目の前のことを大切にすること。それが事業継続に欠かせない秘訣!【Sourire代表 宇野陽輔さん】#2
「ゆくゆくは独立したい!」と考えている方に、さまざまな独立の形を取り上げる本企画。
前編に続いて、後編も1年前に『Sourire』をオープンした宇野陽輔さんにご登場いただきます。前編では独立を意識したきっけや、開業にこぎ着けるまでのご苦労や失敗談などを伺いました。後編では、店舗の名前『Sourire』の由来、宇野さんが求めた理想の働き方、起業を考えている方たちへのアドバイスについて、詳しくご紹介します。
お話しを伺ったのは…
Sourire代表
宇野陽輔さん
1997年に都内の理美容専門学校を卒業後、横浜市内のサロンに就職。長年にわたってスタッフの育成やサロン運営に携わる。2022年5月20日、横浜市内にプライベートサロン『Sourire』を開業。
お客さまとは完全に1対1。自分にふさわしい働き方を実現
――お店の名前『Sourire』にはどんな意味が込められているんですか?
店名がなかなか決められなくて、すごく悩んだんですよ。自分が大切にしてきたことを名前にしようと思って、1000日以上続けてきたブログを見返して決めました。
ブログには「笑顔」という言葉が何度も出てくるんです。お客さまだったりスタッフだったり、自分は人を笑顔にするためにこの仕事をしているんだな…というのを改めて実感できました。店の名前を「笑顔」にするのは問題外(笑)。英語の「SMILE」はダサすぎる(笑)。じゃあフランス語はどうだ?と調べたのが『Sourire』です。
――オープンに向けて、お客さまにはいつぐらいから告知したんですか?
辞める2か月前くらいからですね。オーナーとも相談をして、告知の時期を決めました。変にコソコソ告知するのはイヤでしたし、独立してからもオーナーとの縁を大切にしたかったので、お店の意向をくみつつ進めました。
――本当に前のオーナーさんのことを大切に思っていらっしゃるんですね。
技術的にはもちろんですが、人間的にも成長させてくれたのがオーナーですから。いろんな所に連れて行ってもらいましたし、仕事を通していろんな経験を積ませてもらいました。年齢を問わず、業界に幅広い人間関係を築けたのはオーナーのおかげです。今でもたまに仕事が終わった後、オーナーと食事をしたり飲みに行ったりするんですよ。
美容師って横のつながりを作りにくいものなんです。僕の場合、講習会に参加したり、講師として他のサロンへ出かけたりする機会があったので、井の中の蛙にならずに済みました。
――実際にオープンして、前サロンのお客さまはどのくらいこちらに移っていらっしゃいましたか?
見込みは5割でしたが、実際は6割以上の方がお見えになっています。前のお店とはひと駅しか離れていないので、「半分来てくれたら御の字」と思っていました。見込みでもお客さまの数って大事なんですよね。資金を融資してもらうとき、ものすごい助けになりました。
――アシスタントはいらっしゃらないんですね。
僕ひとりです。最初はアシスタントを入れて二人体制でやろうと思っていましたが、「この人と一緒に働きたい」と思えるような人でなければ雇いたくなかったんです。これから先そんな人物が現れれば、考えてもいいかな…。
今は、お客さまの来店からお帰りになるまで、僕とお客さまの二人だけのプライベートサロンになっています。他のお客さまとすれ違うことはありません。
前に勤めていたときは、お客さまをお待たせすることもありましたが、今は1対1なので、おひとりおひとりに集中できます。お客さまもアシスタントや他のお客さまの目がないので、リラックスできるようです。
40歳を過ぎてから、仕事が楽しくなりました。年齢と経験を重ねて技術力も上がってきたからでしょうか。思い描いた通りのことができるようになった分、楽しいんでしょうね。しかも今は、ひとりのお客さまに集中して仕事ができる。ラクして楽しい。目の前にある問題に集中して、コツコツ解決していくスタイルが性に合っているのかも。自分で始めたことなので、よけいに楽しいです(笑)。
――ずっとアシスタントさんがいる中で仕事をしてきて、急に一人っきりになると不安を感じませんでしたか?
