スタイリストがバリスタに!?技術売上だけに依存せず、美容業界の課題解決に挑む「MINIMAL MAAT」丸山裕太さんの挑戦

旅するように働く美容師として、カンボジアなどアジア諸国の発展途上国で美容教育のボランティアを行うなど、常にチャレンジを続けてきた丸山裕太さん。その丸山さんが、これまでにない美容室の形に挑戦し、話題を集めています。それがひとつのスペースのなかに、美容室、カフェ、セレクトショップ、アート、花など6つの業態がシームレスにつながった「MINIMAL MAAT」。丸山さんはこの形態を「スクランブルサロン」と名づけたそうです。

大きな特徴は突発的なジョブチェンジが可能なこと。美容師がコーヒーを淹れ、カフェ店員が美容室の床を掃くなど、手の空くスタッフがいなくなりお店全体の生産性が高くなるといいます。さらに物販が充実していることで技術売上に依存せず、売上アップが可能になり、うまくいけばアシスタントでもスタイリストと同じ給料をもらうことも夢ではないということです。丸山さんはこの形によって低賃金、人手不足、離職率の高さなど美容業界が慢性的に抱えてきた課題を解決しようと挑んでいます。

今回お話を伺ったのは…

丸山裕太さん


GEORGEグループ/ W / HairloungeEGO / Beaut Hair / Plants Hair /2021年9月にはOMC世界大会アバンギャルド部門で優勝し、世界チャンピオンとなり、優秀青年技能者賞を2022年受賞。
その一方で世界中を旅するように働く美容師として周り、発展途上国・カンボジアで雇用創出を目指し美容スクールを設立。現地美容教育を行い国際美容ボランティア協会代表理事としても活躍。その功績が認められ、青年版国民栄誉賞、外務大臣奨励賞、まち作り地球市民財団奨励賞など数々の賞を受賞している。2021年10月には自由が丘に美容室やカフェがシームレスにつながる今までにない複合型ショップ「MINIMAL MAAT」をオープンさせ、話題を集めている。「MINIMAL MAAT」にはデザインファーム株式会社MUUUUが企画運営として参加。

インスタグラム
@yuta_maruyama
@minimal_maat

仕切りのない空間に6業種が集まった複合型ショップで、美容業界の課題解決に挑む

「MINIMAL MAAT」のなかの美容室「W」。兄の丸山譲さんとともに共同代表を務める。カフェや、セレクトショップなどの仕切りはなく、シームレスにつながっている

――同じ空間のなかに美容室があったり、カフェがあったり、とても面白いですね。まずどのようなお店なのか、詳しく教えていただけますか。

仕切りのない空間のなかに、美容室、カフェ、雑貨・インテリアのセレクトショップ、ドライフラワーのワークショップスタジオ、本の紹介サービス、アート販売の6つの業種がシームレスにつながった複合型ショップになります。自分たちが調べた限りですが、おそらく日本初の新業態です。

――なぜこのようなお店にされたのでしょうか?

この形であれば、長時間労働、賃金の低さ、人手不足、アシスタントの手荒れ問題など、美容室が抱えるさまざまな課題を解決できるのではないかと思ったからです

まず低賃金や長時間労働の問題ですが、これは美容師が技術売上だけに依存していることが大きな要因だと思っています。技術を提供できるまでに時間がかかりますし、腰痛になったなど何らかの事情で技術提供できなくなった瞬間に、売上を立てられなくなってしまうわけです。アシスタントの場合はもっと深刻で、元々売上を立てられない立場ですから、手荒れがひどくてシャンプーができないときなどは、辞めざるを得ない状況になりかねないんです。

――確かにそうですね。

しかしこの形であれば、たとえば手荒れがおさまるまでカフェの店員をすることもできますし、お店で販売してるものの物販に携わることができて、売上もたてられるようになるわけです。アシスタントとして働いているスタッフというのはサービススキルがすごく高い子も多いので、手荒れひとつで美容室で働けないというのはすごくもったいないと思います。それを回避できるのです。

またもっと突発的にジョブローテーションをすることによって、手があいているスタッフがいなくなり、お店全体の生産性を下げないという点も大きなメリットですね。たとえばスタイリストでもお客さまがいないときにはコーヒーを淹れたり、カフェのスタッフの手が空いているときは美容室の受付から、施術後のお客さまへワインの販売をするなど、お互いをフォローしあうことができます。少ない人数でもお店の売上を落とさずにすみ、賃金アップにつながりますし、人手不足の対策にもなると思っています。また緊急事態宣言が起きて美容室が開けないという状況になっても、スタッフ全員で、カフェのメニューのテイクアウトをやって、売上を保つということもでき、リスクに強いという点も特徴です。

アシスタントが1万円ワインを売り上げる。特定の人にスーパーフィットするこだわり商品の物販が鍵

「MINIMAL MAAT」で販売されている商品の一部。環境問題に強く関心をもち、これまでも活動してきた丸山さんは、サステナブルな商品を多く扱っている

――ちなみに、一般的な美容室でもシャンプーやトリートメントの物販はありますよね?それとはどう違うんでしょうか?

