美容ライターとして築いた25年超のキャリアを中断して鍼灸の道へ【鍼灸師 岡尾知子さん】#1

「美容ライター・江口知子」としてさまざまな女性誌や美容専門誌に記事を執筆し、順調に実績を築いてきた岡尾さん。美容に関する取材を進めるうち、東洋医学への関心が芽生え「もっと知識を深めたい!」という思いがふくらんだとか。とは言え、新しい世界に足を踏み入れるのには勇気が必要です。しかも順風満帆な仕事をセーブしなければならない…となるとなおさら。前編では、新しいことにチャレンジするまでのいきさつや、専門知識や技術を学ぶうちに「人のために役立ちたい」という思いに変わった出来事などを伺います。

OKAO’S PROFILE

お名前
岡尾知子
出身地
東京都北区
年齢
60歳
出身学校
上智大学法学部
東洋鍼灸専門学校
経歴
一般企業に就職後、編集プロダクション、広告代理店を経てフリーランスの美容ライターに。その後、鍼灸師の資格を取得し、治療院を開業
憧れの人
大谷翔平
プライベートの過ごし方
ジョギングなどで体を動かす。料理。読書や勉強。
趣味・ハマっていること
占い(四柱推命・断易)を勉強中
仕事道具へのこだわりがあれば
施術に加えて自宅でできる養生(食・運動・睡眠・入浴など)をアドバイスすること

美容にまつわる取材をするうち、その奥深さにどっぷり浸かることに

美容ライターとしての経験も治療に役立っているとか。

――きちんとお給料をもらえる会社員からフリーランスのライターになったきっかけは何だったのですか?

一般企業に勤めているときから、「私は組織で働くのに向いていないかも」とぼんやり思っていたんです。編集者を目指した理由のひとつは、フリーでできる仕事だから。編集プロダクションでは、女性誌の記事を作る仕事にいきなり加えてもらい、一から仕事をおぼえることができました。しかし、何といっても「組織に向かないかも…」の私ですから(笑)仕事をおぼえたら次に目が向いてしまう。次は、雑誌に欠かせない広告の世界を見てみたくなり、代理店に就職して企画の仕事に就きました。サラリーマンを辞めたのは、実は結婚がきっかけ。夫が同業者で、同じ職場で仕事をするのはお互いに抵抗があったので、私が辞め、フリーの編集・ライターとして再スタートを切ることになりました。

――それは岡尾さんが何歳のときですか?

フリーランスの編集者になったのは31歳です。

――女性誌の仕事の中で、美容をテーマに選んだ理由は何ですか?

フリーでお仕事をいただくわけですから、最初は美容、ファッション、読み物、占いなど何でもやりました。数々の取材経験を経て、医師や栄養士、スポーツトレーナーなど〝体の専門家〟の話を読者向けにわかりやすく解説するのが得意になり、同時に自分の中に知識のベースもできてきた。その結果、美容や健康、ダイエットの企画を受ける機会が自然と増えていったのです。
そして、人生を変えるほど大きかったのはランニングとの出合いですね。結婚後、私は運動不足解消のためにジョギングを始め、走ることで身体と心が非常に前向きに変化するのを実感していました。その矢先、世の中にランニングブームが訪れたのです。ランニングによって仕事も増え、同時に私自身の〝身体への関心〟がさらに高まりました。

――眠る時間がないほど仕事の依頼があって、毎日が充実していたと思うのですが、身体への関心が、薬膳や鍼灸へと興味が広がったのはなぜですか?

走ることで身体が変わると、気持ちも明るく前向きになり、体にいいものを食べたくなる。「身体と心はつながっている」と感じるようになりました。これはまさに東洋医学の考え方なんですよね。当時、漢方やツボの取材も数多く行っていたので少しは知識がありましたが、次第にそれでは飽き足らなくなり「東洋医学を専門的に勉強したい」と気持ちを持つようになりました。

それで40代に入ってすぐ、民間の漢方スクールに入って勉強を始めました。いざ勉強を始めたら、「もっと深く勉強したい!」という気持ちが増して、薬膳から中医学へとどんどん深みにはまってしまったんですね(笑)。最終的に「日本で唯一の東洋医学の国家資格」である鍼灸に挑戦することになりました。

資格を取得してから取材をする立場から、取材を受ける立場に。

――鍼灸は今までのキャリアとはまったく別の道。踏み出すのに勇気がいりませんでしたか?

鍼灸の前に、薬膳学校に入学して、中医学・薬膳・漢方の知識を習得。薬膳教室も主宰するようになり、次の目標として「鍼灸」が漠然と頭にあったんです。でも、そこから鍼灸学校に上がるハードルは結構高かったですね。学校の体験入学に行ってはみたものの、「仕事をしながら通えるかな…」「3年間は長いな…」「授業料も高いし…」といった迷いを払拭することができず、入学を決意するまで2年ほど蓋をしていました(笑)。

――実行に移したきっかけは何ですか?

