地域密着型と個性派アート。2軸のブランド戦略でネイル業界注目の快進撃!【NAILsGUSH・NAIL MAFIA オーナーネイリスト/木下さとこさん】#1
本企画のゲストはネイリストの木下さとこさん。2015年の独立以降、順調に店舗数を増やし続け、現在では東京・神奈川に10店舗を数えます。
木下さんが展開するのは、地域密着型サロン「NAILsGUSH」と、個性派アートネイルに特化した「NAIL MAFIA」の2ブランド。ネイルサロンが飽和状態の現在の首都圏で、2つのブランドを成長させる彼女の経営手腕は、業界でも注目の的となっています。
今回は、その理論武装されたマーケティング戦略と人材マネジメント術をじっくりインタビュー。前編では、彼女がネイリストを目指したまさかの理由から、独立にいたるまでのストーリーを中心にお聞きしました。
お話を伺ったのは…
NAILsGUSH・NAIL MAFIA オーナー 木下さとこさん
ネイルサロン4社を経て、2015年株式会社CSGを設立。地域密着型サロン「NAILsGUSH」と、個性派アートに特化した「NAIL MAFIA」を展開中。セミナー講師やオリジナルジェル「極ジェル」プロデュースなど、活躍の場を広げている。2歳・4歳の育児にも奮闘するママ経営者。
木下さとこさんのInstagram:@nailsgush_nailmafia_kino
ヤマンバギャル→引きこもりニート!波瀾万丈の20代前半
――木下さんがネイリストを志したきっかけを教えてください。
実は私、10代の頃はバリバリのヤマンバギャルだったんですよ。ギャル雑誌「egg」にも載ったりする本気のやつです。
高校卒業後の進路にネイルスクールを選んだのも、単に勉強が嫌いだったから。授業は週1だけと聞いて「コレだ!」と。それに、毎週1時間半かけて渋谷に繰り出していたので、上京すれば毎日渋谷で遊べるじゃん!と思って。
親からは、そんな流行りものの仕事ではなく大学へ行けと諭されましたが「ネイリストがダメなら、No.1キャバ嬢を目指す」と半ば脅しのように宣言したところ、入学の許しを得ることができました(笑)。
――(笑)。冒頭から予想外の展開です。
ネイリストへの夢にあふれた話じゃなくてごめんなさいね(笑)。
スクール卒業後はネイルサロンで働き始めましたが、当時(2008年頃)のネイル業界は、まだまだ発展途上の世界でした。薄給で長時間労働、意味の無い上下関係。企業側だけでなく、働いている側にも「美容業界ってそういうもんだよね」という半ば諦めのような意識がまん延していました。
そして20歳の頃に店長に抜擢されたものの、頑張りすぎてしまったのか体調を崩してしまい、引きこもりニート生活に突入します。
――突然の引きこもり!どういった心境の変化があったのでしょうか?
いろいろとインプットすることに疲れてしまったんでしょうね。スイッチが突然オフになったような感覚です。
友人関係はすべて断ち切り、外食はおろか美容院にすら行かず、外出は愛犬の散歩のみ。アニメや漫画を観てはネット掲示板に批評を書き込む、デジタルイラストを描いてSNSに投稿する、などをして毎日を過ごし、実存社会と断絶された3年間を過ごしました。こう言うと暗ーく聞こえてしまいますが、個人的には毎日好きなことをやって楽しく過ごしていたんですけどね(笑)。
とはいえ、一時帰省していた兄に叱られたことや、貯金が底をついたこと、シンプルに恋愛したいと思ったことで、ニート生活に終止符を打ちました。
出店場所のチョイスは、顧客との精神的距離の近さがキーポイント
――再びネイリストとして社会復帰されたのですか?
そうです。大企業が運営するチェーン展開のネイルサロンに再就職し、やりがいのある仕事をたくさん任せて頂きました。
しかし、ネイリストになって最初に感じた「美容業界だから仕方ない」という諦めの意識は、ここでも変わらず存在していて。私が3年も引きこもっていたのに、ネイル業界の根本は1つも変化していないのか…と驚いたことを覚えています。
――独立を決意したきっかけは?
それまで形態の違う4社を経験してきて、どのサロンも継続的経営たり得ない問題を抱えていました。「美容業界だから仕方ない」って本当にそうなのかな?と考えるようになり、いつからか「たくさんの人が生き生きと働ける持続可能な会社を、美容業界で生み出したい!」という欲求に変わっていきました。
独立するなら失敗しても立て直せる20代のうちにと考え、すぐ行動に移しました。すでに退職していた前職の同僚を数人誘ったところ、みんな二つ返事で話に乗ってくれて、あっという間に優秀な人材が集まりました。こうして2015年の年明け、私が28歳の頃、NAILsGUSH1号店が蒲田にオープンしたんです。
――初出店の場所に蒲田を選んだ理由は?