この形を3カ月ほどやってみて思うのは、美容に限った商品だけを置くより、この店のように雑貨、お酒、アートなど扱っている商品の幅が広いことで商品が売りやすくなるということです。さらに万人受けする商品ではなく、生産、制作の背景にストーリーを感じさせるようなこだわりの商品を取り扱っていることにより、お客さまに刺さる確率も高くなります

実際にお酒が好きなアシスタントが、シャンプー中にお客さまとお店に置いているワインの話をしていたら、1万円のワインが売れたということがありまして。シャンプーやトリートメントを1万円分売り上げるのは大変ですが、ワインならそこまで高いわけではありませんから、ハードルが低くなります。1万円といえばスタイリストのカット・カラー料金とほぼ同じ額ですよね。この形がうまくいけば、アシスタントとスタイリストに同じ給料を払うのも夢じゃないかもしれないと思っています。

――ちなみにどうやってこの形を思いついたんですか?

インドやカンボジアによく行っていた、5年前に思いついた構想です。そういう国の美容室というのは、市場のなかにあって一、二畳くらいのスペースにあることが多くて。シャンプーをしている頭のすぐ横に隣のお店があって、ガンガン肉を切っていたりするんです(笑)。日本では衛生的にあり得ないんですけど。

でも僕がすごく素敵だなと思ったのは、その美容室の親戚の子どもが、美容室のお客さんに対してお使いを代行してくれることです。髪を切ってもらっている間に頼めば、市場で売っている食べ物や飲み物、それがビールでもOKなんですけど、デリバリーしてくれるんです。これはすごい!と思い、日本の美容室に置き換えることを思いつきました。業界の課題解決の面もあるのですが、ごちゃまぜの美容室のなかでみんなが自由に、楽しそうにしていたことが印象的で、同じような形を日本でもできないかと考えたんです。それを「スクランブルサロン」と名づけました(笑)。

業種をまたぐことが悪とされる美容業界に、「MINIMAL MAAT」で新しい風を

次々と新しいことに挑戦する丸山さん。その根本にあるのはみんなにワクワクしてもらい、その姿を見て自分もワクワクしたいという思いなんだそう

――オープンして3カ月ほど経ちますが、このお店で働かれているスタッフの方の変化を何か感じることはありますか?

アシスタントが、美容以外のことを話してもいいんだ、やってもいいんだ、という風に安心できている感じがしますね。美容業界あるあるだと思うんですけど、業種をまたぐことは悪とされてきたと思うんです。二足のわらじは難しいというような風潮で。まあ実際に難しいとも思いますが…。アシスタントはそれがとくに強くて、美容以外に好きなものがあってもお店で好きなことについて話そうものなら「そんなことをやっている暇があるなら、技術を磨きなさい」、「練習しなさい」というふうに言われる。でもこのお店だったら美容以外の好きなことに対しても発信ができるわけです。もちろん美容師なので、練習をしなくていいわけではないし、技術力アップはしてもらうのですが。

僕は常々、これからは美容師一本だけでやっていく人のほうが少なくなるんじゃないかと思っています。40、50代くらいの美容師さんでも不安に思っている人は多いと思うんです。「体きついし、目も見えにくくなってきたし、これからどうしよう」と。それが業種をまたいだお店の形であれば、別の仕事にジョブローテーションもできる。美容師の人生をトータルで考えたときの、リスクも回避できるのかなと思っています

――お客さまの反応はどうでしょうか?

最初はやっぱりびっくりされますよね(笑)。髪を切られている側を、いろんな人が行き来するので、落ち着かないというか。2回3回来店されてやっと落ち着くかな、という感じです。そうやってみなさんが慣れてきたら、髪を切りに来たお客さまが自由に歩き回ってくれればいいなと思っています。1時間も2時間もお客さまがずっと座ってなくてはいけない美容室の形を、僕は以前から「???」と思っていたんです。トイレに行くって言いづらいというお客さまも多いですよね。カラーしながら、カフェでコーヒーを飲むとか、商品を見る、みたいなことが普通になればいいなと思います。

現状だと「MINIMAL MAAT」は異空間になってしまうんですけど、ゆくゆくはそれをスタンダードにしていきたいんです。「MINIMAL MAAT」をコンビニと同じくらいの存在にしたいと思っていて。そこらじゅうにあって、何が置かれているのか、何が置かれていないのかをみんながわかる場所ですね。まずはこのお店を軌道に乗せて、同じモデルで違うコンセプトの複合施設をどんどん作っていきたいと思っています。そのためにも仕入れ・仕組み・やり方・設計も含めてオープンにし、一緒に広げてくれる仲間を増やしていきたいですね。

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丸山さんが「MINIMAL MAAT」で目指す美容室の新しい形

丸山さんが「MINIMAL MAAT」で目指す美容室の新しい形を伺うと、次の3つでした。

1.技術売上に依存せず、物販でだれでも売上をあげられる仕組み

2.突発的なジョブローテーションで手が空くスタッフがいなくなり、お店全体の生産性をあげる

3.万人受けする商品ではなく、スーパーフィットする商品展開で物販の売上をあげる

後編では、2021年に「OMC世界大会」アバンギャルド部門で世界チャンピオンに輝いた丸山さんにその経緯を伺います。前の年にも出場し、結果を残せなかった丸山さんは「もう出ない」と周りに告げていたそう。ところが審査方法の変更、仲間の後押し、さまざまなことが重なり、出場した大会で見事優勝を勝ち取りました。準備期間の2週間はサロンワークのあとに寝ないで準備をする過酷な日々だったそうですが、1%の可能性にかけて挑んだといいます。後編もお楽しみに!

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Salon Data

MINIMAL MAAT(ミニマルマート)
W (ダブル) (自由が丘ミニマルマート内美容室)

住所:東京都目黒区自由が丘1-26-7 ストークビル2F
URL: https://www.minimalmaat.jp/

求人ホームページ
https://www.georgehairjapan.com/
https://work.salonboard.com/slnH000555352/

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