「鍼灸」×「音楽」に見出す、鍼灸師の新たな可能性 私の履歴書 【アーティスト専門鍼灸師兼サロン代表 MEGAPANさん】#1

鍼やお灸を使い、東洋医学的な発想で患者の身体的不調にアプローチする鍼灸師たち。その中でも、バンドマンをはじめとしたアーティストや俳優など、エンタメシーンを牽引する人々を中心に施術しているのが、「アーティスト専門鍼灸師」のMEGAPAN(メガパン)さんです。

全国各地のライブ会場を飛び回りながら、裏方として鍼灸治療によるケアでアーティストたちを支え、共にライブシーンを創造してきました。

そんなMEGAPANさんが、「鍼灸」と「音楽」を結びつけ、「アーティスト専門鍼灸師」となるに至った発想や経緯とは、一体どのようなものだったのか。前編では、その物語に迫ります。

MEGAPAN’S PROFILE

お名前
MEGAPAN(本名・野田峻也)
出身地
島根県邑南町
出身学校
明治東洋医学院専門学校 鍼灸学科
明治東洋医学院専門学校 教員養成学科
憧れの人
「祖父です。自分が困ったり苦しんだりしていた時には、“もっと困ったり苦しんだりしている人がいる。だからその人たちを助けなさい”と教えられてきました。そんな祖父が亡くなった後、祖父にはお世話になったと地元でいろんな人に話しかけられたんです。自分も亡くなった時には、家族が誰かにお礼を言われるような生き方をしたいと思っています」
プライベートの過ごし方
Netflixでアニメやドラマ、映画を観ること。または娘と過ごすこと。
趣味・ハマっていること
「料理です。作るのも食べるのも大好き。同じレシピを参照しても、作る人の加減などによって出来上がりが変わったりする。鍼灸の治療にも通じる部分があるんですが、そんなところに楽しさを見出しています」
仕事道具へのこだわりがあれば
「道具自体へのこだわりは特にありません。場所を選ばずに治療できるのも鍼灸の魅力の1つなので、患者様に合わせることが優先です。もしも自分自身を仕事道具と捉えるなら、柔軟性やフットワークの軽さを大切にしています」

大好きな音楽に携わる仕事がしたい。僕のベストアンサーは「鍼灸師」

「鍼灸」と「音楽」。一見関連がなさそうなこの2つの要素を結びつけた、そのロジックに迫る

――早速ですが、MEGAPANさんが鍼灸師、ひいては「アーティスト専門鍼灸師」となったきっかけを教えてください。

元々音楽が、特にバンドミュージックが好きだったんです。ライブ会場にもよく足を運んでいました。本格的にのめり込んでいったのは高校生くらいの時ですね。

僕自身も、中学の時はドラムをやっていたんです。卒業イベント的なステージでバンドを組み、ステージの上で演奏していましたが、ずっと何だかしっくりこない感覚を覚えていました。でも、スポットライトを浴びながら演奏する、ギターがとても上手な先輩の背中を見た時に気がついたんです。「自分は、表に出る人たちを支える方が好き」だと。そしてそっちの方が、自分にとってかっこいいことなんだって

――バンド音楽やライブシーンへの傾倒と、自身の裏方気質への気づきがきっかけだったんですね。

そこから、音楽業界の仕事を目指すようになりました。最初は、ベタですがバンドのマネジャーになりたかったんです。例えば「マキシマム ザ ホルモン」のマネジャーだった、しみゆうさんみたいな。DVD作品などを通じて観る、バンドマンたちと良好な関係を築きながら一緒に音楽シーンを作り上げる姿に憧れていました

僕自身もマキシマム ザ ホルモンのファンでしたから「どうやったらこんなふうに音楽業界の仕事ができるだろう」と、DVDに映るメンバーとマネジャーをはじめとしたスタッフたちの姿を観ながら日々考えていたわけです。

そんな時でした。「あ、これだ!」と思ったのは

――それは、一体何ですか?

DVDの中で、メンバーの一人がライブツアー中にぎっくり腰になるシーンがあったんです。もちろんバンドにもよりますが、ライブって歌や楽器の演奏以外にも飛んだり跳ねたりなど、実は激しい運動をしています。それらがもたらすバンドマンたちへの身体的不調も当然あって、「そんなメンバーをなんとか治せるスタッフになればいいのでは!?」と閃いたんです

――医療スタッフ的な立ち位置ですね。鍼灸師を選んだ理由は?

