固定概念をガラリと変えた「仕組み経営」との出会い【AYOMOT 鈴木朋弥さん】#2

ホームページもSNSも使わず、クチコミだけで成功。知る人ぞ知る人気ヘアサロン「AYOMOT」を経営する鈴木朋弥さん。前編では、その異色の経歴や、あえてクチコミを選ぶ理由についてお聞きしました。

後編では、異業種の経営者からも注目を集める鈴木さん独特の経営手法について教えていただきます。

挫折:「お客さまをキレイにしたい」という気持ちだけでは、経営者としては不十分

「社員がこの職場でよかったと誇れるようなサロンにしていきたい」
と語る鈴木さん

──1999年に「AYOMOT」1号店をオープン。理想通りのサロン経営ができましたか?

じつは、わりとすぐ壁にぶつかりました。もともとカウンセリングを重視していたので、お店が大きくなるにつれ、僕自身が取れる予約数に限界がきてしまって。お店は回らないし、収益も上がらないので、スタイリストを増やすことにしたんです。

ただ、せっかく育てても結局は辞めちゃうわけです。さらには、人員補充のための採用面接で「御社の将来のビジョンは?」って聞かれ、ろくに返答できず僕自身の考えの甘さも露呈して…。イチ美容師の延長線上で頑張ってきたけれど、経営者としては圧倒的に力不足であると痛感しました

転機:クチコミの進化版、リファーラルマーケティングとの出会い

VIPのお客さまが使うお部屋は赤いソファがアクセントに

──開業早々に挫折を経験。どうやって乗り越えたのですか?

僕はインターネットの情報より自分の目と耳で確かめたいタイプなので、メーカーさんが主催する経営者向けセミナーに片っ端から参加。はじめて経営の勉強をし、あらためて分かったのが、やみくもに美容師を育てようとしてもだめだということ。

ただ、僕自身の成功体験から、「いいサロンを作るには、上手い美容師が必要」という定義だけはあったので、まずは育成方法を見直そうと。徹底的に技術を教え、力を入れているカウンセリングは、誰がやっても同じ質を保てるしっかりとしたマニュアルを作成しました。

その結果、上手い美容師を育てるノウハウはわかったのですが、今度は「上手い美容師が売れる美容師になるとは限らない」ということに直面…。解決策が見つからないまま、10年近くモヤモヤが続きました。

──長いトンネルですね。どうやって解決したのですか?

ある時、エステを経営している常連さんから異業種交流会に誘ってもらったんです。それが、リファーラルマーケティングとの出会いでした。リファーラルマーケティングとは、紹介によって顧客を増やしていく、アメリカではよく知られたビジネスの手法です。

参加して勉強するうちに、この手法を美容業界の人脈に置き換えたら、スタッフの集客力アップにもつながるし、「AYOMOT」起点でいろいろな交流が生まれるかもしれないとひらめきました。表参道地域の主催者になる資格を取り、スタッフや常連さんたちとリファーラルマーケティングのチームを作ったのです。

2011年25業種からスタートしたグループも、2020年には200名近くの複数のグループにまで拡大。さまざまな業種の方とお客さまを紹介し合うWin-Winの関係を築き、人材交流の拠点としても機能しています。また、この経験がきっかけとなり、周囲で同じようにスモールビジネスを営む方々から、コンサルティングを頼まれるようにもなりました。

発展:「仕組み経営」を知って持続可能なサロン経営が可能に

自分自身の働き方を見直す意味でも衝撃を受けた一冊
『はじめの一歩を踏み出そう─成功する人たちの起業術』
を手にする鈴木さん

──美容師、サロン経営、コンサルティングをこなすのは大変なことですね。

実際のところ、全部をこなすには時間が足りなくて。そんな僕に知人がすすめてくれたのが、アメリカ人の経済学者マイケル・E・ガーバーが書いた『はじめの一歩を踏み出そう─成功する人たちの起業術』でした。この本は、パイを焼くのが大好きな女性が、お店を始めたことで直面するさまざまな問題について書かれていて、スモールビジネスのバイブルといわれているんです。

パイを焼く技術と経営はまったくの別物なのに、すべて一人でやろうとして、パイを焼く時間はなくなり、なにもかも中途半端になっていく様子は、まるで僕そのもの。夢中になって読みました。

──どんな発見がありましたか?