きっかけはいくつかありますが、大きかったのは東日本大震災の復興支援活動でした。薬膳教室を主宰するようになった私は、復興支援活動に薬膳の専門家として加わり、仮設住宅を訪ねていました。私の他に、スポーツトレーナーや精神科の医師なども参加していたのですが、現地で目の当たりにしたのは、先生方がパーソナルに人を癒し、ケアする姿でした。東洋医学に携わるなら、私も専門家としてしっかり知識と技術を身につけ、人を癒す存在になりたい! そのためにはやはり、学校だ!! と、まあ。そんな感じで、2年間蓋をしていた向学心に遂に火が点いっちゃったんです。

学校へ通ううち、気持ちが「学びたい」から「人のために役立ちたい」に変化

実際の治療に使用している鍉鍼(ていしん)。お母さまを救ったのもこの鍼。

――仕事をしながら学校に通うのは大変だったでしょう?

私の通った学校には夜間部もあるのですが、出版の仕事は午後からが忙しいので、昼過ぎに授業が終わる昼間部を選びました。入学前は「仕事が大変なときは休んじゃおう」なんて考えていたのですが、これが甘かった! 学校ですから、当然、出席日数が厳しくて。
そこで、専門学校に入学したことを仕事先や仕事仲間に話したんです。最初は「3年も学校に通うなんて、なんとまあ…」と驚かれましたが、皆、状況を理解してくれ、仕事の時間帯を配慮していただくことができました。皆さん、私の挑戦を応援してくれたんです。これには本当に、感謝しかありません。

――同じクラスにはどんな方がいましたか?

40代の女性が多かったですね。昼過ぎには授業が終わるので、主婦やアルバイトをしている人も通いやすかったんだと思います。

――鍼灸学校時代に最も印象に残っていることは何ですか?

私が2年生のときのこと、年末からカゼをひいていた母が元日に高熱を出したんです。病院へ連れて行ったところ、緊急手術をすることになってしまって。扁桃腺炎から肺炎をこじらせたような状態でした。手術は無事に終わり、「熱が下がり、痰がとれれば退院」の予定だったのですが、免疫力が低下していたのでしょう。途中から薬が効かなくなり、再び高熱が下がらなくなり、痰もたまってみるみる増えて重篤な状態に陥ってしまいまったのです。
高齢の母ですから、まさに危険な状態。「せっかく鍼灸師になるのに、母に何もしてあげられないなんて…」と、この時ばかりは、本当にやりきれない悲しさでいっぱいになりました。でも、とにかくできることをしてあげたくて、私は母の症状に効きそうな3つのツボを選び、金の「鍉鍼(ていしん)」を当てて施術を施したのです。鍉鍼とは刺さない鍼なのですが、使ったのは24Kですごく高いんですよ(笑)。まさに、娘から母への渾身の鍼治療。心を込めて施術しました。

――お母さまはどうなりましたか?

2日連続で鍉鍼で施術した翌日、授業中に病院から電話がありました。「イヤな知らせだったらどうしよう」と、本当にドキドキしながら電話に出ると、なんとなんと! 「病状が落ち着いたので、一般病棟に移りました」という嬉しい連絡だったんです。一時は危険な状態だった母ですが、その後は熱が上がることなく、数日後にはリハビリに出られるように。そして、3月に無事に退院し、今はピンピン、毎日犬の散歩ができるほど元気になっています。
母が快方に向かったのは、私の鍉鍼治療の効果なのか…。それは誰にもわかりません。でも、必死に治そうと鍉鍼を当てた身体がよくなり、一旦よくなった身体はどんどん健康に向かって治っていく…。それを、我が母の命によって教えられたことは、唯一無二の経験でした
それまで、学校の授業と実技をマスターすることで頭がいっぱいの私でしたが、この出来事で意識がガラリと変わりました。知識を深め、技術を高めることに満足するのではなく、一人ひとりの身体と命に向かい、治癒に導く臨床家になりたい! 改めて、そんな思いが大きくなりました。

ライターとして活躍していたころから、美容や健康のことを「もっと学びたい」「もっと知りたい」という気持ちが大きかった岡尾さん。この気持ちが新しいステップへ踏み出す原動力になったようです。国家試験をパスして鍼灸師となった今、ライター、薬膳師の経験が大いに役立っているようです。後編では、実際に鍼灸師として仕事をするようになってから、美容やエクササイズを取り入れて差別化をはかっている様子をご紹介します。

撮影/古谷利幸(F-REXon)

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お話を伺ったのは…

岡尾知子さん

国際薬膳師、国際中医師、鍼灸師。ライターとして美容・健康に関する記事を執筆するなかで東洋医学に興味をもち、薬膳専門学校で薬膳と中医薬を学ぶ。鍼灸師国家試験に合格後は、池袋の治療院に勤務しながら執筆活動、中医薬膳を教える「LOTUS薬膳教室」を主宰する。2022年に鍼灸と薬膳を組み合わせたご自身の治療院「つぼみ堂はりきゅう院」を開業。近著に薬膳のレシピを紹介した『はじめての薬膳生活』(法研)がある。

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