美容部員から転身した理由は、表現としてのメイクをもっと追求したかったから 私の履歴書 【メイクアップアーティスト Keiさん】#1
可愛らしい雰囲気にもクールな印象にもなれるメイクアップは、まるで魔法のよう。その技術は今や性別の壁を越え、メイクによる思い思いの変身を楽しむ人々が増えました。
今回お話いただいた若手の男性メイクアップアーティスト・Keiさんもその一人。特に韓国のエッセンスを盛り込んだメイクやクールなテイストを得意としつつ、メンズメイクもこなす多彩さを武器に、多方面で幅広く活躍しています。
ミディアムウルフのヘアスタイルとメイクによる陰影の際立つビジュアルが印象的なKeiさんですが、一体どのような経緯でヘアメイクの世界に足を踏み入れ、今のスタイルを確立することになったのでしょうか。
前編では、Keiさんご自身の背景から始まり、メイクアップアーティストとして独立を決意するまでを伺いました。
KEI’S PROFILE
- お名前
- Kei
- 出身地
- 沖縄県沖縄市
- 年齢
- 29歳(2024年9月時点)
- 出身学校
- 宇都宮大学 国際学部
- 憧れの人
- 「憧れの人とは少しズレるかもしれませんが、小田切ヒロさんのメイクの技術を特にリスペクトしています」
- プライベートの過ごし方
- 「飲みの“場”が好きで、友人や仕事先の人と飲みに行くことが多いです」
- 趣味・ハマっていること
- 「国内外問わず、旅行に行くのは好きですね。また、僕の場合はやっぱりメイクが好きで“メイク=趣味”のような部分があるので、メイクに関するHow Toなどの情報収集も常にやっています」
- 仕事道具へのこだわりがあれば
- 「可能な限り、ハイブランドのコスメを揃えるようにしています! 僕のメイク道具を見て、モデルさんやタレントさんなどメイクされる側の方々が喜んでくれるんです。美しいものを見てテンションを上げることって大事で、その後の作品作りにも良い影響があるように感じます」
背景にあるのは、留学生やメディアを通じて知った韓国の文化
――Keiさんが、ヘアメイクの世界に興味を持ち、足を踏み入れたきっかけは何だったのでしょうか?
キラキラした華やかな世界が好きで、そんな場所で働きたかったというのが、一番直接的な理由かな。
そしてその背景にあるのは、韓国が好きになったことです。高校生や大学生くらいの頃から、韓国が大好きな友人や、韓国人の留学生と知り合う機会が増えたこともあって、韓国に強い興味を持つようになりました。
また、韓国の男性アーティストグループ「BIGBANG(ビッグバン)」をはじめK-POPもよく聴いていましたね。彼らは男性でもメイクをしていますが、美しさと男らしさが共存していて、ファッショナブルでかっこいいと感じていたんです。
――「韓国が好き」だったのが背景にあるのですね!
高校卒業後は地方の国立大学の国際学部に進学しましたが、学部には留学生が多くいました。韓国人の留学生とも仲良くなって、よく遊んでいましたね。
彼らとの交流を通じてさらに韓国のことを知っていき、その文化や感性にどんどん魅了されていきました。
自身の固定概念を打ち破り、美容部員に。本格的にメイクの世界へ
――進学先は美容系の専門学校ではなく、4年制の大学だったんですね。
そうなんです。当時は、メイクはおろか美容業界の仕事をしようとは、そして実際にすることになるとは夢にも思っていませんでした。
就職活動に際し、企業の合同説明会などにも参加していて、事務職や商社などを中心に企業を見て回っていたとき、大手化粧品会社のブースがたまたま目に入り、気まぐれに覗いてみたんです。思えば、ここが僕の転機でした。
――なぜですか?
