22年の勤務を経て独立! 大型店とフリーランスのいいとこ取りを実現する新店をオープン【ancrea Aoyama代表 金子 史さん】#2
超有名大型サロン勤務を経て、2023年に自身のお店「ancrea Aoyama」をスタートさせた金子 史さん。女性美容師として第一線を走り続けてきた金子さんがサロンオープンに込めた思いとは?
後編では、独立から出店までの経緯や、これからのビジョンについてお伺いしました。
お話を伺ったのは…
ancrea Aoyama代表 金子 史さん
地元・鹿児島県の美容室を経て上京、アフロートへ入社。多忙なサロンワークをこなしながら、雑誌やCM、ヘアショー、セミナー講習など幅広く活躍。頼れる女性スタイリストの一人としてお客様からはもちろん、業界からの支持も厚い。代表、COOなどの役職を経験し、2022年に退社。2023年3月に自身のサロン「ancrea Aoyama」を表参道にオープン。
退社後はフリーランスも経験し、新店経営のヒントに
――独立は考えていたのですか?
若い頃から独立願望があったわけではないです。やっぱりリスクを現実的に考えてしまうと、技術があるからといってじゃあ独立しよう! とは、なかなか思えないですよね、女性は特に。
経験も年齢も積み重ねてきたからこその気持ちの変化はありましたね。役職のあるポジションで安定して働いていくというのもできたけど、私は常に勉強していたい性格で、サロンワークも大好きで、生涯美容師として立っていたい。そう思ったら、50代、60代でこれまでと同じような働き方をしている自分がイメージできなかった。
独立するのがこれからの働き方として一番いいのかなと、そういう選択でした。
――出店まで相当大変だったのでは?
基本的に一人で全部やっていたので、それはもう大変です。宮村さん(アフロート代表)をはじめ、いろんな方々からメーカーさんやディーラーさんも紹介いただいて。まわりに助けられて、ここまで来れました。
――オープンまでに、フリーランスも経験されたそうですね。
前のサロンを退社してからお店を出すまでに、シェアサロンでは必ず働いてみようと思っていました。今はフリーランスの美容師が増えているから、実際に自分も体験してシステムがどうなのか、どういう気持ちでみんな働いているかを知りたくて。
私はずっと同じサロンで働いてきたから、考えが凝り固まっているに違いない、そう思ってのチャレンジでもありました。新店の工事が遅れたのもあり、結局一年くらいフリーランスとして活動してました。
――経験してみて感じたことは?
フリーランスは個室でマンツーマンなので、その環境はすごく新鮮。でもシェアサロンだと1枠1席と決まっていることが多く、そうなるとお連れのお客様ができないんですよね。他の美容師さんの予約も見ながら、混み合わない時間帯に予約を入れていただくなど、その辺はやはり普通のサロンとの違いを感じました。
あとやっぱり、マンツーマンだと売上はそこまで上げられないですよね。自由な働き方はできるけど、お客様がしっかりついてくれないと継続は難しい。集客もSNSが中心になるし、そこも上手くできないとフリーでやっていくのはけっこう厳しいなと思いました。
美容師が働きやすい美容室を作っていきたい
――新店はどんなお店を目指したのでしょう?
「美容師さんが働きやすい環境作り」。これは絶対にこだわろうと決めていました。大型店で長く働いてきたからこそ感じたことや、フリーランスを経験してみて気づいたこと。両方のいいところを取り入れていきたいなと。
正社員雇用や社会保険なんかもそうですが、自由にお休みが取れたり、働き方も柔軟にできるような、そんな環境にしていきたいと思っています。例えば、うちに所属しているけど、他のエリアに大事なお客様がいるならばそれはシェアサロンで、といった具合で自由度を高く。
――今はいろいろな働き方があります。
私は、ある意味一つしか選択がないお店でずっと働いてきたから、これからはもっと自由な形があってもいいのかなと思います。
今は特化型の美容師さんも多いです。カラーが得意な人、髪質改善を極めている人、メイクを打ち出している人。そういった特化型の人たちと一緒に働けたら、みんなの技術が底上げできて全体として強くなれるのでは。これからスタッフを増やしていくにあたり、そんなイメージもしています。
――得意分野があるのはやはり強み?
今の時代、集客するには強みですよね。その一方で、「何でもできる美容師」という存在も大切にしていきたいです。
一人のお客様を長い間担当していると、いろんな変化があります。年齢を重ねるごとに悩みも変わってくるし、好みや似合うスタイルもずっと同じではない。お子さんが産まれればキッズカットもして、七五三のメイクや着付けをお手伝いできた時は本当にうれしかった。
これは私の経験ですが、若い頃から時間をかけて学んできたいろんな技術は、あとになってもすごく生きていると感じます。
――これからの若手にもいろいろ学んでほしいですね。
勉強会もやっています。前のサロンの後輩だったり、それこそ特化型の美容師さんの知り合いもたくさんいるので。アシスタントが育っていくなかで、いろんな形での勉強会を取り入れていけたらなと思います。
サロンが休みの日に、フリーランスの方たちにお店を貸して講習をしている時もあります。フリーだと講習したいけど場所がないというのが現実らしくて。場所を提供しつつ、私もこっそりその講習を聞いて勉強しました。
働き方はより自由に柔軟に。女性だからといって諦める必要はない
――美容師を長く続けていきたい女性に向けて、アドバイスはありますか?
女性は人生の転機がありすぎて、その時々でいろいろ考えながらも、働くことを諦めてしまう人が多いと思います。結婚、出産、家族との生活もどんどん変化していく。
いったんお休みしてまた戻ってこようと思った時に、そこから集客できるのか、しっかり時間まで働けるのか、やっぱりちょっと力が湧かない。フリーランスの方が気楽かな? とも思うけれど、お客さんがある程度いないとフリーは成立しにくい。
――そこの壁はけっこう厚そうです。
諦めなくていいと思います。雇用形態も時間も、働き方全般として、以前よりかなり自由に柔軟になってきている。私もそういう風に考えるオーナーの一人。しっかり話し合ってお互いがOKなら、形にとらわれなくて全然いいんですよ。
仕事って、一度離れてしまうと働くことに対して消極的になってしまう。でも離れていたからといって怖いと思わなくていいし、せっかく身につけた技術なんだからまた生かしてほしいです! 年を重ねても、無理なく楽しく働ける環境を諦めなくていい時代になってきていると思います。
金子さんから学ぶこれからの働き方のヒント
1.いつだって勉強する姿勢を忘れない
2.「特化型美容師」と「何でもできる美容師」
3.自分に合う働き方をアップデートしていく
取材・文/青木麻理(tokiwa)
撮影/生駒由美