お客さまが口にしていないことにも素早く対応する力を身につけ、存在感を示したアシスタント時代 美容師・積大輔さん
低単価のサロン勤務時も、高級店と同じくらいの売上をあげ、社内ランキング1位を常にキープしてきたという、美容師の積大輔さん。
前編ではなぜそのようなことができたのかをお聞きしました。返ってきたのは、「期待値以上の感動を与えられる施術や接客」だと積さん。それを可能にしたのが、徹底した顧客目線でのヒアリングと、丁寧な説明がベースとなっている「積式カウンセリング」でした。このカウンセリングによって、お客さまの悩み解決ができるだけでなく、信頼関係を築くことができ、売上アップにつながっているそうです。
後編では、積式カウンセリングのベースになったというアシスタント時代に迫ります。ホスピタリティに徹底的にこだわったお店で、お客さまが口にしていないことにも敏感に反応できるようになったという積さん。また厳しい下積み時代のなかで、周りに認められるためにはどうしたらいいかを常に考えていた結果、お客さまからのシャンプー指名を多く獲得してきたといいます。さらに、先輩スタイリストのお客さまにヒアリングをすることで、先輩の信頼も勝ち取ったそうです。
今回お話を伺ったのは…
積 大輔さん
有名店に入社し、キャリアを積む。アシスタント時代に、徹底した顧客目線での接客、カウンセリングをベースとした「積式カウンセリング」を確立し、スタイリストになって2店舗目では社内成績ランキング1位をキープ。2021年5月に独立し、表参道・青山に「GIFT」を構える。さらに現在はヒト幹細胞を使ったエステ「RIN FACE」を6店舗経営するなど、経営者としての才能も開花させている。
厳しい下積み時代に獲得した、非言語に対応できるホスピタリティ能力
――積式カウンセリングを確立したのは、アシスタント時代だったとお聞きしました。どのようにして確立されたのでしょうか?
当時勤務していたサロンが高級住宅街のなかにあったこともあり、お客さまファーストが徹底されたお店だったんです。それはもうかなり厳しくて…(笑)。そこでお客さまが言葉にしていないこと、いわゆる非言語に対してもかなり敏感に反応ができるようになりました。
たとえばお客さまが咳払いをしただけで、お水や飴を持っていき「よろしければいかがですか?」とお渡しする。シャンプーが終わった後にちょっと腕をさすった動作を見て、「空調温度を少しあげましょうか?」とか、「ひざ掛けをお持ちしましょうか?」などとお聞きする。お客さまが時計をちらっと見たときに、「何時までに終わる予定ですが、何時までに出たいなどのご希望はございますか?」とお伝えして、先にお会計をするかお聞きするというようなことです。
――それがスタイリストになってからの施術にもいかせているというわけですね。
はい。接客の付加価値についてすごく勉強していたので、言われたことをやるのではなく、期待値以上の感動を与えられるような美容師でありたいと常に意識していました。この意識があるかどうかで、施術も大きく変わります。
たとえば前髪を切るときに「前髪、これくらいで大丈夫ですか?」とは聞きません。「大丈夫ですか?」と聞くとお客さまは「大丈夫です」としか答えられない場合も多いですし、納得いかない部分があってもどう伝えていいかわからないんですね。そこで「あとほんの少し切りましょうか?」と聞く。そうするとそれくらい細かく伝えていいんだとお客さまも思うはずですし、自分が本当に納得できる前髪の長さになります。こういう細かなやりとりが感動を呼ぶんです。
アシスタント時代「必要であればスタイリストに伝えてください」のひとことだけで、売り込まずにシャンプー指名を獲得
――アシスタント時代にも、さまざまな工夫をされてきたんですね。
はい。僕がアシスタントをしていたころは、アシスタントがほめられることがほとんどない時代だったんです。そのなかでどうやったら認められるかを、常に考えていました。それで確立できたのが、シャンプー指名を取る方法です。
――具体的にはどのようにして指名をとったんでしょうか?