大卒の男性が、美容部員としてバリバリ働いているという事実を知ったんです。その瞬間、「これだ!」って、ビビッときました。
それまではやはり心のどこかで、コスメブランドの美容部員は女性の職業だと思っていたのだと思います。しかし、前例をこの目で見て知ったことで、「僕も、美容部員になっていいんだ。美容の世界に入っていいんだ」と、衝撃を受けました。
そこから、僕の就活はガラッとシフトチェンジすることになります。
――どのように変わったのですか?
まず、ほとんど何も知らない状態だったので、化粧品会社やコスメブランドを運営している企業を調べまくりました。そして、聞いたことのあるような大手からそうでないところまで、とにかく片っ端から選考を受けましたね。
急きょ方針転換した就活でしたが、国内の百貨店にもあるコスメブランドに、美容部員として採用してもらうことができました。
――美容業界でのキャリアが、本格的に始まったんですね!
憧れと情熱を胸に飛び込んだ世界は、覚えることがとにかく多くて忙しない日々でした。しかし、自分の好きな世界観を持つ環境で働くのは楽しかったです。
――メイクアップの技術は、美容部員時代に勉強されたのですか?
会社の研修や現場での実務を通して、少しずつ身につけていきました。あとは、自分でメイク動画などを探して観ながら、独学でも研鑽を積みました。
接客も楽しかったな。僕のことを指名して店舗に足を運んでくださる、ファンのようなお客様もいらっしゃいました。
――美容部員としてお客様と接する上で、心掛けていたことはありますか?
実際に自分が思ったことを、なるべく僕らしいテンションのままでお客様にお伝えすることかな。
商品のおすすめだけを紹介することに徹していても最低限成り立つ仕事ではありますが、僕がまず僕らしくあることで、よりお客様に寄り添った接客ができると信じていました。
世界観をプロデュース「する側」へ行きたい。選んだのは、独立
――その後メイクアップアーティストに転身されることになる訳ですが、どういったきっかけがあったのでしょうか?
抽象的な表現になってしまいますが、「プロデュースする側へ行きたい」と思ったからです。そのきっかけは強いて言えば、とあるプロジェクトを追ったテレビ番組を観たことかな。
――どのようなプロジェクトですか?
「Nizi Project」という、韓国の芸能プロダクション「JYPエンターテイメント」と「ソニーミュージック」による日韓合同のオーディション・プロジェクトです。
日本の都市数カ所と海外でグローバルにオーディションを開催し、総合プロデューサーであるパク・ジニョン(J.Y.Park)さんを中心に1つのパフォーマンスグループを創り上げていく企画で、通称「虹プロ」とも呼ばれています。
僕はこのプロジェクトをテレビで観て、とても感動しました。出演者の方々の努力やストーリーももちろん素晴らしいのですが、特に僕に刺さったのは、パフォーマンスグループという1つの世界観を作り上げることで、周囲の人々やグループのパフォーマンスを観た人々をも感動させ、喜びを与えられるという部分。
このように、人やブランドを育てながら新しい表現を創出することで、さらに多くの人々を感動や喜びに巻き込むような「場」をプロデュースしたい、と、強く思うようになっていったんです。
――そのために独立を?
はい。自分の望む世界に行くためには、「憧れられる存在」になる必要があると感じました。そのための僕の武器は何だろうって考えた時に、メイクだなと思ったんです。手に職を持っている人って、かっこいいじゃないですか。こうして僕は、メイクアップアーティストとして独立することを決意します。
美容部員の仕事は、トータルで2年弱くらいやっていたかな。2020年8月、奇しくもコロナ禍の真っ最中に退職届けを出しました。
韓国の文化との出会い、就活時の美容部員という職との出会い、そしてプロデュースのプロジェクトとの出会い…。様々な出会いを経てメイクの世界に飛び込み、自らのやりたいことに対して真摯に道を切り拓いてきたKeiさん。後編では、メイクアップアーティストとしてついに独立を決意したKeiさんの、その後のキャリアや仕事観に迫ります。
撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