きれいになった高齢者を撮るべく写真家に師事。「高齢者と美容を写真でつなげる」会社を起業 山田真由美さん♯2

16年間、介護職に従事しながら43才で美容師免許を取得した山田真由美さん。山田さんは、勤務先の高齢者施設で「美容プロジェクト」を立ち上げ、メイクやエステなどの美容メニューを提供するサービスを始動させました。前編では、美容師免許を取得するまでのご苦労と、美容師免許を取得したことで利用者さんの信頼度が上がり、益々プロジェクトが充実していったお話を伺いました。

この後編では、「高齢者と美容を写真でつなげる」(株)ソーシャルビューティフォトの立ち上げについて教えていただきます。山田さんは、美容で若々しく元気になっていく高齢者を撮影するために、持ち前の行動力で、アートディレクター兼フォトグラファーの西本和民さんに師事し、本格的に写真を学ぶことになります。

お話をお伺いしたのは
(株)ソーシャルビューティーフォト
代表 山田真由美さん


高齢者施設で介護職に従事していたとき、メイクをすることで高齢者が元気になることを体験。43才のときに一念発起して美容師免許を取得。勤務先で「美容プロジェクト」を立ち上げ、利用者にメイクやネイルの施術を施すイベントを多数開催。同年、プロジェクトをもっと大きくするために、ケアマネージャーの資格も取得。さらに、利用者からメイクした姿を写真に残したいというリクエストを叶えるため、アートディレクター兼フォトグラファーの西本和民さんに師事し、本格的に写真の勉強を始める。勤務先の介護施設で係長に就任するが、副業が認められず独立。介護施設や個人宅に出張してメイクと撮影をする(株)ソーシャルビューティーフォトを立ち上げる。

ホームページ

インスタグラム:@parfait521

「すごくいい仕事だから、ぜひやるべき」という恩師の助言に、「そっか!」と独立

モデルさんと画像をチェックする山田さん。

――美容プロジェクトが益々充実する中、なぜ高齢者施設を辞めることになったのでしょうか?

副業で写真を仕事にしたかったのですが、副業禁止だったので、48才のときに16年間やってきた介護の仕事を辞めることにしました。

――なぜカメラマンに?

高齢者の方がきれいになると写真を撮りたくなるので、自己流ですが、一眼レフで撮ってはいたんですね。ある日、たまたまテレビで見た西本喜美子さんに衝撃を受けて。西本さんは、95才のおばあちゃんなんですが、フォロワー数31万人のインスタグラマー。自撮りしてフォトショップで加工した画像がファンキーで。当時ケアマネージャーとして、この方がなぜこんなにユニークでいられるのか。95才で写真を撮ったり、動画編集ソフトが使えるのはなぜなのか? そのマインドを知りたいと思ったんです。施設の高齢者の方に、こういう人がいるんだから、皆さんもまだまだいろんなことができますよということを伝えたかったんですよね。

――その後はどんなアクションを?

調べていくうちに、西本さんの息子さんがチャゲ&飛鳥やB’zのジャケットを手掛けるアートディレクター兼フォトグラファーの西本和民さんという方で、喜美子さんは和民さんが運営する写真塾「遊美塾」の塾生だとういうことが分かりました。ここでまたわたしの悪い癖が出て、何も考えずにネットで即入塾申し込みをしたんですが、そこが熊本だということを、後で知ることに。

後日、東京にも「遊美塾」ができることになり、そこで写真を勉強し始めました。ストロボを使うときれいに撮れることを知って、「ストロボセットがあれば、美容プロジェクトのイベントもさらに喜ばれますよ」と施設にプレゼンしたら、買ってくれちゃったんです。そのとき、講座を一回受けただけだったので、まだちゃんと使えなかったんですよ。でも、1ヶ月以内にイベントの日程も決まってしまい、これはヤバいと思って、とりあえず熊本に飛びました

――フットワーク軽すぎですね。

モデルさんの位置からストロボまでの距離は何歩、この設定で、こうやれば大丈夫と和民さんに一から教わり、それを全部動画に撮って、イベント当日は動画を見ながらセッティング。そしたらすごくきれいに撮れちゃったんです。それで、わたし勘違いしちゃったんですよね

――イケると?

そうなんです(笑)。無謀にもできるんじゃない?と思っちゃったんですよ。さらに、「真由美ちゃん介護ができて、メイクができて、写真が撮れたら、それ仕事になるんじゃない?」と写真仲間に言われて。カメラマンってすごい専門職だし、全然キャリアもないわたしには無理だろうなと思いつつも、和民さんに「無理ですよね?」と相談したら、「すごくいい仕事だから、ぜひやるべき」と言われて、「そっか!」と思って独立することにしました

夜勤専任の介護職に就きながら、昼間は写真の仕事を

「人のご縁を大事に、まわりに助けていただいて現在のわたしがいます」。

――「そっか!」って独立できる山田さんのマインドがやっぱりすごいと思います。すぐに会社を設立したのですか?

