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コラム・特集 2021-02-08

この腕は、何千、何万人の人たちのためにある 私の履歴書 Vol.33【Lily 田村貴博さん】#2

エステティシャン 田村貴博さんの施術スタイルは、時間オーバーは当たり前、とにかくお客様ファースト。それが、「Lily」が予約の取れない人気サロンとなった理由でもあります。「そのバイタリティはどこから?」とお聞きすると、ヴィジュアル系バンド時代の過酷な経験があるからとのこと。

後編では、独立後からお話をはじめ、お客様との向き合い方、そして美容業界への向き合い方までを語っていただきます。かつての「お茶の間でうけるバンドを」という意志は、エステの道でも活かされ、「不特定多数の人に美容を届けたい」という想いが田村さんの軸となっているようです。

独立

「口コミを書いてください」と、毎回頭を下げてお願いしていました

――独立するために、5つの学校に同時に通われたとのことですが、かなりハードな生活だったのではないでしょうか。

あっち行ってこっち行ってという感じで、ひたすら勉強していましたね。バンド時代の貯金も学費やサロン開業費用に全部をつぎ込んで。やっぱり後ろ盾が何もない人の方が強いじゃないですか。だから、一回全部チャラにしようと思って。オープン日も先に決めて、ツイッターなどで宣言していました。やると決めたからにはやる以外の選択はなかったです。

――あえて有言実行せざるを得ない状況にしたのですね。当時の田村さんは、まさに「怖いものなし」といったところでしょうか。

「失敗したらどうしよう…」という恐怖はなかったですね。長い間バンドマンをやっていると一般社会での常識がなくなるというか、どこか壊れるんですよ(笑)。スケジュールもえぐいですし、作曲するときは十何時間座りっぱなしとかザラにあるので。でも、逆にプラスにもなって、24時間働けるようになるんですよ。僕のバイタリティは無敵なんで、美容の仕事がダメだったとしてもどこでも働けるなと思っていました。日本は恵まれている国なので、選ばなければ働き口なんてたくさんあるし。

――実際にオープンして、お客様の反応はいかがでしたか?

予約は全然入らなかったです(笑)。僕、ちょっとだけ過信していたんですよ。でもそんなに甘くなかったですね。3、4ヶ月間はずっと暇でした。よく考えたら、これまでずっとバンドしかやってこなかったし、美容業界は2年目で独立仕立てと経験は浅い。さらに、男性だしタトゥーもあるし。そんなお店でマンツーマン施術をしますと言われても、僕だったら怖くて行けないなって(笑)。

――どうやって集客を工夫されたのですか?

バンドのときと同じで、どうやったらお客様に来てもらえるかをひたすら考えましたね。そして、やっぱりお客様に尽くすことが一番だと思ったんです。正直な話、美容って7割8割の力で施術をしても結果は出るんですよ。お客様が自分でできないことを僕達がやるわけですから。でも、この業界にはエステティシャンの変わりなんていくらでもいるし、7割8割の効果しかない施術がリピートされるわけがない。だって、感動しないから。

だから僕が決めたのは、全てにおいてお客様に自分を捧げること。当時は施術時間なんて関係なくて、時間オーバーは当たり前、60分のメニューでも日によって120分やることもありました。予約の間に1時間の休憩を入れていたんですけど、その時間さえも施術に使っていましたね。開店から閉店までパンパンに施術が詰まっている状態。

――そこまで手厚くしてもらえるとお客さんは嬉しいですよね。

ありがたいことにお客様のほとんどが感動してくれましたね。というか、どうしても感動してもらいたくて。あとは、そのお客様達にどうやってこの店を広めてもらうかを考えました。僕、毎回お客様に頭を下げていたんです。「口コミを書いてください! もうニートになりたくないんで!」って。やっぱりね、本気でお願いしていればお客様もきちんと口コミを書いてくれるんですよ。ただ「書いてください」と言うだけでは僕なら書かないので。

とはいえ、お客様が口コミで広められる数には限りがある。だから不特定大多数の人に広めるにはSNSが必要なんです。ツイッターの個人アカウントにお店の口コミを載せて、フォロワーをお店のアカウントに誘導し、また口コミを載せてと誘導して…、というのをひたすら繰り返して。お客様は良いことばかり書いてくれるし、ベタ褒めしてくれるので、それが拡散していくと「あの店、何かヤベェぞ!」となるわけです(笑)。

あと、バンド時代の友達に施術をすることも。お客様の接客が終わったあと、友達に3〜4時間くらい施術をして終電で帰る、という生活を送っていました。営業時間外なのでもちろん無料です。

そういう話がツイッターや口コミでブワーッと広まり、3、4ヶ月後にはもう予約が取れないサロンになりました。

――3、4ヶ月で! 早いですね!

