メイクアップアーティストには、内面のコンプレックスを前向きな気持ちに変えるパワーがあると思います。
この世に手業を生業にしているサービス業はどれぐらいあるのでしょうか?手一つで人を喜ばせたり、疲れを取ったり、美しくしたり、癒やしたり・・・。これってすごいことですよね。
このコラムは、手業を生業にしている美容からヘルスケアの業界の方々にフォーカスをしたプロフェッショナルインタビューです。その人の手が語る物語をお楽しみいただければ幸いです。
モアリジョブ編集部
私の手にしか、できないシゴト。 ティミー西村さん
――メイクアップアーティストを目指したきっかけは?
西村 私がまだ小さい頃、姉がモデルをやっていて、姉の撮影現場に行くことが何度かあったんですね。そこで出会ったヘアメイクの方を見て、これかなって思ったのがきっかけです。
――ピンとくる何かがあったんですか?
西村 子供のころから人と違う仕事をしたいなと、ぼんやり思っていて、具体的にそれがどういう仕事かイメージは出来ていませんでした。それが、ヘアメイクの方の仕上げていく過程を見て、とても興味を持ったんですね。割としつこい性格で、一つのことを何時間も集中してやるような子供だったのも影響していると思います。子供の頃は、レゴとか飽きずに半日ずっとやっているような、凝り性な性格でしたね(笑)。レゴを作り上げていくプロセスが楽しくて、それに近いものをヘアメイクから感じたのかもしれません。
――最初からヘアメイクのお仕事をされていたのですか?
西村 美容専門学校を卒業した後は、美容院に勤めました。美容師になったばかりの頃は、同僚が沢山いて、美容師として自分の技術が優れているとは思わなかったですね。
――美容師からメイクアップアーティストになっていかがでしたか?
西村 へアーは、お客様がコンサバになるというか、一度切ったら何ヶ月も戻らないので、お客様も「いつも通りに」ってなってしまいがちなのに対して、メイクアップというのは、お客様も技術を提供する側も割と遊び心が生まれるんですね。とりあえず分からないけどやってみて、似合わなければ取ればいいじゃないとメイクにチャレンジできる感じが素敵だなと・・・。すぐに、この仕事の方が向いているなと思いました。やっていて楽しかったですし、ずっと続けていける仕事だなと思いましたね。
――メイクアップアーティストになった頃の気持ちをお聞かせください。
西村 私の職場は、師匠について回る感じではなく、最初から一人で店舗を回っていました。見習い期間がなく、入社したばかりで何にも分からないのに、立場的にはいきなり『先生』と呼ばれて大変でしたね。一応、先輩はいましたけど、エスティーローダーの店舗が全国に百数十店舗あったので、少ない人数で全体をカバーしなければならず、先輩とは別々に店舗を回っていました。色々な所に一人で行って、製品も分かっていないのに先生と呼ばれて、しんどかったですね。
――メイクアップアーティストになってからの失敗談は?
西村 勉強しなければいけない職種なので、勉強すればするほど、お客様に自分の理論や技術を押しつけてしまったことですね。こちらは専門の知識や技術を身につけたプロですし、技術を受けるお客様は素人な訳ですよね。美しいとか美しくないって主観的な物での正解がないので、そこの摺り合わせをお客様としていく際に、無理にこちらの考えに引っ張りすぎてしまい、お客様にご満足いただけないことがよくありました。お客様がキレイになったとしても、ハッピーと感じられないのであれば、何も意味がないんですね。そういう失敗は数え切れないぐらいしてきました。
――西村さんにとっての成功談は?
西村 私がテレビに出始めた頃の話なのですが、沢山の視聴者がテレビを見る時間帯に、その当時は珍しかった化粧という切り口でコーナーを一つ作るのは、かなりのチャレンジでした。そこで、化粧を一つのエンターテインメントとして確立出来た事が、メイクアップに携わる方々への貢献になったのではないかなと思います。
化粧は、一般的には女性しかしませんし、子供や年齢が上がれば化粧をしなくなりますし、そうするとある程度の年齢幅の女性しか化粧に興味を持たないんですよね。でも、テレビではそうも言ってられなくて、老若男女、誰でも分かるように化粧の話をしないとチャンネルを変えられてしまうので、伝える努力が必要でした。男性にこのテーマを伝えるには何て伝えたらいいか、子供でも分かるようにするにはどうすればいいか、化粧をしない人だったら、年齢が上の人だったら・・・。誰もが楽しんでもらえるような情報を提供するにはどうすればいいんだろうと、いつも考えながらやっていましたね。その努力があったからかどうかは分かりませんが、自分のコーナーが長く続いたので、一定の成果があげられたんじゃないかと思っています。
――テレビに出るようになったきっかけを教えてください。
西村 TBSの方から声をかけてもらったと思います。声をかけていただいた時は、自分が映るとか映らないとかではなく、果たして自分が与えられたコーナー(番組の)を面白く出来るのかというプレッシャーの方が大きかったですね。
――思い出に残っているお客様はいらっしゃいますか?
