「髪育®」を開発することで「趣味美容師®」という生き方が成立 宇留間祐介さん♯1
鎌倉駅からほど近い場所に、ひとりサロン「URUMA」を経営する宇留間祐介さん。夢にまで見たスタイリストデビューの前日、「ACQUA」を退職した宇留間さんは、その後さまざまな業務形態の15店舗を経験。シャンプーから仕上げまでをひとりで手がけたいという強い意志を実現するため、ひとりサロンを開業します。
しかし、過労がたたりサロンで倒れてしまいます。そこから働き方改革をスタートし、家族との時間を楽しみ、週休3日を実現するため、「趣味美容師®」を目指します。カットでお代をもらわない 「趣味美容師®」という生き方とは? 「趣味美容師®」を成立させた「髪育®」とは?
お話を伺ったのは
URUMA代表
宇留間祐介さん
早見芸術学園を卒業後、「ACQUA」入社。その後、原宿・表参道・代官山・青山・銀座・横浜・湘南とさまざまな形態のサロンワークを経験した後、ひとりサロン「URUMA」を鎌倉にオープン。パーマやカラーのダメージから髪を守り、髪を育て日本を元気にする「髪育®」メソッドを構築。忙しいひとりサロンママ美容師のための「髪育専門士®養成講座」主宰。一般社団法人「髪育JAPAN®協会」代表。「趣味美容師®」を名乗る。小4・小6ふたりの男児のパパでもある。
シャンプーから仕上げまですべて自分で手がけたいと29才でサロンを開業
――宇留間さんは、おじいさまが理容師だったそうですね。
はい。床屋を営んでいた祖父への憧れから、高校卒業後、理容学校に入学しました。でも、刈り上げ練習の段階で挫折し、1ヶ月で理容学校を中退。その後、美容室帰りの当時の彼女がすごくかわいくなったのを目の当たりにして、自分がやりたかったのは理容師ではなく美容師だったんだということに気づき、美容学校に入り直します。その2年後、憧れの「ACQUA」に入社しました。
――当時は、カリスマ美容師ブーム真っ只中ですよね。
はい。綾野小路竹千代さん(カリスマ美容師・2022年没)に憧れて、綾小路さんみたいな生き方をしたいと思いながら、誰よりも練習を重ねる日々でした。でも、明日スタイリストデビューという日に、辞めてしまったんです。その日を夢見て、ひたすらがんばってきたのに。お客様がつかなかったらどうしようというプレッシャーから、違うことがしたいとか散々言い訳をして逃げ出してしまったんです。ACQUAを辞めてからは、先輩のサロン、面貸しサロン、大手チェーン、地元のご夫婦のサロンなど15店舗を転々としました。
結果的に、この5年間で美容業界のすべての働き方を経験することに。さまざまなサロンを経験する中、シャンプーの仕方やマッサージのタイミングひとつとっても、それぞれのやり方がある。やっぱり、シャンプーから仕上げまですべて自分で手がけたいという思いが強くなり、29才のときにひとりサロンを開業しました。
――ついに、ひとりサロン開業ですね。
好きなものだけを置いて、自分の好きなやり方で、いわば自分の城となったサロンには、ストレスなんてありません。家族が増え、売り上げを増やすために、24時まで営業時間を延長し、一日18時間以上サロンにいるような日々を過ごしました。でも、オープンから数年後、過労のためサロンで倒れてしまうんですよね。これをきっかけに、働き方を見直すことになります。
髪を育てることで、自分らしさを育てる。それが「髪育®」
――どんなふうに働き方を見直したのですか?
