弱い自分も素直に見せ信頼を構築。20年以上の付き合いの顧客が100名以上に 「Le’Salon RYiCA」タナカエミさん
大阪で創業50年の美容室「Le’Salon RYiCA」を叔母にあたる先代から引き継ぎ、現在は二代目として店長を任されている、タナカエミさん。24年の美容師人生を経て、20年以上担当している生涯顧客が100人以上いるといいます。
前編では、なぜ顧客が増え続けるようになったのかを伺いました。見えてきたのは「美容師と顧客」を超えたタナカさんとお客さまの関係性。美容の困りごとをしっかり解決する技術を提供しながら、お客さまにもたくさん助けてもらってきたというタナカさん。お店を引き継いだ当初、スタッフ4人中3人が辞めてしまうという事態に陥ったときも、なんとお客さまがスタッフを探してきてくれたといいます。また物販の売上が月80万になることもあるというタナカさんにそのコツも伺いました。
今回、お話を伺ったのは…
タナカエミさん
美容師歴24年。創業50年の美容室「Le’Salon RYiCA」を先代である叔母から引き継ぎ、二代目として、店長を任されている。リピート率は98%で、20年以上の付き合いがある顧客が100人以上と、信頼も厚い。一方ふたりの子どもを育てながら美容師を続けてきた経験を持ち、同じく子育てをしながらフリーランス美容師として活躍している「たえさん」とふたりで「たえみ」を結成。働く女性が楽しく生きるための情報発信をしている。また求人サイト「シゴトリ」と業務提携を結び、ママ美容師を採用する美容室のアンマッチを防ぐためのコンサルティングも行う。
お客さまに「美容のことは任せて!ほかはお願い」と言える、信頼関係
――20年以上の付き合いがあるお客さまが100人以上いるとのことですが、なかなかできることではありませんね。
本当にいいお客さまに恵まれていて。こちらが技術を提供するだけでなく、ほとんどのお客さまから「助けるからね」と言ってもらえる関係なんです。10年前にお店を引き継いだばかりのとき、実は4人中3人のスタッフが辞めてしまったのですが、窮地を救ってくれたのは、お客さまでした。
「お知り合いの美容師か、美容師を目指している方はいませんか?」とお客さまに声をかけたら、何人か紹介してくださって。ちなみにこのとき採用した美容学生だった男の子と、美容学生になるとも言っていなかった高校生の女の子は、9年経った今でも働いてくれています。
子どもが小さいときは子育ての相談に乗ってもらったり、おかずを届けてくれるお客さまがいたり。美容のことはお任せ!ですけど、ほかはお願いしてもいいですか、と言えるような関係性なんです。
――とてもお客さまと近い関係性ですね。どのようにすれば、そういう関係性は作れるんでしょうか。
元々、あまり自己肯定感も高くなかったので、自分の弱さを素直に見せたことがよかったのかなと思っています。そして自分が弱さを見せることでお客さまも美容の悩み、困りごとを話してもらいやすくなったかなと。過去には脱毛症になった方や、お子さんがシラミになった方などの相談を受けたことがあります。もちろん病院の受診は勧めますが、それでも治らないこともあるので、なるべく気にならないようにはどうしたらいいかを、一緒に考えるようにしていて。脱毛症の場合なら、ウィッグを作るとか、髪の切り方なども提案できます。
お客さまのライフスタイル、性格などいろいろなことを知っているからこそ、提案もできるのかなと。このようなことを通して「リーカに通っていてよかった」と言ってもらえるような関係になることができました。
――素敵ですね。ちなみに、4人中3人のスタッフが辞めてしまったのは、なぜだったのですか?
理由はちゃんと聞いていないのですが、おそらく私のあり方が良くなかったのでしょうね。先代の叔母が割と厳しく、強い人だったので、私も強くあらねばならないと思ったんです。でもそれは叔母の技術や、それぞれのスタッフとの信頼関係があるからできることだった。店を引き継いだからと、突然私が先生の真似をしても、虫のいい話だったのかなと。
強さを真似してスタッフが離れ、弱さを表現することでお客さまに救われたので、このできごとによって自分の核ができた気がします。
コミュニケーションや観察でお客さまを知り、欲しているものを提供
――新規のお客さまと信頼関係を築くために、心がけていることはどんなことでしょうか?
既存のお客さまと大きく代わりはありませんが、期待に応えることで、信頼を積み重ねるようにしています。最初はお客さまのことがわからないので直球で聞いてしまうことが多いです。たとえば指名をいただいたときは、なぜ自分を選んでくれたのかを聞いて、お客さまが何を求めるのかを想像します。「喋りやすそうだったので」と言ってくださったら、お客さまは話を聞いてほしいんだなと思うので、お話をじっくり聞くようにしていますね。
ちなみにうちのお店では、カウンセリングシートをお客さまに記入いただくことはありません。お客さまとコミュニケーションを取ることや、観察することでしか人柄を知ることはできないと思っているので。
――観察することでも、お客さまを知ることができるんですね。
はい、そう思います。なのでお客さまがいらしたときに、席にお座りいただいて少し待っていただく時間があると思うのですが、スタッフにもすぐには席にいかずに1、2分はお客さまを観察するように伝えています。たとえばお客さまが髪の毛を触っている部分があれば、そこが気になっているということなので、そこを改善するんです。
アシスタントの子にも、お客さまを常に見て、察する練習をするように伝えていますね。たとえばお客さまがキョロキョロしていたら、何かが欲しいとか、気になることがあるのだと思うので、「どうされましたか?」と聞く。欲しているものを提供できるようになれば、お客さまがかならずつくようになると思います。
物販は売る意識を捨て、必要なものを教えてさしあげる意識で
――タナカさんは、物販で月に80万円近い売上をあるとお聞きしました。なぜそのようなことが可能なのでしょうか?
売らなきゃと思っていないことが大きいかもしれないです。あくまでお客さまの必要なものを教えてさしあげる。その商品を使い、効果があれば、結果的にそれを勧めた私のファンになってくださいますし、指名や売上にもつながっていくと思うんです。
物販のメリットと売り方を教えずに、「売ってください」とスタッフに言っても、スタッフは絶対に売らないと思います。お客さまが何に困っているかを知り、それにあう商品を教える。そのことによって、お客さまとの信頼も生まれる。そういうことをきちんと伝えるようにしています。
――物販でファンになってもらう。面白い視点ですね。
私は叔母に「美容師はひとりひとりがスターでないとだめなのよ」とずっと言われてきたので、どうすれば自分が輝けるかということを考えてきました。そこで思いついたのが物販だったんです。元々地味なタイプだったので、目立ったりはできないなと思っていて。
でもお客さまが欲してることに気付くことはできると思ったんです。そして悩み解決を絶対に叶えてあげられる人になりたいと思って。そう考えているうちに「物販を売らないと」という意識ではなく、日々変わっていくお客さまの状況に対応できるよう、必要な商品をコンシェルジュのようにご案内するという意識に変わっていったんだと思います。
タナカエミさんに生涯顧客が多い3つの理由
1.自分の弱さも表現し、お客さまとの信頼関係を作った
2.コミュニケーションや観察することでお客さまを知り、欲しているものを提供した
3.物販を通して、ファンを作った
後編ではタナカさんに、人材育成について伺います。すぐスタッフが辞めてしまうサロンも多いなか、お客さまの紹介で採用した2人が9年経った現在も働いているのだとか。ポイントは対話。自分の考えを押し付けるのではなく、対話をしながらスタッフが実現したいことをヒアリングし、落としどころを見つけるようになったら、よりよい関係が築けるようになったといいます。後編もお楽しみに!