当時、アスリートを支えるスポーツトレーナーの存在が世間的に認知され始めた頃でした。野球のイチロー選手がトレーナーを引き抜いてメジャーリーグに行ったなど、僕もそんなニュースを目にしていて。そしてそのスポーツトレーナーが、まさしく鍼灸師だったわけです。スポーツトレーナーのなり方も調べてみたら、多くの人が鍼灸師の資格を取得していました

事前にこの背景があって、先ほどのぎっくり腰のシーンをDVDで観た時「バンドマンやアーティストを専門に施術する鍼灸師として彼らに帯同しよう!」と、「鍼灸」と「音楽」が結びついたんです

しかも、調べてみたら前例がいないじゃないですか。おもしろそうだ、これはやるしかないと、この道に決めました。高校2年生の頃です。

まだ若かったのもありますが、不安は特にありませんでした。自分の中では、おもしろいかどうかが最優先の基準なんです。あとはやはり、やらない後悔よりもやって後悔したかったですね。

がむしゃらに駆け抜けた、「アーティスト専門鍼灸師」という前人未到の道程

高校時代の「大人たちとの戦い」を振り返りながら、イタズラっぽい表情を見せる

――アーティストを専門に施術する鍼灸師という目標を定めた後、具体的にどのような行動を起こしたのでしょうか?

まずは、親や先生との戦いが始まりました。地元の公立高校の普通科に通っていたんですが、当時の僕は、国公立大学や私大の医学部の受験を目指すような進学クラスに在籍していまして。そんなクラスにいながらバカ正直に「バンドマンのトレーナーを目指したい」なんて、到底言えないわけです。

――ご両親や先生の反対を受けることは、火を見るよりも明らかですね…。

そうなんですよ。また進路先として、ライブハウスが多い大阪に行きたいというのも必須条件の1つでした。鍼灸学科のある大学を受験させられたりもしましたが、立地が大阪じゃなかったので合格通知はしれっと無視しましたね。他にも、願書をこっそり書き換えるなどあの手この手で大人たちを煙に巻き、あらゆる理由を並べ正当化しながら説得を重ねました。その甲斐あって、最終的には大阪にある明治東洋医学院専門学校の鍼灸学科に無事入学。晴れて鍼灸師の道へのスタートを切ることができました!

――長かったですね…! 一人前の鍼灸師になるために取り組まれたことを教えてください。

専門学校はスタートラインに立つための準備期間だと思っていたので勉強はもちろん、さらに実践経験を積むべく鍼灸整骨院などでアルバイトに明け暮れていました。

教員免許も取っておきたかったので、3年間の鍼灸コースに加え、医療系の教員を目指せるコースにも2年ほど通っています。

また、スポーツ鍼灸を広める活動をしていた先生のゼミにも参加していました。筋肉のみならず内臓の働きなども含めた全身に対する鍼灸でのアプローチを研究できたのは、とても有意義でしたね。後に、アーティストに対する独自の施術を考案する上でも役立ったと思います。

――音楽シーンへの参入は、卒業後からですか?

そうです。元を辿れば、大阪にある「LOU DOG(ルードッグ)」というアパレルショップがきっかけですね。

通っているうちに店長でありバンドマン(SUNSHINE DUB、3.6MILK、SUNSET BUSで活躍)でもあるSATO-BOYさんに職業を聞かれ、鍼灸師だと答えたんです。

そしたら「体悪そうなバンドマン見たらええやん」って言ってくれて。むしろ僕も「それやりたくて鍼灸師になったんですよ」なんて話していたら、HEY-SMITH(ヘイスミス)の猪狩秀平さんを紹介してくれたんです。そこから、ライブ会場や猪狩さんの自宅で施術をするようになりました。僕の、音楽シーンにおける最初のお客様ですね。

猪狩さんからお誘いいただいた飲み会では「俺を診てくれている鍼灸師、MEGAPAN」と周りにも紹介してくれました。その後もHEY-SMITHのライブを見に行く際は楽屋でも施術させてもらったり、打ち上げにも呼んでもらったり。そんな中で、他のバンドとも徐々に知り合うようになっていきます。

この時はまだ、時々楽屋でバンドマンの施術をする程度で仕事と言えるほどではありませんでした。

初めて仕事としてバックヤードで鍼灸治療をさせていただいたフェスの「HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014」と、鍼灸ブースを出展した「DEAD POP FESTIVAL 2015」、この2つのイベントへの参加が大きかったです。

僕の鍼灸気に入ってくれるバンドマンが増えていき、ツアー中のバンドが大阪に来た際の現場や滞在先など、音楽シーンに鍼灸師として呼ばれるようになってきたのもこの頃からです。

口コミがさらに広がり、2015年以降には、関西方面以外からもお声がかるようになってきて。そんなこんなで、気がついたら全国各地のライブ会場を飛び回る日々になっていました

――鍼灸師としてライブ会場のバックヤードで施術する中で、大変だったことはありましたか?

