クリエイションとビジネスを両立できる美容師を育てる!【ALICe by afloat 代表 ムッシュ豊田さん】#2
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ成功している先輩オーナーの経験談を全2回でお届けする本企画。
前編に続き、AFLOATからフランチャイズ独立したALICe by afloatの代表 ムッシュ豊田さんにインタビュー。前編ではフランチャイズで独立した理由と、そのメリット・デメリットについてお聞きしました。
後編では、独立から10年となる現在の視点から、独立を目指す人へのアドバイスをお聞きします。
お話をうかがったのは…
ALICe by afloat 代表 ムッシュ豊田さん
「アフロートf」で歴代最短でトップスタイリストに昇進し3年連続売上1位。ディレクターを経て2011年フランチャイズにて自由が丘にアリスバイアフロートを設立。『女性を必ず綺麗にする』をテーマに美容室を運営し、現在は計6店舗を経営。オリジナルヘアーコスメ「Lila’efu」の運営の他、雑誌撮影TV出演多数。クアンクヘアを日本ではじめて考案。
Instagram:@monsieurtoyoda
ブルーオーシャンを見つけながら店舗展開を続けた10年
――前編でフランチャイズとなる「by afloat」とは別ブランドの展開についてお聞きしました。逆にフランチャイズ店舗の展開について戦略は?
店舗展開の仕方には2通りあります。1つめは、今いる店舗が満杯になり次の店舗を作るというもの。もうひとつが他のサロンがまだしていないことや場所を開拓する…、「ブルーオーシャン」を見つけていくことです。僕の場合は、後者を重視しています。
自由が丘にALICe by afloatをオープンした後、2015年にMaria by afloat、2016年にciel by afloatを開きました。最初に自由が丘にサロンを出したのも、ブルーオーシャンだったからです。
当時からAFLOATは、美容師がモデルさんを呼んで一眼レフでスタイル撮影し、それをホットペッパーに掲載して集客する「フォトシューティング」に特化していました。でもそのころの自由が丘には、そこに注力しているサロンはありませんでした。
自由が丘のある東横線には、フォトシューティングのターゲットとなる女性がたくさんいます。そこに注目したんです。
――2017年にLila by afloatを吉祥寺にオープンしたのも?
そうですね。吉祥寺にはカジュアルでクリエイティブ感の強いサロンが多く、うちが得意とするフェミニン系のサロンが少なかったので出しました。
また今年3月にオープンしたメンズサロンREVESもブルーオーシャン。自由が丘にはメンズサロンが少ないんです。またREVESのコンセプトは、おしゃれなサラリーマン。今増えているパキッとかっこいいイメージのメンズサロンとは違うテイストを押し出しています。
そういったブルーオーシャンを見極めるのも、経営面を考える上では大切だと思っています。
――ブルーオーシャンを見つける方法は?
その街ごとのテイストというのはネットを見ていれば何となくわかると思います。とくに今ならホットペッパーでその地域のサロンを見れば、どんなスタイルをしているのかパッとわかる。そこからヒントを得られれば、穴は見つけられると思います。
どこに出店するのかは、独立においても重要です。そのためのリサーチは必要だと思います。
独立のためにはイズムを持ち、経営のための勉強をすること
――独立・開業するために大切なこと3か条を教えてください。
1.資金調達 2.スタッフ採用 3.イズムを持つこと
この3つがどれかひとつでも欠けるとおかしいし、続けていくことが難しいと思います。なかでも「イズムを持つこと」、自分が何をしたいのかはとても重要です。根本的に何がしたいのかわからないサロンはたくさんありますが、そういうサロンは2~3年でつぶれてしまう。それは着地点がサロンを開くことになっていて、そこで終わっているからだと思います。その先までビジョンがないといけない。
美容業界って、最後は独立しないといけないという風潮があります。でも今の美容業界で10年続くサロンは、おおよそ2%を切っている現状がある。そうならないためには最終的な夢として独立を考えるのではなく、独立する前にしなければいけない勉強というのがたくさんあるんです。そこを「まぁできるだろう」と思ってしまうと大体失敗してしまいます。
――独立する前にしておくといいこととは?
多くの美容師は10年経験を積んで独立する場合、その10年間は美容の勉強しかしていません。でもサロンをするとなると、それだけではダメなんです。クリエイターとしてだけでなく、ビジネス的なセンスも必要になる。
例えば材料費は何%か、家賃は売上の何%かなどを知っているか、自分が書いた事業計画書をきちんと理解できているか。それらを理解するためには、いろんなことを学ばなければいけません。
僕の場合は、いろんな本を読みました。独立を決めてからは仕事と並行して、経営の本をたくさん読んだり、簿記や不動産も勉強しましたね。
独立をしようと思っても、何をしていいかわからないじゃないですか。わからないと不安になってしまうけど、わかってくると不安が少しずつ消えていくんです。だからたくさん学ぶことが大切だと思います。
クリエイションとビジネスを両立し、生活できる美容師を育てる
――豊田さんが経営者として大切にしていることは何ですか?
一番大切にしているのは、社員の給料を増やすことです。
美容師はクリエイターですけど、それだけでは経営はできない。でもビジネスに走ってしまうと、今の子たちはデザインをやめてしまいます。
だからクリエイションとビジネスの両輪できちんとやっていくことを常に意識し、その結果として社員の給料をどう増やしてあげられるかというのが僕の中の課題です。
クリエイションとビジネスの両立というのは、スタッフにも常々伝えていることでもあります。
――先ほど伺った独立前にしておくといいことにもつながりますね。具体的にどんなことを伝えていますか?
とくに施術にかける時間については常に伝えています。決めているのは、10分1000円を意識すること。早いだけでクリエイティブが疎かになってもいけないし、時間をかけて好きなものを作ってもいけない。だから10分でやりたいことをやってみる、でも1000円という目安は守ろう…と伝えています。
――独立のきっかけも人を育てるという面でしたが、今でも変わりませんか?
そうですね。地域に根付いて、ちゃんと生活ができる美容師を育てるのが、僕の役割だと思っています。
だから今はまだ自分の独立が成功したかはわかりません。僕のところで1から始めた子が、20年30年働き続けて、家庭を持って子どもを育てて…。そんな美容師が育ってくれたかどうかが、一番重要なんだと思います。
独立を目指すあなたへ
独立を考えるときって、なぜか自分ひとりで大きくなったような気になって、感謝を忘れがちだなと思います。長年働いたのに、ある日いきなりケンカみたいになって独立したり…。でも美容師って、お客様だけでなく自分を育ててくれた師匠や先輩たちとの絆で成り立っている職業でもあると思うんです。人と人とのつながり、関係性を大切にするには、フランチャイズもひとつの方法。教えの恩義を忘れずに、絆を大切にした独立はメリットも大きいと思いますよ。
取材・文:山本二季
撮影:米玉利朋子(G.P.FLAG)