僕の美容師としての目標は、祖父と同じように100才までハサミを持つこと。でも、営業時間を延ばすやり方ではそこに到達できないことに気づいたんです。もっと違う働き方はないかと模索しているときに見つけたのが、あるサーファーの方のサイトでした。パソコン一台で月収30万円、ノマドの走りですよね。サロンという場所に依存していた僕にとって、それはすごく魅力的で新鮮な世界観でした。
それまでは、生きるために美容師をしていたんですよね。美容師という仕事を通して、どう生きていくかが明確じゃなかった。そこから、どう働くかではなく、どう生きるかを考えるようになり、家族との時間を楽しめる生き方をしたい。週休3日で美容師をしたいというスタイルが見えてきました。そこから生まれたのが、「趣味美容師®」というワードです。
――「趣味美容師®」について詳しく教えてください。
一言で言うと、僕の生き方です。どんな生き方をしているの?と問われたときに、僕は「100才まで『趣味美容師®』という生き方を目指します」と答えています。ドライブ、キャンプなど趣味にはいろいろありますが、それでマネタイズしないことが趣味の大前提だと僕は定義したんです。僕はなにをしているのが好きなのか。やっぱり切っていたいんですよね。僕は、美容師の本文はヘアデザイン、ヘアデザインの本文はカットだと思っています。ということは、カットでマネタイズしないのが「趣味美容師®」。現在、カットで7700円いただいていますが、それをいただかない生き方をしたい。これが「趣味美容師®」ということです。
――カットでお代をいただかないようにするには、別の収益が必要になりますよね。
そうです。「趣味美容師®」という生き方をするためには、ヘアデザインやカット以外のところで美容師の価値を見出す必要性があります。そこで、長く担当させていただいていたお客様のお悩みを解決するために生まれたのが「髪育®」です。以前から、ボリュームが出ない、髪の毛がパさつくなどの声が多く、実はカラーやパーマは、髪の本質を隠してしまうものだということに着目しました。美容師の使命は、お客様をきれいにすることではなく、お客さま自身がもともと持っている自分らしさや美しさに気づいて、自分自身できれいになっていくのをサポートすること。髪を育てることで、自分らしさを育てる。これが「髪育®」です。
「髪育®」は、1年間かけて髪を育てていくのをサポートするコースで、髪育®コースのお客様にはカットをプレゼントしています。この時点で「趣味美容師®」という生き方が成立したんです。
――「髪育®」が生まれたことで、「趣味美容師®」という生き方が存在しているのですね。「髪育®」を構築するまでは大変でしたか?
そうですね。2012年くらいから育毛に着目し始めて、「髪育®」というご提案をし始めたのが2019年。2022年に一般社団法人「髪育JAPAN®」を立ち上げたので、足掛け10年です。昨年から、「髪育専門士®」という資格を発足し、全国にいる僕と同じひとりサロン美容師の方向けに講座を開講しています。
美容師の地位を上げるために、ヘアデザインの枠を飛び越える
――宇留間さんは、美容師全体の地位を上げるためにも、「髪育®」の必要性を発信されていますね。
いまの集客の王道は、インスタに流行のヘアスタイルをアップして、その髪形にしたい人を獲得するスタイルですよね。でも、僕はそれを一回もしたことがないんです。なぜなら、流行は流れていくものだから。
いまは、動画を通してどこでも学べる時代です。その結果、美容師の平均レベルは上がりました。でも、美容師の相対的な価値は下がるということですよね。美容師が1000人いたとしたら、カリスマ美容師と呼ばれるのはそのうちのたった数人だけ。美容師全体の地位を上げようと思ったら、ヘアデザインの外側に出ないといけないんです。デザインに必要な髪の毛をつくる、頭皮環境から整えていく。目の前にいるお客様のお悩みを根本的に解決すること、それがこれからの美容師に求められる「髪育®」という生き方のご提案であり、美容師の新たな価値と可能性なんです。
宇留間さんが「髪育®」を開発するまでの経緯
1.すべて自分で手がけたくて、まずはひとりサロンを開業
2.カットでお代をもらわない「趣味美容師®」を目指す
3. 「趣味美容師®」という生き方を実現するため、「髪育®」を開発
後編では、「髪育®」を導入した美容師のメリット、なぜママ美容師向けの発信が多いのかについてお伺いします。
取材・文/永瀬紀子