一美容師として頑張り続けることで、サロンのブランド価値を上げたい【arc 前田秀樹さん】#2

憧れのサロンでの勤務とフリーランス期間を経て、表参道に「arc」を立ち上げた前田秀樹さん。そこから2年半後には「arc+」もオープンし、一見、順風満帆に感じられますが、「美容師を辞めようかな」と思ったこともあるそうです。

後編では、サロン作りのこだわりや、店も自分も揺らいだ時期のこと、そんな状況を打破したきっかけなどをお聞きしました。

お話を伺ったのは…

arc

代表・美容師 前田秀樹さん

2008年に専門学校卒業後、都内サロンで2年半勤務。2011年に有名店に移籍し、2015年にスタイリストデビュー。2018年に「新美容スターコンテスト」で優秀賞、「ナプラドリームプラス in 武道館」で4位入賞など、数々の受賞歴を持つ。2019年に退社後、フリーランスを経て2020年にarcを立ち上げる。2022年には2店舗目となるarc+をオープン。

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「変化」に柔軟なサロン作りと、スタッフ教育がこだわり

自然光が柔らかく差し込む、落ち着いた空間。スタッフの皆さんが醸し出す心地よい雰囲気も人気の理由。

――いざ自分の店を立ち上げるとなった時、初めから表参道に決めていたのですか。

当初、場所はどこでもいいかなと思っていたんですよ。ただいろいろリサーチする中で、表参道であっても少し外れたところであっても、相場はそこまで変わらないと気づいたんですね。サロン勤務時代もフリーランス時代も表参道界隈だったので、お客様のことを考えたらやはり表参道なのかなと。

場所を決めるまでに、結構下調べをしました。歩合率や社会保険などがとてもいい条件のサロンをインスタグラムで見かけて、そこの社長に会いに行ってお話を聞いたり、フリーランスの後輩にも話を聞いたり。

――お店の名前の由来やコンセプトを教えてください。

「arc」は「円」や「弧」という意味があるんですが、周りの人や繋がりを大事にするという思いが込められています。これ、スタッフが考えてくれたんですよ。みんなで候補を出して、話し合って決めました。

――スタートからみんなで決める感じがいいですね。

そういう部分は、前サロンのイズムを継承しているのかもしれません。実はオープニングメンバーは全員、同じサロン出身だったので。辞めたタイミングや理由はそれぞれ違いましたが、結果的にarcに再集合したという感じです。なので、初めからある程度はチームワークというか信頼関係ができていたと思います。

黒、グレー、ブラウンでまとめられたシンプルな空間。週代わりで飾られる生花にも癒されます。

――サロンの空間作りでこだわったことはありますか。

グレーの壁紙は自然光や照明によって風合いが変わります。鏡、椅子、装飾などはできるだけシンプルなものにしているのもこだわりですね。

年月とともにスタッフが変わったり、トレンドが変わったり、好まれるテイストが変わったりします。ベースがシンプルであれば、そういった変化に対応できるからです。

――サービスや人材などのソフト面ではいかがでしょう。

まず、スタッフの人間性はとても重要だと思っています。お客様に選ばれる店であるためにも、美容師に「ここで一緒に働きたい」と思ってもらうためにも。だからスタッフの教育にはとても力を入れています。新卒でも中途採用でも新しく入ってきた子は、最初に僕がいろいろ教えるようにしているんです。

――オーナーさんが直接、新人教育をするのは珍しいですね。

そうですよね。以前、スタッフが立て続けに辞めた時期があり、その時に一人一人に向き合って育てていくことの大切さを実感しました。

カリキュラムでも動画を見て学ぶ方法も今はあります。人件費を抑えられるのでそれはそれでありですけど、arcの現状では僕がきちんとコミュニケーションをとる方がいいなと思っています。だから本人が教えてほしいと思った時に、すぐ教えられる態勢を整えておく。必要な時に必要なことをちゃんと与えられるように。

それでも結局、辞める人は辞めると思いますが、1%でも離職率を下げられるなら、できることは全部やろうと考えているんです。

オーナー業に振り切った1年は、個人的暗黒時代

サロンワークからいったん距離を置いたことがある前田さん。「20代の時に止まることなく働きすぎて、一種の燃え尽き症候群だったのかも」と振り返ります。

――arcをオープンしてから、壁にぶつかったことや大変な時期はありましたか。

コロナ禍でお客様が来ない時期は大変でしたが、収束後わりとすぐに売り上げが伸び、優秀なスタッフが多かったんですよ。その時に、僕自身はサロンワークから離れて、経営の仕事に全振りしたんです。