いえ、施設を辞めた後、派遣で夜勤専任の介護の仕事をしながら、昼間に営業含めた写真の仕事をする生活を半年くらい続けました。本当にバカだなと思うんですけど、そうすると寝る時間がないんですよ。当時すでに49才。体調が本当にキツいなと思っていたわたしを見かねたOL時代の同僚が、介護施設のコンサルをやっている方を紹介してくれました。

その方の紹介で介護施設に営業に行くのですが、個人事業主だと法人との契約が難しいんですよね。その方が、わたしの展望を聞いてくださり、それだったら会社を作ったほうがいいと助言をくれ、(株)ソーシャルビューティーフォトを立ち上げることになりました。この方が現在の会長です。

――会社の運営はスムーズにいったのですか?

会社を立ち上げたのが2020年の1月。翌2月にコロナで人に会えなくなってしまって。どうにも動けないときに、日本郵便の終活紹介サービスに業務提携していただけることになったんです。介護施設の紹介、お墓の相談、自分史作成などコンテンツのひとつとして「出張写真撮影」を組み入れていただきました。

――現在、終活紹介サービスがメインのお仕事ですか?

それ以外に、郵便局での撮影会もやっています。土日郵便局がお休みのときに、郵便局を貸していただき、家族写真を撮影しています。先日Yahooニュースにも取り上げていただきました。

通算40回を超える郵便局での撮影会。

今日一日が楽しかった、生きていてよかったと思える日を提供したい

94才とは思えない艶やかな表情のおばあちゃん。

――介護×美容×写真、まさに多様性のある働き方ですよね。

この仕事は、メイクや写真を提供するのではなく、時間を提供する仕事だと思っています。ふだん話し相手がいない方も多いので、メイクをしながらいろんな話をする過程で高齢者の方が元気になっていくのを見ると本当に嬉しいんです。メイクをして写真を撮った今日一日が楽しかった、生きていてよかったと思える日を提供したい。いい写真を撮らなくちゃという気持ちはもちろんあるのですが、それよりも先に楽しませたい、エンターテインメントの部分を優先させたい。

――その結果として写真があるのですね。

自分の予想以上に写真がきれいで泣いてくれるおばあちゃんもいます。ご家族から、「翌日から元気になっちゃって、いままでデイサービスに行きたがらなかったのに行くようになってケアプランを変更したんです」とか、「認知症のおばあちゃんが、元気な頃の自分を思い出すように写真を見ているんですよ」と後日談を伺うと、心から良かったなと思えます。介護の仕事ももちろん楽しくて、ありがとうと言われるんだけど、ありがとう=ごめんね(こんなことさせて)なんですよね。それが、嬉しいありがとうに変わるんですよ。

撮影では、必ず家族と一緒の写真も撮るようにしているそう。

――写真があることで、元気になれるパワーが持続するんですね。

そうなんです。当日はもちろんメイクで元気になれるんですが、写真があることで二度楽しめる。パワーが持続するんです。「笑顔でいよう。メイクしてみよう」と思うためには、スマホの画面よりも、やっぱり紙がいい。元気なうちから飾っておいて、遺影としても「あのとき、こんなだったね」と楽しかった時間を思い出していただけます。

――シニア撮影カメラマン養成講座を開講されていますよね。

わたし自身、50年以上生きてきて、こんなにいい仕事はないと思うくらいすごく幸せなんです。特別な才能もカメラのキャリアもあるわけじゃないけど、50才でこの仕事を始めて、こんなに楽しんでるんだから、美容師やヘアメイク、介護の仕事をしている方が、写真をプラスすることでもっと喜んでもらえると思うんですよ。そんな同じ思いで働いてくれる人を増やしたくて、講座を開催しています。同世代の方にもどんどんチャレンジしてほしいです。

――最後に今後の展開を教えてください。

将来的には、楽しみが少ない過疎地に出向いて、撮影イベントをやりたいです。家族もみんな都会に出てしまって、ひとりで暮らしているおばあちゃんのところに行って、女としての喜びみたいなものを提供したい。それがいちばんやりたいことです。

山田さんが多様性のある仕事スタイルを確立できた理由は

1.自分自身、この仕事を心から楽しんでいる。

2.人とのご縁を大事にしてきた。

3.まずは行動してみる。それでうまくいかなかったらそのときに考えればいい。

長年の介護職のキャリアを活かし、「高齢者と美容を写真でつなげる」多様性のある仕事スタイルを構築した山田さん。40代になってから美容師免許を取得し、写真の腕を磨くため、著名なアートディレクターに直談判し熊本に飛ぶ。桁外れの行動力について尋ねると、「ご飯が食べられて健康であれば、それ以上は求めていない。細かいことをあまり考えない分、悩まないのかもしれない。うまくいかなくなったときに考えればいい」と答えてくれました。あまり考え過ぎず、動いてみる。必要なことかもしれませんね。

取材・文/永瀬紀子

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