何せ前例がないので具体的なオペレーションや施術スペースの確保などについては試行錯誤を繰り返しましたね。後は、スケジュールのやりくりでしょうか(笑)。僕は、基本断らないんですよ。チャンスなんて何度も来るものじゃないし、次がある保証もない。来た瞬間、掴みにいかなきゃダメなんです

僕なりに築いてきた「アーティスト専門鍼灸師」という仕事について

MEGAPANさん自身がパイオニアである「アーティスト専門鍼灸師」。その職業について紐解いていく

――そもそも、「アーティスト専門鍼灸師」って、一般の鍼灸師と何が違うのでしょうか?

わかりやすいところで言えば、治療の対象がバンドマンをはじめとしたアーティストの方々がメインであること。そして治療の目的が、彼らのパフォーマンスを最大限に引き出すためであることですね。その一瞬にベストを尽くせるように体を整える必要があるので、単に身体的不調を治せばいいだけじゃありません。

一般の鍼灸師との違いは、求められる施術の質が高いことかな。彼らは体への負荷も一般の方々より大きいことが多いので、施術者側としても出し惜しみすることなく全力を出す必要があります

――アーティストに特化した施術をするにあたって、どんな工夫をされているのでしょうか?

前提として、施術はバンドマンごとに完全オーダーメイドです。その上で僕なりに工夫していることをお話しすると、まずは担当バンドの各メンバーのベストな状態を把握すること。そのため、担当バンドの楽曲やセットリストを頭に入れ、ツアー中の生活サイクルも確認します。そこから、把握したメンバーのベストな状態に合わせて調整していきます。

さらに言うなら、ステージに立つ時間から逆算して、メンバーの体調やメンタルも考慮した上で刺激量を調整しながら治療しています。

――MEGAPANさんの鍼灸治療の特徴として、アーティストに対する声や喉への施術がありますよね。鍼灸師としては珍しいアプローチだと思うのですが、こちらはどのようにして学ばれたのですか?

この治療法については確立された前例がなかったので基本的には独学ですが、声を専門とする関西在住の医師の方の講習を受けながら、その知識を鍼灸の治療法に落とし込んでいきました。さらに、スポーツ鍼灸や、咳止めに鼻つまりなどといったメディカルな分野の様々な論文を読み漁ったり、当時講師をしていた鍼灸の専門学校など、教育の場も上手に活用しながら実践を繰り返し、施術の引き出しを増やしたりしていきました。

僕が声や喉の治療を始めたのは2014年頃のことなので、歴としてはもう10年以上になります。ヴォーカリストからの声や喉へのアプローチに関するリクエストは最も需要が多いものの1つですが、対応できる鍼灸師がまだまだ少ないのが現状です。

喉への施術を行うMEGAPANさん。この治療に助けられたアーティストたちは数知れず

――「アーティスト専門鍼灸師」ならではのやりがいとは、何でしょうか?

自分が積み上げてきた知識や経験則から導き出した施術を通じて、目の前のアーティストたちが、自分の予測した通りにベストの状態になること。これが、僕にとっては楽しいし、気持ちがいいですね。

そんな自分が貢献したベストな状態のアーティストによるベストなパフォーマンスを、ステージを訪れた観客たちが楽しむ。それって、さらに素晴らしいことだと、僕は思うんです。

MEGAPANさんが治療した数多くのアーティストや俳優の足跡

音楽好きが高じて、これまで誰も成し遂げたことのなかった「アーティスト専門鍼灸師」という職業の第一人者となったMEGAPANさん。前編ではいかにしてその地位を確立していったのかと言うストーリーや、数多のバンドマンを救い、共にライブシーンを創造してきたプロセスを伺いました。後編では「アーティスト専門鍼灸師」としての働き方の変遷や、自身の鍼灸治療院「鍼の森」に関する新プロジェクトなど、MEGAPANさんの次なるステージについて語っていただきます。

撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈

Check it

アーティスト専門鍼灸師・MEGAPAN
Instagram
株式会社猫の手
鍼の森
住所:東京都渋谷区円山町6-5 石坂ビル3F
電話番号:0364161929
Instagram
公式HP&予約

 

転職満足度98% 約33,000件の豊富な求人 アプリでどこでも転職活動できる 給与UPの成功実績も多数!たった1分 リジョブに会員登録する
この記事をシェアする

編集部のおすすめ

関連記事

近くの鍼灸師求人をリジョブで探す

株式会社リジョブでは、美容・リラクゼーション・治療業界に特化した「リジョブ」も運営しております。
転職をご検討中の場合は、以下の地域からぜひ求人をお探しください。

関東
関西
東海
北海道
東北
甲信越・北陸
中国・四国
九州・沖縄