分かったのは、スモールビジネスにおいては、自分がいなくても回る仕組みをつくることが大事だということ。そのためには、個人のブランディングからサロンのブランディングへ発想を切り替えることが必要だということです。

少し具体的に話すと、視点を「I」から「WE」へ移すことで、サロン全体のビジョンが明確になり、おのずとビジョン達成に必要な組織や人事、役割もはっきりします。すると、リーダー不在でも同じように質の高い仕事ができるようになり、売り上げのアップにつながるのです。そうやって、売れる経営、売れる仕組みが整備され、組織として成熟することで、スタッフが所属したいと思える価値が生まれるのです。

自分のサロンに置き換えてみると、ずっと悩んでいたスタッフの離職は僕自身にしっかりとしたビジョンがなく、会社に価値を見出せなかったのが一因でもあると気づきました。

スタッフのリーダー研修で使うテキスト。
人事の仕組みから道徳まで、
リーダーのあるべき姿を話し合うそう

──シンプルながら、奥が深い考え方ですね。

いま、鏡一枚だけ持ってフリーランスになる若い美容師が増えています。でも、人気が出ればやっぱりハコやアシスタントが必要になるし、そうなれば教育もいるわけで、結局はかつての僕らと同じ悩みを抱えることになると思うのです。

もし、売れる美容師が育った時に、仕組み経営の理論を生かしてホールディングス化し、店を任せたらどうなるでしょう? スケールメリットを生かした仕入れや経費の削減など、いくつもの相乗効果が生まれるはずです。

僕自身は、3年前にこの本の公式代理店からオフィシャルコーチの命を受け、仕組み経営のメソッドに基づいたコンサルティングも行っています。

展望:育成はコーチングからファシリテートする時代へ

スキルアップのための評価一覧。
どんなビジョンも明文化することが重要だそう

──withコロナの今。美容業界は何を求められていると思いますか?

こういう時代だからこそ、大切なのは「信頼」だと思います。うちのスタッフによく言うんですよ、「お客さんからいただくのはお金ではなく、信頼だよ。信頼があれば、どんな時代であろうとうちを選んでくれるから」って。これは、はじめてお店を構えた20年前から今まで、揺らぐことのない信念の一つです。

──それはスタッフとの信頼という意味においても同じですか?

もちろんです。ただし、スタッフとの信頼関係の構築は、お客さまとのそれより難しいかもしれません。スモールビジネスでよくあるのが、「誤解して入って理解して辞める」。その齟齬をなくすには、経営者の価値を裏づける、ミッション、ビジョン、コアバリューをきちんと開示をすることが大切です。

うちの会社はどういう歴史があって、何を大切にしていて、これからどこへ向かおうとしているのか。そこがオープンになっていれば、ミスマッチの多くは避けられるはずです。

───今後の展望を教えてください。

育成という観点でいえば、ティーチングからコーチングを経て、最近はサポートや協働を意味するファシリテーションの時代へ変わりつつあります。つまり、「教えてあげる」のではなく、適切なトピックを「提示して一緒に考える」やり方です。

ファシリテーションに明確な答えはありません。現在から未来へと続く時間軸のなかで、会社の価値観や求めている美容師像を明確にし、そのために必要な技術をともに学んでいく。その過程で信頼関係が生まれ、新しい会社の価値に昇華していくのだと考えています。

僕には夢があって。今取り組んでいるトータルビューティ―サロンを、ホテルのようにもっと大きな、たくさんの人が集う場所に育てたいんです。そのために、これからも美容や経営について学び、夢に伴走してくれる仲間やお客さまを増やしていけたらと思います。

鈴木さんの成功の秘訣

1.最新ではなく最適なスタイルを提案する
2.信頼こそがゆるぎない集客の根幹になる
3.スモールビジネスは仕組みが成否を握る

▽前編はこちら▽
異色の美容師がクチコミを武器にサロン経営を軌道に乗せるまで【AYOMOT 鈴木朋弥さん】#1>>

取材・文/池田 泉
撮影/岩田 慶

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Salon Data

AYOMOT

住所:東京都港区南青山5-12-27
TEL:紹介制の為非公開

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