。僕もこの仕事の面白さはそこにあると感じています。
――この仕事をしていて辛かったことはありますか?
高齢で少し認知症の疑いがあるクライアントがいたのですが、そのご家族に「ボケているおばあちゃんをだまして通わせている」と疑われたことですね。本人が来たいと言ってくれているので僕は受け入れたかったのですが、そのご家族からは長い間睨まれていましたね…(笑)。実は、そのクライアントは半身不随で、残念ながら顕著に回復が見られたわけではありませんでした。しかし、本人が抱えているのは半身不随だけではなかったですからね、他の部分がどんどん良くなっていったので、僕としては施術して悪いことはないなという判断でした。
――お一人でお店をはじめられて、技術面で苦労されたことや不安だったことはありませんでしたか?
改善率のような統計を取っているわけではないので、自分の技術を周りとどう比較すれば良いのか分からなかったですね。だからこそ、新人のうちは不安に思わなければいけないのかもしれませんが、僕の場合、開業したての頃は技術面の不安は全く感じていませんでした(笑)。
でも、営業的に軌道に乗ってくると次第に「クライアントをだましているんじゃないか」「自分より適任がほかにいるんじゃないか」という不安がよぎるようになり、そこからたくさん勉強するようになったんです。今は学園の講師や協会の理事もやっているので、そこで評価をしていただくことも多く、そんなに下手なことはしていないなと納得できています。でも、実は今でも不安は尽きないです。臨床の不安は勉強して補っていくしかないですけどね。
天狗になってクライアントの声を読み取れなくなるのが怖い
――小柳さんがこの仕事を続けてこられた秘訣はなんですか?
この仕事って、借金をそんなに背負わなくても出来るんです。在庫を抱える必要はないし、部屋さえ借りたらはじめられるんですよ。僕自身も資金がたくさんあったわけではないですし。それから、誰しもが生きている上でのリスクはあって当然なので、その中で、「最善」ではなく「マシ」なところを選んで生きていくしかありません。もちろん運もありますから、自分の力だけで完璧にこなそう、成功させようと思わない方がいいと思いますよ。僕は、「この仕事じゃないと生きていけない」と思ったことは一度もなくて、そういう意味では選択肢に余裕があったからここまで来られたんだと思っています。
――この仕事を続ける上でこれからも大事にしていきたいことはありますか?
天狗にならないように気を付けたいです。もっと大々的に宣伝したり、カリスマ性を出したりした方が良いのかなと思うときもありますが、やっぱり怖いんですよね。天狗になって、クライアントの声を読み取れなくなったり、施術にズレが生じたりすることが。今40歳なんだけど、周りを見ているとカリスマ気分でいて失敗している人も見かけますしね。
――この仕事に向いている性格などはありますか?
図々しい人や自己中心的な人は向いていないと思います。身体均整師は、手技で読み取ったものをフィードバックして…ということを繰り返しながらやらなければいけない仕事なので、「読み取れていない」というのは大問題。よく、「指圧の強さが何グラムで~」とか数値でのエビデンスにこだわりすぎる人がいますが、どのくらいの強さで押すかではなく、むしろ「反発」が大事なんです。どういう反発で来るのかを読み取り、そこにどんなリアクションをするか。だから、自分の考えを一方的に押し付けるような性格の人は、身体均整師の手技には向かないんです。
――今後の目標はありますか?
自分は幾分、世直しのような仕事をしていると思っているんです。狭い話かもしれませんが、医療の形ってまだまだ理想的ではないと感じていまして。医学の中には東洋医学・西洋医学・伝統医学・現代医学…色々なジャンルがありますが、「うちは東洋医学をやっている」「うちは西洋医学をやっている」などという考え方って少し滑稽だなと思うんです。グローバルな社会なので情報を取りに行こうと思えば行けるし、東洋と西洋の区別が曖昧でも受け手としては不都合はないですしね。以前、私大の医学部で統合医療分野の講義を担当していたこともあり、そういう異なるジャンルを統合していく架け橋になれたらいいなとずっと思っています。自分の施術スタイルを「東西」とか「伝統」などのように固執せずに、ベストな医療を考えていくべきかなと。
小柳さん流! 身体均整師の心得3か条
1.言葉だけを鵜呑みにせずに、クライアントのすべてに耳を傾ける
2.100%を求めない
3.自分の技にうぬぼれず、時代を読み、勉強する
クライアントが抱えている本当の不調や本心を見抜こうとする姿勢と、「天狗になりたくない」というお言葉から、小柳さんはクライアントを「だまさなくて済むよう」に謙虚に構えている方なのだと強く感じました。次回は、いよいよ小柳さんの手技・手法をご紹介します。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/岩田慶(fort)
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【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.6】AFINA 伊良林鍼灸均整院 院長 小柳弐魄さんの「身体均整法の手技&技法」>>
教えてくれたのは…
AFINA 伊良林鍼灸均整院 代表 小柳弐魄さん
身体均整師。鍼灸師。「AFINA伊良林鍼灸均整院」院長。大学では文章を学ぶかたわら舞踏集団の一員として舞台や映画で活躍するも、身体そのものに興味を持つようになり、今の業界に飛び込む。数々の専門学校や大学、そして身体均整法学園で学んだのちに開業。現在は、身体均整法学園で講師を務めるほか、「一般社団法人 身体均整師会」の理事・副会長として、身体均整法の指導にもあたっている。自身のサロンには、身体の不調や症状を真剣に訴える人が数多く来院している。