歴代チャンピオンの作品を徹底研究!中卒・無職から全日本チャンピオンへ「WIZ GEL」代表・前原さとみさん
高校入学後わずか3か月で中退し、16歳でネイルスクールへ通うようになったという前原さとみさん。さまざまなコンテストでチャンピオンを獲得した経験があり、オリジナルのジェル「WIZ GEL(ウィズジェル)」をプロデュースするなど、ネイル業界で20年以上活躍しているトップネイリストです。
前編では、チャンピオンになるために日々実践してきたことを伺いました。言語化が難しい審査基準をクリアするため、歴代チャンピオンの写真を資料に、コンテストで認められる技術を分析していたという前原さん。サロンでの施術も技術向上のための学びの時間ととらえて取り組んだといいます。
お話を伺ったのは…
前原さとみさん
(株)WIZ GEL 代表。16歳でネイリストの道を志し、ネイルスクールへ入学。都内のネイルサロンで7年間勤務したのち、ネイル講師として独立。これまでに300名以上のネイリストを育成・輩出しているほか、2010全日本ネイリスト選手権プロ部門 総合2位、2011年IBSラスベガス NAIL PROフレンチスカルプチュアチャンピオンなどさまざまなコンテストにおいて入賞歴あり。2022年からは自身がプロデュースするジェルネイル「WIZ GEL(ウィズジェル)」を販売している。
ホームページ:WIZ GEL
Instagram:@satomin.1225
Twitter:@satominnail1225
数値で成績が表されると、闘争心が駆り立てられる
――まずは、ネイリストを志したきっかけを教えてください。
高校に進学したはいいものの、やりたいこともないのにそのまま大学へ進んで…という未来が無意味に感じられてしまって、高校を3ヶ月で中退したんです。その後、しばらく引きこもりの無職だったのですが、この時期にネイルチップ作りにはまって。そんな私の姿を見た母が「ネイルを本格的に勉強してみたら」と声をかけてくれて、16歳でネイルスクールに入りました。
手先が器用だったわけではないんですが、絵を描くことは好きで、子どもの頃は漫画家になりたかったんです(笑)。初めからネイリストを目指していたわけではありませんが、趣味の延長でなんとなく始めたのがきっかけです。
――16歳でネイルスクールに入るのは異例ですね。それからどんどん技術を身に着けてコンテストに出場されるわけですが、その経緯について教えてください。
ネイリストとして就職した2つ目の企業がコンテスト出場に積極的だったことがきっかけでした。実際に出場してみたら、サロンワークでお客さまと日々接する楽しさとは違った刺激があり、コンテストに出場し、競い合いながら切磋琢磨するという環境は自分に向いていると思いました。数字で成績がわかりやすく可視化されると闘争心に火が付くというか(笑)。
――なるほど、順位が付けられることで燃えるんですね。でも、サロンで働きながらトップを目指すのは並大抵のことではなかったと思うのですが。
役職を与えてくれたり、みんなが集まる場所で名前を出して褒めてくれるなど、自分ががんばったことをきちんと評価してくれる企業だったこともあって、目標に向かってがんばることはまったく苦ではなかったです。当時は商業施設内のサロンで働いていたのですが、営業中はお客さまの施術をして、閉店してから施設を出なければならない夜10時までサロンで練習、帰宅してからも深夜まで練習して…という生活を送っていました。
営業中も常にコンテストのことを考えていて、お客さまを目の前にしながら「この施術は次のコンテストではこんな部分で役に立つから、今回はここを工夫してやってみようかな」というように、自分の技術の上達につながるように意識しながら施術をしていたので、上達のスピードも速かったと思います。
過去のチャンピオンの作品を見ながらひたすら練習!
――その頃は、寝ても覚めてもコンテストのことを考えていたんですね。技術力を上げるために、先輩や同僚にアドバイスを求めるなど何か工夫されていたことはありますか?
私の場合は誰かに手取り足取り教えてもらうことはなくて、自分の世界に入り込んで練習に没頭していたという感じでしょうか。というのも、私が出場していたのはアート部門ではなく、「フレンチネイル」や「ケア」など基礎の技術を競う部門だったんです。ネイルコンテストにおける入賞基準を言語化するのはとても難しく、その年の審査員の先生によっても変わってきます。
例えば、フレンチネイルだったら白い部分の幅や角度だったり、本当に微妙な違いだったり。そのため、ネイルモデルさんと一緒に自分の施術したネイルと歴代のチャンピオンの方の写真を見比べながら、今の自分に足りない技術はなんだろうと分析をしていました。
審査中、選手は会場から離れなくてはいけないのですが、モデルさんが、審査員の先生がどんな角度からネイルをチェックしていたかや、「○番の選手の方は時間をかけて審査していたから上位になるだろう」と、いろんな情報を覚えて教えてくださるんですね。コンテスト終了後には、その選手の方の作品を写真に撮らせていただいて、さらに分析材料にしていました。
アドバイスに耳を傾けつつも、バランスよく取捨選択
――言語化できないからこそ、自分で探求しなければならないんですね。では、あまり他人にアドバイスを求めることはないんでしょうか。
いえいえ、初めのうちは先生に指導していただいて、教わったとおりにやっていました。少しずつ上達して技術が身についた段階で、アドバイスいただいたことを一通り取り入れてみた上で、その方法が自分に合うかどうかを取捨選択するようになりました。
いま、私自身も講師として教えていますが、他人の意見に耳を傾け、受け入れる素直さも大切な一方で、自分に合わないやり方をそのまま取り入れて続けていると、むしろ技術が落ちてしまうこともあると思います。
――コンテストでチャンピオンを獲得すること、ネイリストとして技術を高めることの難しさを改めて感じます。
そうですね。繰り返しになりますが、ネイルの技術は数値や言語で表せないものが本当に多いんですね。強いて言えば、数値で表せるのは爪の長さくらいではないでしょうか(笑)。単にネイリストとして経験を積みながら技術を上げていくだけでなく、コンテストで認められる技術を感覚的に探るのは本当に大変でしたし、講師として生徒さんたちに伝える上でも難しさを感じている部分でもあります。
――生徒さんたちに教えるときに意識されていることはありますか?
言語で表現できる部分は可能な限り言葉で伝えますが、それができない部分については、「こっちの写真は揃っているけれど、こっちはここが揃っていない」というように、現物や資料を見てもらいながら解説しています。ネイルの技術は感覚的に掴んでいく部分も大きいので、わかりやすく伝えるのは本当に難しく、私自身にとっても勉強になります。
前原さとみさんがネイルチャンピオンを獲得した3つのポイント
前原さとみさんがコンテストでチャンピオンを獲得したポイントを伺うと、以下の3つでした。
1.歴代チャンピオンの写真を資料に、コンテストで認められる技術を分析していた
2.サロンでの施術も技術向上のための学びの時間ととらえて取り組んだ
3.周囲からのアドバイスは、自分に合うものだけを選んで取り入れる
現在は講師とオリジナル商品プロデュースに力を入れている前原さん。後編ではどのようにして、活躍の場を広げたのかを伺います。ポイントは、自分がそのときやりたいことを求めて活動の拠点を移すフットワークの軽さと、今求められているものをキャッチし、それにあわせる行動力でした。後編もお楽しみに!