「喜び」があるところに仕事がある。楽しいことをして生きていくのは難しくないはず 私の履歴書 【ヘアメイクアップアーティスト Keiさん】#2
“今”っぽくスタイリッシュでありながら、男女を問わずその人の美しさをグッと引き出すヘアメイクで多彩な活躍を見せる、若手の男性ヘアメイクアップアーティスト・Keiさん。
前編では、韓国に魅せられた学生時代、国内の百貨店にもあるコスメブランドの顔として活躍した美容部員時代。それらを経て、とあるエンターテインメントプロジェクトをきっかけに自身のやりたいことを見つけ、ヘアメイクアップアーティストとして独立を決意するまでをお話いただきました。
後編では、独立後のキャリアに加え、Keiさんの仕事観について伺います。
自身の売りを確立した「メンズメイク検定」との出会い
――コロナ禍真っ最中にヘアメイクアップアーティストとしての独立を決意されましたが、どういった活動から始められたのでしょうか?
現役のメイクアップアーティストに師事したわけでもなく、右も左も分からない状態だったので、まずメンズメイクに絞りました。メイクの技術も引き続き磨き続けていて、当時は自分なりにメンズメイクの研究もしていました。
また、いろんな人と繋がるため、フットワークも軽くしてとにかく動きましたね。
――軌道に乗ったきっかけなどはありましたか?
「メンズメイク検定」を作る事業に、スタッフとして参加したことです。友人伝いに紹介してもらった方からオファーをいただき、検定のテキスト制作などを中心に関わらせていただきました。
メンズメイク検定の事業を通じて、メイクアップアーティストとしての僕の仕事や僕自身のことを多くの人に知ってもらう機会に恵まれたのは、本当にありがたかったです。また、本格的な撮影の現場の空気やオペレーションを実際に体感できたことも、大きな収穫だったな。その後の仕事や作品撮りの現場でも、大いに役立つ経験でした。
実は、北海道・札幌にある美容専門学校には今でも時々講師として呼んでいただき、教えに行っています。
――メンズメイク検定、Keiさんにぴったりですね。
メンズメイク検定の事業でのつながりで仕事が増えていったという実感もありました。また、メンズメイクを自身の売りにもすることができたのは、この実績のおかげでもあると思います。今では、男女問わずモデルやタレントを中心に、オフラインのイベント時や動画・スチール撮影時のメイクでお声掛けいただくことが多いですね。
実は、特にこれといった営業活動などもしたことがないんです。みなさんに助けられながら、ここまでやって来られています。
僕は常に「0.7歩先のメイク」を意識しています
――メイクをする上で、Keiさんが大切にしていることは何ですか?
僕は、「0.7歩先のメイク」を常に意識しています。
――「一歩」ではダメなんですか?
あくまで僕の感覚ではありますが、一歩先だと少し行きすぎて、奇抜な印象を与えてしまうことが多いように感じました。それが、0.7歩と少し緩めると「おしゃれ」や「個性」に留まり、一味違った垢抜けた印象になるんです。これが、見た人が憧れを抱くようなビジュアルにつながるんじゃないかな、と思います。
加えて、「力強さや意志の強さ」といったような、自分がメイクで表現したいエッセンスを加えて完成させていきます。
――「0.7歩先」を実現するために、どんなことを心がけていますか?
そのために必要なのが、僕は「流行を取り入れること」だと思っています。今は韓国ライクなビジュアルに勢いがあるので、今の僕のメイクにもその要素が色濃く出ている、といった感じですね。
――メイクをする際に心がけていることに関して、男女による違いはありますか?
ありますよ。男女の魅力の違いをきちんと分析して分ける必要があります。特に男性の場合は彫りを際立たせてきちんとメリハリを出すなど、骨格による陰影を強く意識して作っています。「かっこいい男性とな何だろう?」って考えた末、僕はここに行きつきました。
一方で、女性の場合は、色彩なども活用して女性らしさを引き出せるようなメイクを心がけています。人間の顔は千差万別で同じ顔は2つとないので、よく観察することが大切です。
メイクを通じて、たくさんの「喜び」を生み出したい!
――メイクアップアーティストとして仕事をする上で、Keiさんが目指すところをお聞かせください。
自分がメイクを通して表現したビジュアルを見た人にも、喜んだり楽しんだりしてもらえるような「場」や「空間」を創出すること。メイクを施した人に喜んでもらうのは前提なんです。それを見た人、周りまでも、僕は喜ばせたいと思っています。
――今までで、それを実現できたと思うような出来事はありましたか?
元・某大手事務所の男性アイドルによる、オフラインでのファンイベントの時にそれを実感しました。この時はアイドルの方のヘアメイクを担当したのですが、イベントの後、僕のSNSに彼のファンの方々からたくさんのダイレクトメッセージが届いたんです。
「こんなにかっこよくしてくれてありがとう!」といった、メイクした僕に対する感謝や喜びのメッセージでした。
こんな「場」を、これからもっと増やしていきたいと思っています。
――素敵なエピソードですね。そんなKeiさんの今後の展望は?
2つあります。1つ目は、百貨店にあるようなコスメブランドのルックのメイクを手がけること。個性豊かなコスメブランドが掲げるルックの数々は本当に美しいものばかりで、見るだけでワクワクして気分が上がるじゃないですか。いずれは僕自身も、それに携わりたいと思っています。
そして2つ目は、コスメブランドのクリエイティブディレクターになることです。自分の好きな世界観を形にして、それらを見た人たちに喜びや楽しみ、幸せを与えたい。そのために、僕は今も自分の世界観を発信するべく作品作りを積極的に行っています。
――これから美容業界を目指す方へ、アドバイスをお願いします!
こちらも2つ。まずは、自分が「楽しい」と思うことを続けられるような環境づくり。僕の場合は「ストレスを溜めない」ことを特に意識しています。そのために、好きなものを好きな時に食べて飲む(笑)! これで、僕は頑張れるからです。
仕事をしていたらどこかで必ず訪れる、少し無理しなきゃいけない場面で踏ん張れるような環境を自分で整えてあげることは、大切だと思います。
そして、自分への期待値をもっと下げること。個人的には、今の若い人たちってみんな自分に厳しすぎるように感じます。自分に期待しすぎるせいで、やりたいことを「見つけなきゃいけない」と焦ってしまい、その焦りが、本来楽しいことも楽しめなくさせてしまう。高い目標を掲げるのも大事だけど、目の前のことが疎かになったら元も子もないですよね。
いろんな働き方ができるようになった今の世の中だからこそ、楽しむことややりたいことに対してもっと気負わずにいられたら、道は自然と見つかるんじゃないかな。
――Keiさんにとって、「働く」とは?
「趣味」ですね。いつも「趣味は仕事、すなわち“メイク”」だと答えています。
僕は、いつも楽しいことをしていたいし、楽しいことで生きていきたい。趣味と仕事は分けなくていいと思っています。
「楽しい」って感覚がある世界は、仕事につながると思うんです。人間は「感情」で動きます。楽しいところには「喜び」があり、人間はそれを求めて生きています。喜びとは、「需要」の1つの姿なんです。そして、需要があるところには仕事がある。
「好きなことや楽しいことで生きていく」のは、そんなに難しいことじゃないはずです。
撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈
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