最短ルートでやりましたからね。「1年以内に予約が取れないお店にする」というのは、実はお店を開く前から決めていたことなんです。ダメだったらこの仕事を辞めるつもりでした。計画通りにやらないと気が済まない人間なんで、僕。取材も少しずつ来るようになって、そうすると世間でも「あいつ、ガチの美容系だぞ」と認知していただけるようになりましたね。

現在

一部の高級層ではなく、何千、何万人を相手にしたい

――田村さんは施術の中で内面のケアも大切にされていますよね。

美容と健康は表裏一体なので、体と心の両方をケアして生きる力に変えていくというのがこの仕事においての僕のスタンス。だから、心理学の資格を取ったこともきちんと役に立っていて、そのおかげでお客様と同化することができるんです。

――同化、というのは?

この店に来てくださるということは、僕にとってはただのお客様ではなくなるんです。その方について自分と同じように真剣に考えないといけないと僕は思うんですよね。自分がお客様の立場だったら感動するだろうし、ついて行きたくなりますよね。

――こちらのお店ではエステに精通した顧客が多いイメージですが、実際はどんな方がいらっしゃるのでしょうか。

その逆ですね。うちはエステに来たことがないという方が多いです。または、他のエステサロンで嫌な思いをしたことがある方。

お金を出せる人にはどんどんコースを契約させたり、本人に合っていないものを押しつけたり、そういうエステの負の一面を見てきたというお客様はたくさんいました。僕はエステ業界が好きだし、エステサロンも好きだけど、正直、エステってハードルが高いですよね。何十年も前からあるのに、いつまでこんなにハードルが高い仕事をしているんだろうと思うんですよ。「エステサロンって何であんなに高級感を出してるのかな」「何で微妙に上から見下しているんだろう」「何で間食にアーモンドばかり勧めるんだろう(笑)」とか、不満に思うことがたくさんあって…。

――たしかに、「高級感」「見下している」というイメージはエステ業界の課題でもありますね。

逆にそれがチャンスだと思っています。コンプレックスを持っている人はたくさんいて、そういう人達が来やすいお店がもっとあっても良いですよね。僕が相手にしたいのは少数の高級層ではなくて、残り大多数の一般ユーザーです。バンドをやっていた頃も、マニアックな世界ではなくて一般市場で勝負したかったのですが、エステでも何千、何万人を相手にしたいという気持ちは変わりません。こういうことを言っているとエステ業界で嫌われてしまうけど、結果を出したもん勝ちなんで。

未来

事業が大きくなってもピュアでいたい

――これからの展望を教えてください。

エステサロンだけで終わるつもりはないです。エステサロンはあくまでプロセスの一つ。1年目で予約が取れないお店に、2年目で化粧品をつくる、3年目で商品のラインナップを増やして、4年目で美容本を刊行、5年目で海外進出に向けてというシナリオを最初から決めていたんです。今のところ全部予定通りにいっていますね。

もともと化粧品をつくろうと思ったのも、予約が取れないお店になったら僕のところに来られる人数が減ってしまうと分かっていたから。エステサロンの仕事だけしかやらなかったら、僕が直接手助けできる人数はほんのわずか。僕はもっと大勢の人に美容を伝えていきたいんです。

――化粧品のプロデュースにはそのような想いがあったのですね。ちなみに、田村さんはスタッフを雇わないのですか?

化粧品はさすがに単位が大きいのでチームを組んでいますが、このサロンでは誰も雇うつもりはないです。なぜなら、「Lily」を求めて来てくださるお客様にとって、僕以上に上手な人なんていないからです。サロン内でスタッフごと技術にばらつきがあるのってすごく嫌じゃないですか。だから、施術できる人数は限られるけど、割り切って一人でやると決めています。

田村さんがプロデュースした化粧品「Dear Lily」と刊行本。

――エステティシャンの技術はそれぞれが唯一無二のものですもんね。

そうなんですよ。だったらそれを生かした方が良いんじゃないかと思っていて。うちでは機械を使ってなくて、オールハンドのみなんです。機械は機械で持ち味はあるけれど、エステティシャンの個性を出すのは絶対的にハンドだから、僕はこの店ではオールハンド以外やらないし、それが武器でもあります。

これからの時代、機械がどんどん進化していきますが、一方でハンドのプレミア値は上がると思います。僕にしかできないこと=ハンドを追求して、その方の人生を背負う。これを地道にやっていくしかないです。

――自分にしかできないことをやる、ということが美容業界で生き残る術なのかもしれませんね。今後も田村さんのご活躍が楽しみです。

1回目の人生では、大好きだったヴィジュアル系バンドを自分の手で壊しました。だからこそ2回目の人生では、この美容業を嫌いにならないでいたいですね。これが僕の夢です。これからどんどん事業が大きくなるのかもしれないけど、美容への純度が100%ではなくなったらこの仕事は引くと決めているので。あくまでピュアでいたいんです。

田村さんの成功の秘訣

1.逃げ道をつくらず、やると決めたことはやる
2.感動を与える施術をする
3.純度100%で仕事をする

▽前編はこちら▽
バンドも人生も自分の力で動かしてきたんです 私の履歴書 Vol.33【Lily 田村貴博さん】#1>>

取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)

Salon Data

Lily

住所:東京都渋谷区宇田川町36-2 ノア渋谷712号室
TEL:03-4405-9773

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