西村 何年か前に、コンプレックスを長年持ったお客様をメイクさせていただく機会がありました。そのお客様は、私が当時勤めていたエスティーローダーの化粧品を見てらしたんですけど、声をかけて欲しくなさそうにしていたので、とても興味を持ったんですね。私から「メイクアップしましょうか?」と声をかけたんですけど、最初は「いいです。」と断られて・・・。よくよく話を聞いてみると、容姿に自信がなくコンプレックスをお持ちだったんですね。笑顔がない中メイクが始まったんですけど、段々と笑顔になられて、最終的には泣き出してしまったんです。そのお客様が「容姿に自信がなくて子供の頃からいじめられたり嫌な思いをしてきた」と話してくれたんですね。メイクが終わると「初めて自分を少しかわいいなって思えました。ありがとうございます。」と言っていただきました。
我々、メイクアップアーティストは、外面的な部分を整える仕事だと思われがちなんですけど、内面のコンプレックスを解消して前向きな気持ちに変えるパワーがあるんだと思うんですね。化粧をしただけでキレイになるのではなくて、自信を持って鏡を見て笑顔になれれば、メイクの力を借りなくても簡単にキレイになれると思うんです。だから、メイクはその人の自信を高めるために、ちょっとした縁の下の力持ちみたいな物だと感じています。そういった部分で、そのお客様が長年抱えていたコンプレックスを解消できた事が嬉しかったですし、今でも強く印象に残っていますね。
――今までメイクアップアーティストを辞めたいと思ったことは?
西村 辞めたいと思った事は、一度もないんですね。技術職なので、壁にぶつかったりとかはもちろんありますよ。技術だけではなく、感性も重視されるので、若いメイクアップアーティストが出てくると、自分よりも感性が優れているんじゃないかと思える人が沢山いて、年齢を重ねるに連れて、自分がこの仕事を続けていていいのかなって、疑問に思ったことはありましたけど、辞めたいとは思いませんでした。
――この職業を続けられている理由は?
西村 やっぱり、人に感謝されるからでしょうね。どの仕事でも人に感謝されていると思うんです。ただ、直接有難うと言ってもらえる職業は少ないですよね。特に、商品を買ったお客様から有難うと言われる職業は意外と少ないと思うんです。私は、お客様からの「ありがとう」に仕事をやっていて良かったと感じる事が多く、モチベーションになっていますよね。
――西村さんにとっての恩師は?
西村 エスティーローダー時代には、素晴らしい上司が沢山いました。その中でも一番お世話になったのは、ブランドマネージャをやられていた山口さんと言う方です。メイクアップアーティストって技術職なので視野が狭くなりがちで、そこを広く持たせるために、色々なアドバイスをしてくれました。それまで、メイクアップアーティストって服装がかなりカジュアルだったんですね。ブラックデニムにブラックのTシャツ着て、腰にメイク道具をぶら下げて・・・。コンサバではないんですけど、男性にもエレガントさを求められる職業なので、あまりカジュアルな服では軽く見られやすいし、良くないんじゃないかと、私がスーツを着て仕事をするようになったのも、山口さんがきっかけでした。最初は、同業からも服装について「何で?」と言われる事もありましたが、その後は一定の影響力があったんじゃないかなと思います。その他には、直属の上司で広報をやっていた鈴木さんにもお世話になりましたね。メイクアップアーティスト以外の方々のアドバイスのお陰で、今の自分があると思います。
――西村さんの将来はどうなっていると思いますか?
西村 10年後はさすがに引退しているんじゃないかな・・・。教育には少し関わっていきたいと思っていますし、学生達に教える仕事はなるべく長くやりたいなと思っています。彼らが美容の道を志したとしたら、それで成功するために技術だけではなく、心構えやお客様を幸せにする方法など、そのあたりを話していければと思います。若い子は良くも悪くも野心がありますので、結果的に成功するのは、周りの人をどれだけ幸せに出来るかということだと思っているので、それを伝えていきたいですね。
――最後に、業界やメイクアップアーティストを目指している方に一言。
西村 常に自分が、誰を幸せにしているのかを意識した方が良いと思います。この技術を学んで、どこかで発揮することにより、一体誰が幸せになるのかを考えながらやらないと、せっかく習得した技術も、意味の無いものになってしまいます。結局、人をきれいにするっていうのは、人を幸せにしたいに尽きると思うんですね。若い方々には、メイクの仕事をする際は、これで誰が幸せになるんだと考えながらしてもらえるよう、期待したいですね。
業界に対しては、一時的なトレンドを起こすために、メイクアップアーティストを消費しないでもらいたいなと思います。パーっとテレビに出てきてパーっと消えていってしまうのは、彼らが可哀想だなと・・・。
私が学生を教えていて毎回思うのが、軽く見られがちなメイクアップアーティストという職業の社会的な地位を高めていきたいということです。そのためには、「先生も頑張っているから、あなたたちもその状況に文句を言うのではなく、自分がどうやったらこの業界を変えていけるのかを常に考えて振る舞いなさい。」と伝えています。これは、業界というより業界に属している全員が意識していかなければいけない問題ですよね。トレンドを見極める目というのも重要で、これからの時代を引っ張っていく方々には是非、トレンドを見極める目も持ってもらえるように、教育という側面からサポートしていきたいと思っています。