ところがそれをやったら、スタッフに驕りが出たり、教育がうまくいかなかったり、僕の権威がなくなったり…。しかもサロンワークをしないと暇で、それが辛いと感じたんですよね。お店の売り上げは順調でしたが、僕的には暗黒時代でした。

――もしそのままだったら、お店の調子も下がってしまったかもしれませんね。

そうですね。何かで「力を失ったリーダーは終わり」みたいな言葉を聞いたことがあって、まさにそんな状態でした。これではダメだと思い、サロンワークをより頑張るようにしましたし、スタッフ教育に力を入れるようになりました。

以前はスタッフの意見をかなり聞き入れていましたが、何でも「いいよ、いいよ」ではよくないと気づいて。僕の芯を曲げない部分を作らないといけないし、サロンの方向性をしっかり示さないと、結局うまくいかないのかなと。

――そこで軌道修正したんですね。今、一人の美容師として大切にしていることは何ですか。

自分に嘘をつかないこと、です。もともと、誰にでも思ったことを正直に言うタイプでしたが、例の暗黒時代は自分を押さえ込んでいたような、ちょっと嘘をついていたなと思うんです。そうすると結局は自分が辛くなるというのも身に染みました。

――前田さんが辛くなると、スタッフさんたちも辛くなりそうです。

そうですよね! だから自分に嘘をついちゃいけないですね。そして、僕自身が美容師として第一線で頑張ることで、お店の価値を高めていくことも大切だと思っています。

自分に嘘をつかないために、2店舗目を出店

スタッフの人間性を重視していると言う前田さん。「素直でしっかり者の、スキルの高い美容師が集まっています」と太鼓判。

――2店舗目となる「arc+」を作った経緯を教えてください。

売り上げのあるスタッフが辞めるかもしれず、arcが一番揺れ動いていた時期に2店舗目を出す決心をしました。それも自分に嘘をつかないというところにつながってくるんですが、辞めたい人を無理に引き止めるとか、その人だけ条件を変えるとか、そういうのはすごく嫌だったんです。

そのためにはもっと人を増やして、誰かが辞めると言っても簡単には揺らがない状態にしたい。それならもう1店舗必要だという結論に至り、頑張りました(笑)。

――店が手狭になったからではなかったんですね。不安定な時期に店舗を増やしてみて、その考えは正解だったと思いますか。

正解でしたね。お店としては安定しましたし、残ってくれたスタッフの結束が強まっていくのも感じられました。

――今後の展望として、何か挑戦したいことはありますか。

歩合のよさや完全週休2日制、ノー残業、社会保険や各種手当などはお店の立ち上げ時から徹底していますが、これからも働き続けやすい環境作りはしっかり考えていきたいと思っています。それによってスタッフが増えていけば、さらに店舗数を増やすという選択肢もありますよね。3店舗目、4店舗目に挑戦する日が来るかもしれません。

――最後に、前田さんにとって「働く」ということは?

自分が自分らしくいられて、充実させてくれるもの。本当に努力して、一生懸命働くってすごくいいことなんだと感じています。そういう人はやっぱり輝いているし、魅力的に見えるのかなって。

僕は結構、泥水を飲んできた美容師人生だと思うんですけど、今となったら美容師を選んで本当によかったと感じています。こんなに楽しいと思わせてくれる仕事に出会えて、すごくよかった。

――選んでよかったと言えるのは素敵なことですね。ずっと続けたいと思います?

はい、自分ができる限りは。やっぱり挑戦することが楽しいって気づいたので。サロンワークに限らず、美容師としてできることはいろいろあると思います。例えばセミナーとか、人に教えるという仕事もあります。

だからこそ最近、自分自身も学びたい気持ちが高まっていて、カットセミナーに行く予定なんですよ。また新たな刺激をもらえそうです。

前田さん流、美容師人生を切り開く3つの秘訣

1.自分に嘘をつかない

2.決断したら、即行動

3.挑戦することで新たな刺激を得る

撮影/喜多二三雄
取材・文/井上菜々子


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住所:東京都港区南青山3-13-24 サウス青山テックビル5F
TEL:03-6447-0064

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