シャンプーではお客さまの非言語に対応する力をきちんと発揮して信頼をつかんだのがひとつと、「指名してくださいね」とは絶対に言わないのがポイントでした。言ってしまうと、お客さまに指名しないといけないのかなとすごく気を使わせてしまいますし、若い子に売り込まれたという感覚だけが残るので、逆効果だと思ったんです。僕は空気が読めないことが、一番売れない要素だと思ってるので。
シャンプー指名があることを知らない方も多いので、まずはそういう制度があることを伝えるのと、必要であれば担当スタイリストに伝えてくださいとひと言添えることを心がけました。お客さまは押し売りされたような気持ちにはなりませんし、もし必要がなくて指名しなくてもその場で断るわけではないので、気まずい思いをすることもありません。その言葉を伝えるだけで、段々とシャンプー指名が増えていきました。それと、お客さまから担当スタイリストに伝えてもらうことで、先輩からも段々と一目置かれるようになってきたんです。
――なぜお客さまから担当スタイリストに伝えてもらうことがいいんでしょうか?
指名をもらったことを僕から先輩に伝えても、なんとなく話をうまくもっていっただけだとしかとらえられないと思ったんです。でもお客さまから「積くんを指名したい」と言ってもらえれば、「あいつはお客さまから支持されているんだ」と思ってもらえるのかなと。お客さまからの指名が増えるにつれ、先輩からシャンプーやカラーにも入れてもらえる機会が増えていったんです。
お客さま全員に「なぜあのスタイリストを指名するのか」をヒアリングし伝えることで、スタイリストからの信頼度もアップ
――なるほど。アシスタント時代にほかにもやられていたことはありますか?
お客さまの求めていることを知るためにやっていたのが、先輩スタイリストのお客さま全員に、なぜあの人を指名しているんですか?と聞くことです。これをアシスタントから聞くと案外いやらしくなくて。まず「指名するようになって長いんですか?」と世間話的に、聞いていきます。そのときにもう少し踏み込んで、他と何か違うんですか?とか、何が一番ささったんですか?などと聞くことによって、そのお客さまが求めている一番の核みたいなものを、聞くことができるんです。
話すのが楽しいからなのか、施術が早いからなのか、カットがうまいからなのか…刺さることって人によって、全然違うので。
――そうすることでどんなメリットがあるんでしょうか?
その選ばれているポイントを担当のスタイリストに伝えることで、スタイリストがお客さまの満足度をさらにあげるきっかけと自分自身の勉強になります。ポイントをより丁寧に施術したり、もう少し時間をかけることで、お客さまはもっと喜ぶわけです。押してほしいツボを、より深く押すような感じですね。そうするとスタイリストからも「教えてくれてありがとう」と感謝してもらえました。このようにアシスタントとして働くときも、言われたことをやるだけではなく、常にプラスアルファの価値を考えていました。
――なるほど。さまざまなことを工夫されてきたのですね。最後になりますが、今後の目標を教えてください。
まずは店舗を広げていきたいと思っています。美容室は今年あと1店舗、エステサロンはあと4店舗を予定しています。美容室では現在アシスタントやスタイリストを募集しているので、お客さまに喜んでいただくことが好きで、美容師としてもっと成長したい方はぜひご応募いただきたいです。もうひとつ準備していることがあって、美容師版ライザップのようなものを考えていまして。今結果が出ていない美容師さんを短期間で売れっ子にする少人数制のスクールです。
美容の仕事はとてもシンプルで、美容技術を通して目の前のお客さまに喜んでもらい、また通ってきてもらうという仕組みです。それ以上でもそれ以下でもないと思っています。お客さまに喜んでもらうというマインドで仕事ができるようになれば、あとから売上という形がついてくるものなのではないかと。そういうことをスクールで教えていけたら、もっと幸せになる美容師さんとそのお客さまが増えるのではないかと思っています。
アシスタントでも人気になるためにやってきた3つのこと
積さんがアシスタント時代から人気になるためにやってきたことを伺うと、以下の3つでした。
1.お客さまが言葉にしていないことにまで、即反応する
2.制度の説明をしっかりすることで、売り込まなくてもシャンプー指名を獲得する
3.スタイリスト指名の理由をヒアリングし、スタイリストに伝えることで信頼を築くと同時に学ぶ
積さんのお話を聞いて感じたことは、自分の置かれた環境に言い訳せず、その時々にできることを全力でやってきたということ。その姿勢があれば、低単価のお店でも売上アップが可能ですし、アシスタントであっても存在感を示すことができたのだと感じました。美容師として活躍したい方は参考にしてみてくださいね。
Salon Data
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