「食育」は、クリエイティブワークの一環!:UMiTOS代表 砂原由弥さん 【美と食】#2
カラダは「食」でできていくもの。正しく賢く食べて本物の”キレイ”を手に入れる
あまりにも当たり前のことすぎて、ついおろそかになりがちな「食」のこと。でも、私たちのカラダは「食べたもの」でできています。そう、「何を、どう食べるか」でその人の美しさ、価値が決まるのです。
「食」を大切にすることは究極の自己プロデュース #2
ビジネスも大事だけれど、まずはスタッフたちにきちんと食べさせたい。それは、砂原さんが「食」の力を信じているから。充実した食事は感性を育み、クリエイションの源となるのです。
目で見て舌で味わい食感を楽しむことが大事
「海と砂原美容室」がスタートしたその3年後、砂原さんはヘアメイクの拠点として東京・青山に「UMiTOS」をオープン。いずれのサロンでも、スタッフ全員に「まかないランチ」を提供している。「カラダは食事でできているので、食材は安心安全なもの。自然がゆたかな南房総では地産地消が可能なので、採れたての食材を使って地元の人たちが昔から食べてきた、郷土食っぽいメニューが中心です。素朴ながら、食材そのものの味や香りを存分に味わうことができるんですよ。ああ、自分はこの食べ物たちに生かされているんだと、しみじみ感じます。
一方、青山では地元の食材を手に入れることはむずかしいので、品質のたしかなものを宅配で取り寄せています。特徴は、お皿ごと、まるでアートのようにビジュアル的に美しいこと。もちろん、味もいいですよ。でも、まずは視覚に訴えてくる。私も青山でのランチのたびに『わあ、美しい!』ってココロを動かされるのですが、実はこれがとても大事だと思っているんです」 料理の滋味や栄養をカラダの中に取り込むことで、カラダとココロが整っていく。さらに、料理を「目で味わう」ことでセンスや美意識が育まれる。
スタッフの多くは南房総と青山を行き来しているので、まかないランチを通して健やかなカラダとココロ、そして高い美意識を育むことが砂原さんの狙いだ。「美容師というのはお客様により美しく、魅力的になっていただくお手伝いをするのが仕事。その美容師自身の肌がボロボロで顔色が悪かったら、意味がありませんよね。機嫌が悪い、態度が悪いのも論外。ですから、まずは美容師自身、カラダもココロも健やかでないといけないと思うのです。さらに、美容師はお客様のためにアウトプットしていなくてはいけない仕事なので、つねにインプットが必要です。それも良質なインプットが」。砂原さんが「食」にこだわり、スタッフの「食育」に力を注ぐ理由は、そこにある。
「UMiTOS」の、ある日のランチ。彩り豊か=栄養バランスがいい食事。盛り付けにもこだわっている。ちなみに「海と砂原美容室」では、「採れたてのアワビやサザエがおやつに出てくることもあるんです」とスタッフ。なんと、うらやましい!
スタッフ総出で田植えと稲刈り!
砂原さんの食育は「まかないランチ」にとどまらない。南房総のサロン近くにある自らの土地、「UMiTOS Forest(ウミトスフォレスト)」の田んぼでお米を作っていて、その田植えと稲刈りをスタッフが行っている。
「米作りって、田植えと稲刈り以外の時期のほうが長くて作業も大変なのですが、さすがにそれはできないので地元の農家の方にお願いしています。でも、年に2回、皆で田んぼに出向いています。土を触ったり土の中に足を埋めたりと、ふだんとは違う体験をし、違う感覚を味わうことによって脳が刺激され、意識の奥のスイッチが入るのでしょう。皆、テンションが上がって、子どものようにはしゃいでいます。そしてそのうち、どんどんアイデアがあふれてくる。稲がヘアスタイルのように見えてきて、そこからデザインのヒントを得たり、田んぼに陽の光が当たってキラキラ光るさまから、メイクのアイデアが浮かんだり。私が考えていた以上に、スタッフは田んぼからさまざまなインスピレーションを得ているようです」。
料理を食べるだけでなく「食べるものをゼロから作るという体験も、とても貴重」と砂原さん。「美容師に必要なのは、ゼロからクリエイトする力。誰かのマネをしたり流行のデザインを追いかけているだけでは、人のココロを動かす仕事はできない、と私は思うんです」。 何もないところから、何かを生み出す。そのよろこびを、田植えや稲刈りというイベントを通して実感しているわけだ。
春、田植えの時の様子。「カラフルな衣装?」で農作業、でも足元はしっかり長靴!
農作業が終わったら、UMiTOSforest それぞれ思い思いに過ごす。カラダとココロをリフレッシュする、貴重なひととき。
美容にとどまらず人として豊かになること
スタッフの食育は、「確実に成果が出ていると思う」と言う砂原さん。「UMiTOSはオープンしてまだ4年ですが、スタイリストたちはつねにいくつもの雑誌からお仕事のオファーをいただいていますし、スタイリスト自身を取り上げていただく機会も少なくありません。手前味噌ですが、東京の青山という土地にありながら4年でこの状況というのは、やはりスタッフが確実に育っているのだということ。それはやはり食育、もっと言えば食を通した『美育』の成果ではないか、と思っています」。
ヘアスタイリングやヘアメイクのセンスや技術だけではなく、その成果はサロンのあちこちに見て取れる。たとえば、「UMiTOS」の接客マナーは「血が通っている」ことで定評がある。顧客ひとりひとりに、また同じ相手に対してもその日の相手の様子に合わせて、スタッフの声のかけ方や距離のとり方が違う。当たり前のことのようだが、それが実際にできているサロンは多くない。また、インテリアや鏡の前に飾られているちょっとした小物も、実はスタッフの手によるものだったりする。
「スタッフの美容技術が向上していくのを見るのは、大きなよろこびです。でも、彼らがひとりの人間として豊かに育っていく姿を見ることが、実は何よりもうれしいんです。『同じ釜の飯』を食べているせいか、スタッフ同士の仲もよくて、はつらつと仕事をしています。また、お客様にはよく『みんな、肌の色つやがいいわね』とほめていただくんですよ。それもこれも『食』の力のおかげではないかと、感じています」。
サロン内のそこかしこに、スタッフ手作りのオブジェが。お互い、思わぬ才能や特技を持っていることを知り、それがまた刺激になっている。
取材・文/鈴木裕子 撮影/中川良輔
Profile
砂原由弥さん
東京・青山「UMiTOS」代表
日本美容専門学校卒業後、都内2店舗を経て、出産を機に2008 年、「海と砂原美容室」を千葉・南房総にてオープン。さらに2011 年、東京・表参道に「UMiTOS」をオープン。サロンワークに加え、ヘアメイクアップアーティストとしてファッション誌、テレビCM、企業広告、映画の撮影など、幅広く活躍している。
2014 年、カンヌ国際映画祭に参加。また、内閣府認定メンタルケアカウンセラー、認定福祉美容介護師の資格も持つ。著書に『はじめてのおうちカット』(アノニマスタジオ)、『一刻も早くツマラナイゲンジツから脱出スル方法』(共著、コワフュール・ド・パリ・ジャポン)がある。
UMiTOS/http://www.umitos.com/
海と砂原美容室/http://www.umisuna.com
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