自分ひとりで受付からシャンプー、カットなど一連の作業にどのくらい時間がかかるのか、見当も付きませんでした。友人に相談したら、「プレオープンをするべきだ」と言われたんです。それで開店1週間前に、知り合いと仲のいいお客さまにお願いして来てもらいました。
プレオープン、やってよかったです。カラーをするときはここに秤があると便利とか、シャンプー台に案内するときはこちらから回るといいとか、細かなことがすごくよく分かりました。時間の配分も分かりました。前の店でやっていた時間配分より、長めに設定しているんですよ。北山田駅から近いのですが、初めていらっしゃる方は迷うかもしれません。その分、ゆとりを持った方がいいと判断しました。
常にアンテナを張り巡らし、技術やセンスを磨き続けることが大事
――独立する目的には「収入を上げたい」という方もいます。宇野さんはいかがですか?
確かに独立して稼ぎたい方もいますよね。僕はお客さまも自分も家族も大切にできる働き方をしたかったんです。
1対1なので必然的にお客さまとの密度が濃くなります。その分きちんと向き合うことができるのが大きなメリットですよね。勤めていた時は勤務時間が決まっていましたが、今は仕事を早く切り上げることができます。僕はスポーツ観戦が趣味なんですが、ニュースで結果を見るんじゃなくて、リアルタイムで試合を見られるようになりました。奥さんとの時間も増えましたね。彼女は会社員なのでもともと休日が違いますが、僕の帰宅時間が早ければ、店のことなどいろいろ話しています。
――ご自身のサロンをつくるとき、他のサロンとの差別化を考えましたか?
特に考えませんでしたが、強いて言えば来店したときに誰もいないプライベートサロンであることでしょうか。個人経営のサロンなので、カラーでもシャンプーでも僕がいいと思った商材に、すぐ切り替えられるのも魅力だと思っています。いいものがあれば、どんどん取り入れたいとずっと思っていたので。ただ、僕がいいと思っても、お客さまに押しつけてしまうのはちょっと違う。それだけは避けたいです。さじ加減がちょっと難しいところですね。
――一人っきりだと入ってくる情報量が減って、不安になりませんか?
それはあります。今でも営業が終わった後にカットの基本練習をしたり、休みの日を利用してセミナーや講習会に行ったりしています。年に何回か作品撮りも続けているんですよ。やってきたことは勤めていた時も今も変わりません。きっと僕は職人タイプなんだと思います。技術職だから努力した分だけ自分のプラスになる。大切にしないといけないことだと思っています。
――開業から1年経ちますが、いろいろな意味でもう不安はなくなりましたか?
独立すると決めてからはすべてが不安でした。店を開けてみたらお客さまがゼロだったらどうしようとか、売上が立たなかったらどうしようとか。ですが、いざ開業準備に取りかかったら、やることが多すぎて不安を感じるゆとりすらありませんでしたね(笑)。
特に開業から最初の3か月はワケが分からないほど忙しすぎて舞い上がっていたようです。いろいろなカラー剤を試したくて、かなりの商材を発注していたんですね。仕入れの金額を見て「これはやばい!」と(笑)。半年ほど経ってから、この分なら大丈夫かな…と感じて、1年経って「大丈夫だ」と思えるようになりました。
でも、「自分は順調だ」と思っていると油断するので、絶えず危機感を持っていたいですね。だからこそ、練習を怠りたくないし、努力し続けたいんです。止まったら終わりだと思っています。
――これから起業を目指している方に、アドバイスをお願いします。
経営的なことはやってみないと分からないので、何となく知識がある程度でも大丈夫です。ただ、貯金ができないと難しいと思います。貯金ゼロだった僕が言うのも何ですが(笑)。時間とお金があれば飲み食いしたいし、遊びにも行きたい。自己投資もしたいでしょう。でもその気持ちを抑えて、短期間でも貯蓄に専念する意志がないと、目標は達成できないと思います。
宇野さん流!事業を継続・成功させる3つのポイント
1.開業前のプレオープンで細かな問題を解決しておく
2.自分のスキルと感性を磨く努力を怠らない
3.いいものは取り入れながら、決して押しつけない
独立を決めた当初は、すべてが不安だったとおっしゃる宇野さん。それが今では、なかなか予約がとれないサロンにまで成長しました。インタビューを通じて、ふんわりとあたりを包むようなやさしい雰囲気に隠された、日々の努力を惜しまない職人気質を感じられました。
撮影/森 浩司