技術にムラのないオールラウンダーな人材を育てるために起業を決意! pinceau代表・山岸亜由美さん#1
ゆくゆくは自分のお店やサロンを持ちたい…と考えている人も多いでしょう。実は、起業したその先、経営を継続させることの方が難しいのをご存知ですか。
中小企業庁が調べたところ、起業から5年続いた会社はなんと15%。10年後には6.3%にまで減少しています。そこで、起業から着々と業績を伸ばしているショップやサロンの代表に経営の秘訣を教わりました。
今回、前後2回にわたってご紹介するのは、麻布十番にヘアサロンを構えているpinceauの代表、山岸亜由美さん。前編では、起業を決意したきっかけやご自身のサロンが完成するまでのことを伺いました。
お話を伺ったのは…
pinceau
代表 山岸亜由美さん
美容専門学校を卒業後、都内の大手サロンに就職。7年勤務したところでお父様の看病を機に退職。その後、別の都内の大手サロンに転職し、実績が認められて店長も経験。2010年に起業し、麻布十番にpinceauを構える。サロンワークのかたわら、テレビや雑誌などの取材もこなしている。
アシスタントの頃から目標をひとつずつクリアするのが習慣に
──起業前に勤めていた2つのサロンは、どちらも勤続年数が長いですね。
どちらのサロンも技術力に定評があって、美意識の高いお客様がほとんど。勤めるからには、しっかり結果を出してトップになりたい、という気持ちがありました。負けん気が強かったのかもしれません(笑)。アシスタントの時も、自分よりひとつ先を勉強している先輩を追い抜くことを目標にしていたんです。その甲斐あって、勤めていたサロン史上最短でスタイリストデビューすることができました。
──どのくらい早かったのですか?
技術にとても厳しく、みっちり教えるサロンだったので、スタイリストになるまで4~5年かかるのが一般的なところ、2年半でクリアしました。学生の頃から達成するのが好きだったんですね。ただやみくもに努力する…というよりは比べる相手がいるとモチベーションが上がります。
──お父様の看病で退職するとき、元のサロンに戻るとか独立する選択は考えなかったのですか?
1つ目のサロンでもトップクラスの実績をつくっていたので、戻ろうと思えば戻れたと思います。ただ自分の中で、「自分の技術は他のサロンで通用するのか」試してみたい気持ちが大きかったです。腕試しをする気持ちで、2つ目のサロンに就職しました。
その当時はまだ独立について具体的なイメージはありませんでした。ただ漠然と「自分のブランドができたらいいなぁ」という想いだけですね。
──転職先のサロンでは、実績がすぐに認められましたか?
真っ新な状態で転職したので、まずは自分のお客様をつくるところから始まりました。指名のないお客様を担当して、口コミで少しずつお客様を増やしていきました。3年ほどでようやく上層部にも認めてもらえて、店長を任されるまでになりました。
カットはいいけどブローはイマイチ…技術のばらつきをなくすために起業を決意
──店長までのぼりつめたのに独立を決めたのはなぜですか?
2つ目のサロンも大手だったので、アシスタントの教育は「ブローは〇〇さん、カットは△△さん」という具合に教える項目ごとに担当者が決められていました。担当者によって技術の差や教え方の上手い下手があって、アシスタントたちがスタイリストになったとき、どうしても習得した技術にばらつきが出てしまうのです。「カットは上手いのに、仕上げのブローが下手」とか、私にはそれがどうしても許せませんでした。
そうは言っても、自分のサロンではないので勝手に教育システムを変えることはできません。それで自分の思い通りに人材を育てられるサロンをつくろう!と決意しました。
──サロンを辞めるときは、引き継ぎが大変だったのでは?
店長をしていたので、上層部には起業する2年前に「独立する」ことを伝えました。サロンのスタッフに仕事の引き継ぎをしながら、私のお客様には辞める1年前にお知らせしました。
──その当時のお客様は何人ぐらいいらっしゃったのですか?
だいたい1,000人ですね。お客様によって来店なさる周期が違うので、1年くらい余裕を見ておかないと全員にお知らせできません。お客様のご連絡先などの個人情報を持ち出すことはできませんし、会社からも止められていたので、お客様には私が辞めることを伝えて、新たに担当するスタイリストを紹介しました。でも、中には私のサロンに行きたいから連絡先を渡したい…という方もいらっしゃって(笑)。その方たちの連絡先はいただいておいて、私の店がオープンしたときにはご連絡しました。
──起業するには資金面などいろいろ大変ですよね。
自己資金だけでは足りず、両親から借金しました。それでも足りなくて、港区の助成金も利用しました。企業トップの方たちが書いた本を読みあさったり、先に起業していた友人たちに分からないことを聞いて回ったものです。
店長としてサロンの仕事をこなしながら起業の準備を進めていたので、退職から3か月後にはこのpinceauをオープンすることができました。
──pinceauという名前の由来は?
フランス語で絵筆という意味です。絵を描くように私たちが絵筆となって、お客様の色づけのお手伝いをしたい!という想いを込めました。
──サロンの場所に麻布十番を選んだのはなぜですか?
私自身がこの街のファンなんです。下町のような商店街があって、そうかと思えば一流の方に選ばれるこだわりのお店もある。古いものと新しいものが混在していて、すごく面白い街。街を歩いている方は、みなさん上品でセンスがいいですよね。ここにサロンがあれば、髪を切った後に街の散策が楽しめるのもいいと思いました。
──初めての起業で不安になることはありませんでしたか?
売上を順調に上げて、スタッフたちの給料や家賃などの経費を支払うことができるのか…これを考えると不安で仕方ありませんでした。私の中でいろいろなパターンをシミュレーションをして、最悪な状態になっても1年間は給料も経費も支払える額をプールしておきました。
不安なのはお店が開くまで。いったん開いてしまえば、店長経験がありますから、その後の不安はなかったですね。
──どこもスタッフの採用が難しいようですが、いかがでしたか?
オープン当初は私とアシスタント1名の合計2名でスタートしました。アシスタントの1人は新たに募集をかけて採用したのですが、もう一人は前のお店から…。本来ならば許されることではないのですが、どうしても私と一緒に働きたい!と懇願されて参加してもらうことになりました。
──お客様はいかがでしたか?
前のサロンで担当していたお客様の7~8割もいらしてくださったのは嬉しかったですね。ただ、お客様が集中して、予約が取りにくくなったというお叱りも受けました。当初は順調だったのですが、2011年3月11日の東日本大震災の影響はもろに受けました。予約は入っていましたがほとんどキャンセル。しばらく電車が動かなかったので、自宅からサロンへ通うのも大変でした。この震災を機に、何が起きてもすぐサロンへ行けるように、近所に引っ越しました。
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山岸さんが考える、起業に必要な3つのポイント
1.起業する目的をはっきりと描けていること
2.実績を積み上げて信頼を獲得すること
3.資金をプールしてゆとりのある経営を目指すこと
清潔感のあふれる居心地のいい雰囲気のサロン、pinceauで山岸さんが起業するまでのきっかけやいきさつなどを伺いました。後編では経営を続ける難しさや楽しさをご紹介します。