商売をするならハイソなエリアや都心部の方が良いのでは?と考える人は多くいると思います。しかし、実は日本の本当の富裕層は、無駄なことにお金は使わない方が多いんです。高額なネイルアートというのは、美容の中でも「余計なもの」の最たるものですよね。結果、土地の値段が高い住宅地ほど客単価が下がるのです。
その点、都心部へのアクセスはもちろん、飛行機・新幹線を利用するにも利便性の高い蒲田は、都心勤めのキャリアウーマンや自営業の女性が多く住んでいます。働く女性や忙しい旦那さんをパートナーに持つ方は、身だしなみに対してしっかり投資する傾向があるので、初出店で手堅くいくには最適な土地だという狙いがありました。
――現在7店舗を展開するNAILsGUSHですが、コンセプトなどを教えてください。
NAILsGUSHのコンセプトは、”感動を得られるサードプレイス”です。サードプレイスとは、家庭・職場、その次に大切な場所のこと。蒲田のほかに大森、川崎、溝の口など、その土地に愛の深い人々が住んでいるエリアを選んで出店しています。
――出店されるエリアに意外性を感じます。
都心部と地元密着エリアの両方で働いた過去の経験から、サロンの所在地によってお客様とネイリストの会話に違いがあることに気が付いたのです。
都心部はそこでしか手に入らない商品や体験、都会にしか無い仕事を求めて人が集まります。つまり、ネイルサロンにもエンタメ性や意外性・驚きが求められるのです。一方で地元密着エリアのサロンを訪れるお客様にとって、サロンは自宅の延長線上にある。お客様は安心して身を任せられる技術、自分を深く理解してくれるような接客を求めます。
顧客が飾らず気取らず過ごせる場所は「顧客と信頼関係が構築しやすい=高いリピート率を維持しやすい」と考えています。
地域密着型とエンタメ感溢れる個性派店舗の2ブランドを両立
――今年に入って、渋谷・原宿に相次いで出店した新ブランド「NAIL MAFIA」についても教えてください。
NAILsGUSHの1号店オープンから5年が経過し、お客様とスタッフの年齢層も上がってきました。テコ入れも兼ねて、若い世代に向けて何か新しいことを始めたいとは前々から考えていたんです。そんな折、コロナ禍で商業エリアのテナント料が下がり、以前より維持費が安く上がるようになった今が新ブランドを展開するチャンスだなと。
NAILsGUSHは年齢層が非常に幅広く「お客様の理想以上をデザインする」ことがコンセプト。NAIL MAFIAは、原宿竹下通りや渋谷神南エリアと感度の高いお客様が多いエリアなので、「お客様の個性をアートする」をテーマにしたサロンです。
――デザインのアクが強いです…!
もともと私自身が、ギャル時代も土6(毎週土曜18時のアニメ放映枠)のガンダムを観てから渋谷に繰り出すようなガチのアニメオタクで(笑)。先日は、痛ネイル用に、発色に優れた繊細なラインが引けるオリジナルジェル「極ジェル」のプロデュースも手がけました。
――対極にあるコンセプトの2ブランドを両立させているのはさすがですね。
市場をしっかり分析し、マーケティング戦略を練れば難しいことではありません。お客様が何を求めてネイルサロンに来るのかを明確にイメージすれば、やるべきことは見えてくるはず。
NAILsGUSHの目標は「地域NO.1サロン」。お客様と長いお付き合いできる関係がゴールですから、デザインだけでなく、ネイリストとの会話に癒しや楽しさを感じてもらえる空間づくりが必要ですね。
逆に、若い子たちが特別な体験を求めてやって来る渋谷・原宿に、日常を感じさせる要素は不要。ネイルサロンに来ること自体をスペシャルなイベントとして捉えてもらえるよう、NAIL MAFIAではエンターテイメント性を重視しています。定額制のデザインは置かず、お客様と一緒にオリジナルの個性をつくっていけるような、感度の高いスタッフを配置しています。
「勉強が大嫌いだからネイリストになった」と明るく笑う木下さん。けれど、そんな言葉が信じられないくらい、彼女の経営術は確かな学びと実践の積み重ねによるもの。これまでの多大な努力と天賦の経営センスが感じられました。
後編では、流動の激しいネイル業界では驚きのスタッフ定着率と、それを実現させている木下さん独自の人材育成法について伺います。
取材・文/黒木絵美
撮影/喜多二三雄