学生の成長がモチベーションに。「先生、できたよ。」の言葉にやりがいを感じています。
この世に手業を生業にしているサービス業はどれぐらいあるのでしょうか?手一つで人を喜ばせたり、疲れを取ったり、美しくしたり、癒やしたり・・・。これってすごいことですよね。
このコラムは、手業を生業にしている美容からヘルスケアの業界の方々にフォーカスをしたプロフェッショナルインタビューです。その人の手が語る物語をお楽しみいただければ幸いです。
モアリジョブ編集部
私の手にしか、できないシゴト。 角館裕美さん
――美容の世界を目指したきっかけは?
角館 小学生の頃までは、髪の毛が腰まであるロングヘアだったんです。中学生になってはじめて親に美容室に連れて行かれ、ショートカットにしてもらいました。その時に担当してくださった男性美容師さんの仕事をする姿がとてもカッコよかったんです。その時から、今すぐにでも美容師になりたいと思うようになりました。
――中学卒業後すぐに美容専門学校に入学されたんですか?
角館 いいえ。両親の勧めでとりあえず高校に進学することになり、卒業後に専門学校に入学しました。ずっと憧れていましたから、高校時代はずっと、美容師になりたくてうずうずしていました(笑)。
――他の進路を考えることはなかったのですか?
角館 高校に通っている間も、美容師になりたいという気持ちに変化はありませんでした。早く美容師になりたくて、しょうがなかったですね。でも今考えると、なんでそこまでなりたかったんだろうかと…。やはり、美容師という存在が、自分の中でずっとカッコいいイメージだったからだと思います。
――実際に、美容師になってみていかがでしたか?
角館 美容師として将来どのようにキャリアデザインしていくのか、まだはっきりとしたイメージを持っていなかったために、ひたすら必死に働く毎日でした。一日中立ちっぱなしでいるのもはじめてだったので、最初の一週間は脚が痛くてなかなか眠ることができませんでした。美容師の仕事は確かにたいへんな面がありますが、それでも一度も辞めたいと思うことはありませんでした。幅広い年齢やタイプのお客さまと関わることができ、お話しすることも好きだったので、とても楽しい美容師生活を送っていました。
――美容師時代の失敗談はありますか?
角館 お客さまの髪の毛を切り過ぎてしまったことでしょうか…。髪の毛のクセが強いお客さまで、はじめのカウンセリングでどの程度切らせていただくかお話しはしていたのですが、クセが強いために襟足をカットしていくうちにどんどん短くなってしまって…。自分でも途中で「まずいかもしれない」と気づいてはいたのですが、そのまま手を止めてしまってはスタイルがまとまらなくなると思い、さらにカットしていたら、やはり切り過ぎてしまって…。お客さまは、何も言わずにお帰りになられたのですが、後になって、「長さがどうしても…」というご不満のお電話をいただきました。
――その後、どうされたんですか?
角館 お客さまのご自宅にうかがい、返金して、お詫びをしました。「同じような失敗をされるお客様がいないように、どうしようか迷ったけど電話したの」とお客様はお話しくださいました。この経験のおかげで、それまでは自分のスタイルをお客さまに押し付けてしまっていたことに気付くことができました。それからは、お客様へのカウンセリングの方法も変わり、髪の長さに対する感覚は一人ひとり異なるので、細かく丁寧に、ご要望を確認するようになりました。
――美容師時代の成功談を教えてください。
角館 ご家族全員からご指名をいただいたことでしょうか…。はじめに若い女性のお客様を担当させていただいていたのですが、そのお客様からまずはお母様をご紹介いただき、その後、弟さん、お父様にもご来店いただくことになり、気がついたらご家族全員を担当させていただくことになっていたんです。おそらくそのご家族と、好みが一致していたんだと思います。あの時は、とても嬉しかったです。
――思い出に残っているお客様はいらっしゃいますか?
角館 ずっとご指名いただいていたお客さまでしょうか。その方には、新卒で入店したサロンから、系列店に異動した後も、ずっとご来店いただいていました。そのお客さまに美容師にはもう戻らないとお伝えしていたのですが、サロンを辞める時にいただいたお手紙に、「もう一度美容師をやる時は連絡してほしい」と書かれてあり…。その時は、とても感動しました。
――教育の道に進んだきっかけは?
