二度のサロン閉業で気づいた「仕組み化」の重要性。技術信者から経営者脳へ【幸せサロン育成コーチ げしあゆみさん】#1
経営・集客のノウハウだけでなく、オーナー自身の人生満足度までアプローチする美容サロン専門コンサルタント・げしあゆみさん。過去に3度のサロン開業をしていて、うち2回は失敗。最初、その原因は「技術力不足」にあると思い込み、資格取得やセミナー講習に励み、空回りしていた過去があるそう。
前編では、3度目の開業を軌道に乗せるまでの苦難の道のりをお聞きします。
教えてくれたのは…
幸せサロン育成コーチ げしあゆみさん
19歳でネイリストに。3サロンに勤務したのち、自宅サロンを開業するも21歳のときに閉店。22歳のときに共同経営で再び開業するもまた閉店。その後、ネイル専門雑誌の編集部で一年弱働き、24歳で3回目の開業を果たし、2店舗を展開するまでに成長。2021年にサロンをスタッフに譲渡し、美容サロンのコンサルティング活動に専念。クライアント総数は470サロン以上。
二度の開業失敗を経て、技術力と集客は比例しないことに気づいた
――自宅サロンと共同経営、2回に渡り開業が失敗に終わったとのことですが、その要員は何だったのでしょうか?
自宅サロンが失敗した一番大きな原因は単純に技術が下手だったから。経験もまだ浅かったんです。自分では上手いと思っていましたが、お客様が他サロンでつけた爪をうちでオフしたときに「上手っ…!」とびっくりして。サロンに勤めているネイリストさんってこんなに上手なんだなと、自分の天狗っぷりを思い知らされました(笑)。
サロン勤務でしか積めない経験もやっぱりあります。私は焦って独立しましたが、かえって遠回りになってしまったんです。スクールの生徒さんの中には店舗経験をせずに開業したがる人もいますが、「絶対にサロン勤務は経験しておいた方が良い」とお伝えしています。
技術力不足が原因であることは明らかだったので、上級資格を取ったり、セミナーに通ったりと技術を磨いたんです。そのあとにエステティシャンの知り合いと共同経営で池袋の好立地にお店を出しました。「技術も磨いたし、立地も最高だし、エステサロンと併設しているから今度こそ余裕でしょ!」と思っていましたが、結果、ご新規の集客が全然できなくて…。結局、10ヶ月くらいでクローズ。
――技術力もあり、好立地だったのになぜ?
何がダメなんだろう?と本当にわからなくて。技術がまだ足りていないのかと思い、セミナーや技術講習にさらに足繁く通うようになりました。
そして、「人脈がないせいだ!」と得意の思い込みで(笑)、ネイル雑誌の編集部に入ったんですよね。出版業界に行けば読者モデルの子たちと仲良くなれそうだし、人脈なんてすぐにできると思って。
――編集者として外側からネイルサロンを見れたことで、何か新しい発見はありましたか?
儲かっている=技術が上手いわけではないということ。私の中では、技術練習をして、コンテストで入賞したら繁盛するというセオリーがあったのですが、実際はコンテスト1位のサロンなのに閑古鳥が泣いていたり。逆に、無名のネイリストなのにすごい指名をもらっていたり。技術はゼロとまではいかなくとも、プロとして最低限あれば良い。それよりも接客や通いやすさなどの方が大事なんだということに気づきました。
スタイリストやカメラマンなどにも可愛がってもらい、十分人脈はできた!と思い、3度目の開業に踏み切ったわけなんですけど…。
リピート率が高いサロンは、次回来店してもらえる仕組みができている
――満を侍しての3度目の開業。いかがでしたか?
おかげさまで集客はできたんです。雑誌にも取り上げてもらいましたし、色々な方を紹介してもらえました。しかし、紹介ってご祝儀みたいなものなので、最初の一回だけなんですよね。お付き合いや応援で来てくれるけど、通っていた元のサロンにまた戻ってしまう。今度は、集客はできたけれどリピートがつかなかったんです。
実はリピートがつく仕組みがきちんとあるんですけど、それに気づくまでに1年くらいかかりました。だから、それまでの1年間はほぼ赤字。お店の家賃が払えなかったので、コンビニと吉野家でアルバイトを掛け持ちしていたんです。
当時24歳で、同い年の友達は社会人になって仕事が充実していて、ボーナスをもらって、キラキラしている子ばかり。私なんてお洋服も買えないし、コスメも100均だし、バイト先のコンビニで賞味期限切れのおにぎりをもらって帰る毎日。絵に描いたような貧乏な女の子だったんです(笑)。あの頃はほんとによく頑張っていたなと。
――まるで売れない芸人さんのような生活ですね…。「リピートがつく仕組み」に気づけた転機とは?
お客様に泣きついたんですよね。「どうしたら上手くいくと思います?」って(笑)。そうしたら「あゆみちゃんは自分の魅力が全然わかってない! あなたの素晴らしいところは接客だから、それをどんなお客様にも再現できるようにしてみたら?」と助言をくださって。辞書で「再現」の意味を調べてみたら「仕組みをつくること」とあったんです。仕組みをつくることが再現性を上げることなんだと知りました。
例えば、リピートがつくサロンは次回予約に特典をつけたり、また来てもらえるような仕掛けを施すのが上手なんです。マンパワー=技術力は高いのにリピート率が高くないサロンはその仕組みが全然できておらず、技術だけで何とかリピートを取ろうとしてしまうんです。私も技術亡者になって、色々な資格を取りまくっていました。
――リピートにおいても技術力だけでは難しいと。では、げしさんはどの部分を変えていったのですか?
カウンセリングから変えていきました。それまではただお悩みを聞く、希望の色味を聞くくらいでしたが、もっと掘り下げて、「ネイルによってどんな人生を実現したいのか」までを聞くようにしたんです。心理カウンセリングのようなスタイルに変えていったら、お客様が定着するようになったんです。
ネイリストはお客様と距離が近いんですよね。手を繋いでいるし、45センチのテーブルを挟んで2時間向き合うわけですから。「彼氏と別れて辛い」「お姑さんが腹立つ…」など、誰にも相談できないようなことを打ち明けてくださる方も多く、むしろそういうお話をするために来店してくださっていたというか。
――げしさんに聞いてもらいたくて来ていたのでしょうね。
光栄ですよね。「自信がない状態でサロンに来ても、自信100%になって帰れる」と言ってくださった方もいました。それで、私は人に自信を与えられるネイリストになろうと思うようになったんです。
――スタッフさんを雇いはじめたのはいつ頃ですか?
3店舗目の開業2年目のときです。当時、講師をしていたスクールの生徒さんから一人雇ったのですが、育て方が全然わからなくて。その子は技術も上手いし、人当たりもすごく良いのになぜか全然売れず。美容業界あるあるですけど(笑)、「私と同じようにやれば良いのよ。背中を見て覚えなさい!」と言っても、その子は私が感覚でやっていることを全然理解できなかったみたいで。
結局、自信をなくして辞めちゃったんですけど、当時の私は素材の問題だと思っちゃったんです。だから、次に入ってくれたスタッフにも同じ育て方をするんですけど、やはり全然育たなくて。ようやく自分に原因があると気づきました。
2度の開業失敗。その後、経営・集客のコツを会得して挑んだ3度目の開業。売上・集客が軌道にのりはじめた矢先、次なる試練はスタッフ育成。スタッフのいっせい退職を受け、その後どんなサロンオーナーへと変わったのか、後編でお聞きします。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