角館 専門学校を卒業してからの5年間、異動はありましたが同じサロンに勤務していました。そのサロンで同期だった友人が、現在働いている横浜fカレッジでたまたま非常勤講師をやっていたんです。その友人から、「地元に帰ることになったから、代わりに非常勤講師をやってみない?」と声をかけてもらったのがきっかけです。子供のころの夢が美容師か教員になることだったので、気づいてみればその両方が叶っていることになります。
――講師歴13年とのことですが、教員を始めたころと現在とでは、学生のタイプは違いますか?
角館 精神面や忍耐力に違いを感じています。私が教員になったばかりのころは、注意をすればそれでよかったのですが、今の学生は注意されたことに対してその原因や理由を説明してあげないと、ただ「怒られた」となってしまうんです。一度そうなってしまうとコミュニケーションがとりづらくなり、互いの信頼関係を築いていくのが難しくなってしまうので、学生を注意する際には、その理由をちゃんと伝えるようにしています。
また、以前は「美容師になりたい!」というタイプが多く入学してきたのですが、現在は美容師免許だけでなくその他の資格を取得することを目的に入学する学生もいますし、はじめからアイリストになりたくて入学してくる学生も増えてきています。アイリスト志望の学生も美容師免許の取得が必要なので、ヘアー中心の授業となると「美容師になりたいわけではないのに」と、葛藤している学生も見受けられるようになってきました。
――美容専門学校に入学してくる人もマルチになった気がしますが。
角館 美容の分野に新たな職種が生まれてきたからだ思います。だからでしょうか、今こそぜひ、女性の方々に美容師免許を取ってほしいと思っています。昨今、美容の世界も、働き方を自分で選択できる環境や、美容師免許を取得することでできる職種が増えたことで、女性が働きやすい業界となってきました。この数年で、女性が長く働き続けることができる環境が整ってきたので、今、美容業界で活躍されている女性の皆さんがとても羨ましいです。
――美容師時代、一度もやめたいと思ったことはないとのことですが、この分野で働き続けられる理由は?
角館 シンプルに好きだからです。また本校は美容以外の学科も多く、ショーやコンテストなど、学生たちが参加するイベントがたくさんあることも影響しています。私も教員の立場で学生の制作をサポートし、作品を作り上げていくのを一緒に楽しんでいます。美容師の現場からは離れていますが、イベントやコンテストでの体験を通じて、美容師の感覚が得られています。学生と一緒にクリエイティブな作業に取り組むことができ、教える立場の教員としても楽しみながら授業ができている今の環境に、とても感謝しています。
――角館さんのモチベーションは?
角館 学生の成長を感じることが、私のモチベーションとなっています。日々の授業で、何回説明しても伝わらなかったことが、自分の言葉の使い方や伝え方を変えたことで、学生たちに理解してもらえた時などは本当に嬉しいです。「こう言えば伝わるんだ」「この子にはこういう風にやってあげれば次の段階に進めるんだ」ということが分かり、学生たちの口からも「わかった」「できた」という言葉が返ってくると、とてもやりがいを感じます。
――角館さんにとっての恩師は?
角館 新卒で入社したサロン社長にはとてもお世話になりました。普段は忙しくて、お話しする機会はなかなかなかったのですが、何かに行き詰っていると、食事やお茶に誘ってくださり、相談にのってもらっていました。いつも私の将来のことを考えたアドバイスを下さって…。そのサロンとは、今でも良いお付き合いが続いていて、本校の学生を採用していただいたりもしています。卒業生がスタイリストになると、わざわざ報告の電話を下さったりして…。うれしいですね。
――最後に業界や美容師を目指している方に一言。
角館 今でも美容師に対する世間のイメージは、忙しい、たいへん、給与が少ない、すぐに辞めてしまう…。このイメージを、どうにかできないかなって、考えています。私が美容師になったころと比べると、断然働きやすい環境になったと思います。美容師免許を持っていることで、美容師以外の働く選択肢も増えました。ただ、以前と比べて環境は良くなっているはずなのに、美容の仕事を楽しめていない人が増えているように思います。今後は教育者としての立場から、若い人たちに美容の仕事を楽しんでもらえるように、いろいろとバックアップしていきたいと思っています。